第弐刻 〈追いかけてクルものは〉
「……おはよう」
目を覚ますと、いつもの彼がそこにいた。でも、ここは見知らぬ場所。
「ねえ……、ここはどこなの?」
ワタシの問いかけに、彼は優しく微笑むだけだった。
「ねえ、答えてよ」
「んー……、おれが嫌だって言ったら?」
いつもと違った彼の雰囲気に、一瞬圧倒される。
「なーんてね。ここはちょっとしたテーマパークだよ。廃校風のね」
「大型のオバケ屋敷みたいな?」
「そ。鞠奈は察しがいいね」
そんなことを言いながら、彼はワタシを抱き寄せた。
「ちょっと……」
テーマパークなら、他の人がいるんじゃ……。
そんなワタシの懸念を知ってか知らずか、彼は一層密着してくる。
そこへ、足音が近付いてきた。
やっぱり。
ワタシは彼を押しのけて立ち上がると、何事もなかったかのように歩き出した。
彼の足音も、少し後ろからついてきている。
「ねえ――」
ワタシは呼びかけながら振り向いた。
だが、そこにいたのは――。
「やっ……」
見知らぬ、全身黒ずくめの刃物を持った男。
男だと分かったのは、見上げるほどもある長身と隆々とした筋肉のためだった。
逃げなくちゃ。
本能的にそう思った。
ワタシが駆け出すと、それに続くように男の足音もスピードを上げる。
どこかに隠れて、撒けばいいんだ。でも、どこに……。
視界の端に、少しだけ開いたドアが目に入った。
罠かも知れない。そう思うが、アレに捕まるくらいなら、と考え直してそのドアの隙間に身を滑り込ませた。
男は、ワタシが部屋の中に入ることに気付かず、そのまま扉の前を通過した。
その姿を見送って、ほっと胸を撫で下ろした時だった。
「上出来」
背後で、押し殺した笑い声がした。