第弐刻 〈一緒に遊んだ結末〉
何者かの声に従って瞳を閉ざしてから、どれほどの時間が流れただろう。
そろそろいいのではと思ってゆっくりと目を開くと、そこは見慣れた近所の公園のベンチの上だった。
突然変化した景色に、理解が追いつかない。
――これは、どういうことだろう? いわゆる瞬間移動という奴を実体験したのだろうか。
ワタシは困惑しながら口元に手を当てる。すると、大切なものがない事に気づいた。
「マスクっ……」
あの、学校を模したアトラクション施設に落としてきてしまったらしい。
どうしよう……あれがないと家までの間ワタシの素顔が晒されることになってしまう。
そんな肝心な時に限って、彼の姿はどこにも見当たらなかった。でも、悪戯好きな彼のことだ。もしかしたら近くの茂みに隠れていて、ワタシが困る様子をにやつきながら眺めているのかも知れない。
呼んでも姿を見せないであろう事は想像がついたので、ワタシは俯きながら足早に公園を出る。
ここから家まではそう遠くない。精々歩いて五分程度の距離。人に会うことだって、そんなに滅多にあることでは……。
安心しかけていたワタシの正面から、二つの人影が近付いてくる。まだ若い、高校生くらいの男二人だ。ワタシは極力目を合わせないように気をつけてそっぽを向きながら通り過ぎようとした。
「おい」
すれ違いざま、一方が声をかけてきた。私は内心毒づきながら背中越しに返事をする。
「何?」
「ガキはさっさと帰んな。こんな時間までうろついてっと、補導されんぞ」
冷やかすようなその口調に、むっとしてワタシは振り向いた。
「おっ、美人」
途端に先ほどとは違うほうの男が歓声を上げる。
それも何かの厭味かと訝しんだが、少年たちの表情は偽りとも思えなかった。
「あの……、失礼します」
どうあしらっていいやら分からなかった私は、目を伏せて再び歩き出した。
「ケッ、フられてやんの」
少年が茶化す声が聞こえる。まさか、あれでナンパのつもりだったのだろうか?
妙なこともあるものだと思いながら、通りの角を曲がる。




