第陸刻 〈深夜の電話ボックス〉
おれは、その少年に言ってやりたかった。
おれたちは囚われている、助けてくれ、と。
しかし、アナタと同化したおれに主導権はない。
その、はずだった。
二人の間に交わされる会話を聞き自分の無力をあざ笑っていた時、その声が外へ漏れていることが分かった。
彼女ではなく、おれが喋っている。体も、思うように動かせた。
外界に声で干渉することは最近もあったが、肉体を伴っていたのは遥か昔のことだ。
久方ぶりの感覚に興奮を覚えつつ、おれは妙なことを口走っていた。少年を挑発するような文言ばかりを並べ立てているのだ。
止めようと思っても、制御が効かない。
救世主である彼に金縛りを掛け、仕舞いには夜にここまで出てくるようになどと言っている。アナタが困惑するのが感じ取れたが、おれにもどうしようもなかった。
ようやっと体が自由に動くようになったのに気づいて、おれは逃げるように気配を消す。
今のおれは明らかにおかしい。
どうか、彼がここに来ませんように。彼が来たとしても、すぐにおれたちのおかしさに気付いて逃げ出してくれますように。
神の存在など信じたこともなかったおれは、必死に祈っていた。
それと同時に、むくむくと怒りの念が湧き上がる。
あの小娘に違いない。あいつがおれたちに何かをしたのだ。そして、現在もおれたちを操って何かをしようとしている。
姿かたちがないとはいえ、プライドだけは人一倍高いおれだ。愚弄するなど許せなかった。
何としてもこの支配から抜け出し、この借りを返すのだ。
おれは、そう強く胸に刻みつけた。