第玖刻 〈待っている少女〉
夜。
アナタからも賛同と勇気をもらったおれは少年の来訪を待っていた。
早く来てほしいという気持ちと、彼が来ないままで夜が終わってほしいという気持ちが半々で存在している。
普通、まともな思考力を持った人間ならここへは来ないはずだ。
こんなおかしなモノに挑発されて、それにまんまと乗っかる愚か者など、ほんの一握りの『実力者』とただの興味本位の野次馬共くらいだろう。
おれが見る限り、あの少年はそのどちらでもなさそうだった。――つまり、彼は来ない。
絶望を鼻で笑って、街路灯に照らされる住宅街に目を向けた。
いつもと変わらず、人々がおれたちを無視して通り過ぎていく。その中に、少年の姿はない。
安堵すると共に、悲しくもなった。
――……と、向こうから浮かない足取りで歩いてくる人物が見える。
そのシルエットには見覚えがあった。待ち望んだあの少年だ。
おれは、恋に落ちた生娘のようにとっさに姿を隠してしまった。跳ねる心臓を押さえて、ゆっくりと彼に近づく。
「けひひ。来たネ?」
おれは興奮のあまり、知らず知らずのうちに彼を驚かせてしまったらしい。少年はびくりと肩を揺らして立ち止まった。
そこからは、もう既におれの意思は関係なくなっていた。
先ほどと同じく彼を挑発し、嗤う。
衝撃を感じて目を向ければ、おれは少年に組み敷かれていた。ずきりと痛む頭は、彼に蹴られたらしい。
自分の力が何者かによって引き出されて暴走を始めるのが分かる。
――やめろ、止まれ!
力の限り体を抑えようとするが、それをも上回る力で操られる。
制御を失ったエネルギーのせいで、周囲の電気系統は概ねショートしてしまったようだ。
辺りは完全なる闇に包まれた。