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十刻ノ月  作者: 牧田紗矢乃
壱ノ日
4/50

第肆刻 〈電柱の陰に居たのは〉





「隠れてないで出ておいでよ」


 黎は電柱の陰に居るその人影に声をかけた。

 声を掛けられた少女は、ビクリと肩を震わせてゆっくりと顔をこちらへ向ける。

 その顔は美しく整っていて、赤く潤んだ瞳がいたいけだ。


「あ……あのっ、私のこと、視えるんですか?」


 涙を拭うと、少女はゆっくりと立ち上がる。

 風を纏ったスカートが、ふわりと広がった。その少女からは、噂に聞くような悪意など微塵も感じられない。


 本当にコレがそうなのか?


 黎は一瞬自分の目を疑った。しかし、伝え聞いていた特徴の全てがこの少女に当てはまる。

 頬に残る涙の後は、夕焼けの光をほんのりと反射して一層悲壮さを感じさせる。


「キミの名前は?」

「えっと……」


 黎が問いかけると、少女が困ったように眉を寄せた。


「分からない?」

「……はい。何だか、靄がかかってるみたい」


 ぽつり、と漏らした彼女に、黎は曖昧な返事をする。

 こういう状況に陥りやすいのは、長い間彷徨っているモノや“成りたて”のモノだ。

 少女はそのどちらでもあるようで、どちらでもないようだった。


 正確な判断がつかないうちは今後の対応も決めかねる。

 彼女に関する情報を得るため、黎は更なる質問を投げかけた。


「じゃあ、キミは自分がどんな存在か知っているかな?」

「へっ?」


 可愛いなりをしているからと下手(したて)に出れば、思わぬ抵抗をされる危険がある。

 あくまでも、高圧的に。それがこういうモノと対峙する時の心構えだ。たとえ相手がどんなに大人しそうでも、どんなに可愛らしくても、そこは変えてはならない。それが掟だ。

 黎は師から常日頃そのように言って聞かされていた。


「キミは自分が死んだことに気付いているかって聞いてるんだよ」


 柔らかな語調とは裏腹に、凍てつくような無表情。

 そこからはどんな感情も読み取れなかった。


 戸惑った様子の少女に、黎は確信する。


 ――彼女は自分が死んだ事実をおぼろげにしか認識していない。


 それでは話が始まらない。となれば、彼女がここにいる理由を聞き出すのが先か。


「質問を変えよう。キミは、どうして泣いていたの?」

「それはっ……」


 少女は口を開きかけて、考えを改めたように再び口を閉じてしまった。


「いいよ、話して」


 黎が促すと、少女は恐る恐る話し始めた。

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