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十刻ノ月  作者: 牧田紗矢乃
弐ノ日
18/50

第捌刻 〈ひとりかくれんぼ〉

 



 彼がいなくなった後、ワタシは息を潜めて部屋の隅に丸まって身を隠していた。

 下手に物音を立てれば、先ほどの謎の人物に勘付かれるかも知れない。まだまだ本調子とは言えないこの体では、逃げきることなど到底できそうになかった。

 思うように体が動かないことと、信頼していた彼に呆気なく見捨てられたこととでワタシの中で怒りが沸々と湧き上がるが、それをぶつける相手さえもいない。


「このままじゃストレスで禿げそう」


 思わずそんなぼやきも漏れるが、もちろんそれを聞いて慰めてくれる人もいないわけで……。

 ただ、彼の言い残した『そんなに隙だらけじゃ、襲われちゃうよ?』という言葉だけが嫌に頭に木霊する。

 やり場のない怒りもさることながら、不安までもワタシを苦しめるのか。

 彼に会ったらしっかりと言ってやらなければいけない。


 “貴方とはもう、付き合いきれません”と――。


 いくらこれまでの彼が優しかったからと言って、この仕打ちを甘んじて受け入れられるほどワタシの心も広くない。

 例えそれが、ワタシを驚かせるためのサプライズの一環だったとしても、ワタシは彼を許す事はできないだろう。

 こんな所でこんな思いをさせる方が悪いんだと、思い知らせてやればいい。

 ワタシはぐっと唇を噛み、溢れかける涙をこらえた。


 ――いつの間にか、そんなに彼を信頼していたんだ。ワタシのことを守ってくれるだなんて、思ってたんだ。

 だからこそ、今この状況にいることが信じられないし、許せないんだ。


 自分の甘さと弱さが嫌になって、大きく頭を振り回す。


「けひひ……」


 唐突に、甲高い笑い声が聞こえた。


 ――でも、この部屋には何もいないはずじゃ……。


 驚きに顔をこわばらせながら、ワタシは部屋の中を見回した。

 月明かりさえも届かないはずの部屋の中央に、ナニかがいるのがはっきりと見えたが、ワタシはなぜか違和感を覚えることはなかった。ああ、いるな、といった程度の感情しか浮かばなかった。

 ソレはぼんやりと発光していて、輪郭までぼやけてしまっている。大きさは……、猫を一回り大きくしたくらいだろうか。

 笑い声は、部屋の中央にいる四つ足のソレが立てているに違いなかった。


 鳴き声がたまたまヒトの笑い声のように聞こえるのだろうか。それにしては妙に生々しくはないか?


 一抹の不安を残しながら、ワタシは体をソレに向け直した。

 ソレも、紅く輝く瞳でワタシを見据えている。


 ワタシたちは、言葉もなく互いに互いのことを見つめ続けた。


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