第陸刻 〈骨格標本の探しモノ〉
「お前も何か探しているのかネ?」
おれは気紛れで問いかけてみた。
いつの間にか例の電車からも下ろされていて、目の前にあるのは綺麗に直立する骨だけの人間。
答えるはずもないソレに、おれはいつの間にか親近感を感じていた。
骨人間は、がしゃがしゃと骨を鳴らしておれを誘う。
あちらこちらの骨がくっついたり離れたりしていて簡単に崩れてしまいそうに見えるが、案外丈夫なヤツらしい。
「何だイ、おれを案内してくれるのカ?」
髑髏が大きく縦にふれて、危うく床に落ちそうになる。
骨人間は咄嗟に手を伸ばしかけたおれを笑うように、骨をかしゃかしゃと鳴す。
そして、くるりとおれに背を向けると、その骸骨は悠然と歩き出した。
どこかに骨と骨を繋ぐテグスでもあるのかと勘繰ったが、どこから見てもそのような物は見つからない。
普通の人間ならばこれを妖怪変化だと騒ぎ立てるのだろうが、おれは違った。
「不思議なこともあるもんだネ。長く生きるってノも悪かないと思えるヨ」
けひ、と嗤いが漏れ、それに同意するように骸骨がかしゃりと鳴った。
どうやら、おれとコイツは相当に気が合いそうだ。これでおれも孤独とはおさらばできるかも知れない。
そう思うと胸が躍った。
コイツの探しものは、ここで一緒に暮らす仲間だったりしないだろうか。
だとしたら、おれは喜んでそれに立候補するのだけれど。
まあ、そんなに都合のいい世の中じゃないってのは、これまでの経験で痛いほどに知っているけどな。
独り腹の底でぶつぶつ言いながら、向こうが透けて見えるほどに隙間だらけの先導人を眺める。
「オまい、いつからここにいル?」
ひょいと問いかけてみれば、骨人間は両手のひらを天井に向けて肩をすくめて見せた。
普通の人間がやるには支障のないポーズだが、骸骨がやると滑稽に見える。
おれは笑いをこらえながら「そうかイ」と相槌を打った。
下手に嗤って気分を害されちゃ、困るからな。