第捌刻 〈ダレの内臓か〉
私の体は、いつの間にか自由を失っていた。
いつの間にか、私ではない何者かに体を支配されていた。
しかし、不思議と恐怖は感じなかった。
私の中の“彼”が、突然出会った男の子に戸惑った私を助けてくれたのだろう。そうだとばかり思い、信じていた。
けれど、私の予想は簡単に裏切られる。
“彼”は男の子をなじり、挑発した。止めようにも、奥に押し込まれた私にそのような力はない。
――“彼”も、いつもこうだったのだろうか。こうして、いつも傍観するしかなかったのだろうか。
関係のないことが頭をよぎった。その考えを振り払うよりも前に、男の子の姿が視界から消える。
――どうしてあんなことをしたの!?
私は問いかけようとした。
その時、“彼”の思考が私の中に流れ込んできた。
焦燥、混乱、畏怖。
不穏なものばかりだ。
『もしかして、貴方も……』
呟く声は、音にならない。それでも“彼”は気づいてくれた。
「そうですヨ。すみませン、勝手なことしテ」
いつになく固いその口調が、“彼”の心情をそのまま表しているようでもある。
『……でも、どうして?』
声なき問いかけに、“彼”の動きが止まった。
心当たりでもあるのだろうか。
「あノ小娘が何かしたに違いなイ」
憎々しげに吐き捨てると、“彼”は地面にどっかりと座りこんだ。
“彼”の怒りが、動転が手に取るように感じられる。
私の感情もこんな風に筒抜けになっていたのだろうか。そうれを思うと途端に恥ずかしくなってしまった。
『あの男の子に頼んでみない?』
「どうやっテです? おれたちのカラダは支配されているんですヨ?」
『うーん……、どうにか隙を見つけられたら……』
それが果てしなく不可能に近い事柄であるのは、同じ器の中にいる私にも理解できている。
それでも、ここから動けない私たちに残された手段はそれくらいしかないように思えたのだ。
「……やっテ、みますカ」
“彼”はフッと息を吐くと、小さく微笑んだ。
きっと、凛々しい面持ちをしているのだろう。客観的にその表情を見ることができないのが残念で仕方なかった。
『これは私たちのカラダだもの。取り返しましょう!』
私も、“彼”に答えて言った。




