第弐刻 〈テレビの砂嵐〉
うつらうつらとしながら勉強をしていたためだろうか。
気がつけば、テレビ画面は砂嵐に変わっていた。
部屋の中は豆電球の淡いオレンジの光にうっすらと照らし出されるばかりだ。
私は眠い目をこすりながら、緩慢な動作でテレビのリモコンに手を伸ばす。
――……あれ?
そこにあるはずのリモコンがない。テーブルの下に落ちたのかと床を覗き見るが、そこにもそれらしき陰は見当たらなかった。
仕方ない、と大きく息をついて立ち上がり、テレビの主電源を切った。
「ん?」
テレビ画面はザーッという耳障りな音を立てたまま、消える事はない。
再度電源に手を伸ばすが、やはり効果は見られない。
「壊れたかなぁ……」
とんとん、と軽く本体を叩きながら壁にかけた時計に目をやる。
時刻は、午前二時を少し回った頃だ。
そこであることに気がつく。
――この時間、普段ならまだ番組をやっているはず。というより、今時砂嵐が流れる局なんて……。
「……ご名答」
私の耳元で低く囁く声がした。
「きゃっ……」
思わず声が漏れてしまう。
一人暮らしのはずの部屋に、自分以外の誰がいるというのだ。
咄嗟に振り向いたが、そこには誰もいない空間が広がっている。
部屋は気味が悪いくらいの静寂に包まれた。
静……、寂?
そんなはずはない。テレビは原因不明の砂嵐を映し出しているのだから……。
そう思いながら視線を戻すと、そこには思わず息を飲むような光景が広がっていた。
テレビ画面が、赤と黒を交互に映し出している。そこに呆然と立ちすくむ私の姿が反射していた。そして、私の背後には……――。
――と、部屋の電気が消えた。
「停電!?」
いや、違う。テレビは相も変わらず赤と黒を明滅させている。
赤、黒、赤、黒。
めまぐるしく変わる画面に、脳細胞が麻痺するような感覚を覚えた。
「や……やめっ……」
目の前の景色を拒絶するように頭を抱え込むが、視界の端には赤の光がついたり消えたりを繰り返している。
「駄目ですヨ、現実から目をそむけては」
けひっと嗤う声がして、次の瞬間、鋭い衝撃に襲われた。