第弐刻 〈鬼門から繋がる世界〉
――ああ、いい加減にしロ。やめてくれ、もう持たなイ。
おれは胸の内で叫んでいた。
大切な人に媒介となってもらって力を使っていた時はまだいい。だが、こうしておれ一人の時に力を使うことは、多大なリスクを伴う。
にもかかわらず、おれはアイツに操られ、性も根も尽き果てるまで力を使い続けられた。
このまま解放されたとしても、おれは瞼ひとつ動かせないだろう。
それだけではない。全ての力を使い果たしてしまえば、おれたちのようなモノは消滅してしまう危険もあった。
腹の中は煮えくり返っているが、それを行動へ転化できないことが非常にもどかしい。
抵抗する力もないまま、おれは傍観に徹する他なかった。
――何が看護婦ダ。あれは化け物だヨ。
嘲笑しながらも、ソレの攻撃を必死にかわす少年を見つめていた。
おれが応援しているのは少年の方だったが、彼は攻撃手段を持っていない。防戦一方では勝ち目などない。
それは少年にもわかっているようで、何とかしてひとまずの退散しようと考えているようだが、暴走する看護婦は止まらない。
そして、おれ同様に体力が底を尽きた少年はその場に倒れ込んでしまった。
――やめロっ!
絶え間なく飛び続ける注射器の間隙に、おれは叫んだ。
しかし、看護婦の動きは止まらない。
目を覆うこともできないおれは、その光景を目に焼き付けることしかできなかった。
おれの中に罪悪感が込み上げる。だが、看護婦は思いもかけない行動に移っていた。
床に倒れ伏した少年には目もくれず、狂ったように正面方向に注射器を投げつけ続けているのだ。
――これは一体どういうことダ?
おれは混乱した。さっきまでほぼ正確に少年を追っていたはずなのに、何が起こったというのだろう。少年も看護婦の奇行には眉を寄せている。
それも束の間、少年は今だとばかりに看護婦の足に飛び掛かった。
その瞬間、少年の体は看護婦の足をすり抜けて床に滑り込む形となる。固唾を飲んで見守っていると、急に激しい頭痛と眩暈、耳鳴りに襲われた。
――駄目だ、意識を保つことが……、でき、な……イ……。
おれの視界に最後に映ったのは、乱れて消える看護婦の姿だった。