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十刻ノ月  作者: 牧田紗矢乃
弐ノ日
15/50

第伍刻 〈紅い糸は血の印〉




「いやっ」


 ワタシは反射的に手を振り回した。

 その手はパシ、と乾いた音を立て、手のひらがじんわりと暖かくなる。そのことが、声の主に平手打ちをしたという事実を教えてくれた。


「……ったた。鞠奈、オレだよ、オレ」


 ワタシがはたいた頬を押さえて笑うのは、紛れもないワタシの彼だった。


「……あ、ごめっ……、ん!?」


 安心のためか、ワタシは腰が抜けてその場にへたり込んでしまう。そして、床に座ったまま慌てて頭を下げると、その上に彼の手が置かれた。

 顔を上げれば、彼がしゃがみ込んでワタシのことを覗き込んでいるのが分かる。


 彼の手はワタシの髪をぐしゃぐしゃと掻き回して、そこに置かれた時と同じような唐突さで離れていった。

 何が起こったか分からずに呆然と彼の顔を見つめたワタシに、彼は意地悪い笑顔を向ける。


「そんなに隙だらけじゃ、襲われちゃうよ?」


 くすくすと笑い声を漏らす彼に、ワタシは耳まで赤くなるのを感じた。


 それは、てっきりワタシが彼に襲われるものだと思っていたから。

 でも――。


「……じゃ、オレは行くわ」

「へっ!?」


 もう一度ワタシの頭を撫でた彼は、ワタシのおでこにキスをしてそのまま歩き出してしまった。

 ワタシは慌てて彼に手を伸ばすが、掴むことができたのはズボンの裾。軽く振り払われてしまって、ワタシの手には一本の糸くずだけが残された。


「ちょっ……、待って」


 立ち上がろうにも、腰が抜けてしまっているせいで上手く行かない。ワタシがもがいている間に、彼の手によって扉は閉ざされてしまう。

 そして、あっという間に彼の足音さえも聞こえなくなってしまった。


「……どうなってるの?」


 ワタシは、手の中に残る彼のズボンから出た赤い糸くずに問いかけたが、その問いかけは静かな空間に飲み込まれるばかりだった。

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