第参刻 〈電車の中に居る夢〉
タタン、タタンと音が鳴り、小気味いいリズムが体を揺する。
どのくらい揺られてきたのだろう。もうそれも分からないほどに時間が経った。
自分がどこにいるかも分からない。
誰も坐っていない向かいの席の窓から差し込む西日だけが、現在のおおよその時刻を教えてくれていた。
目を瞑っても、薄いまぶたを通して夕陽が感じられる。
電車の中は嫌に静かだった。
タタン、タタンというレールと車輪が奏でる音以外、何も聞こえない。
子供の泣き声も、疲れたサラリーマンのいびきも何も。時が止まったような静けさだった。
なぜだろう、この電車には自分以外は誰も乗っていないのに違和感がない。
……ああ、そうか。おれは皆と逝き先が違うんだっけ。
おれは独り。いつまでも。
誰か、おれと一緒に来てくれる奴はいないのかな。
……いるわけがないか。
何時間も前から色が変わらないように思われる空を見つめ、静かにため息をついた。
夕陽の色に染め上げられた自分は、血にまみれているようだった。車内も真っ赤。
凄惨だな。
軽く笑おうとしたが、笑い方が思い出せなかった。
この電車には、車掌は愚か運転手だって乗っていないことだろう。
それでも電車は進む。
電気が供給され続ける限り。
ああ、おれは独りきりか。
寂しいもんだな、独りってのは。
ぼやいてみても、聞いてくれる相手がいなければ虚しいだけだった。
わかってはいても、相も変わらずに真っ赤な光を投げかけてくる夕陽に、語りかけてしまう。
おれは独りなんだよ。お前はどうだ?
……そうか。
おれは、ひとりだ――。




