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ヴェリタスの定理3:アリシア・ヴェリタス  作者: 王牌リウ
・●第10章:ヴェリタスの天秤4 希望を知る者

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第1話:最期の教育!

完結篇。

前作「君の名を呼ぶ」を読んだほうが良いかも。

https://ncode.syosetu.com/n8833lb/76

チリン、と乾いた音が風に乗って響いた。

獣病院の二階。探偵事務所であったはずの部屋の分厚い遮光カーテンは開け放たれ、外界の光を取り込み、室内は優しく照らされていた。

……だが、そこには誰もいなかった。


「……行っちゃったのね」


扉の前に立ち尽くすナラティブ・ヴェリタスは、がらんどうになった部屋を見つめ、力なく呟いた。

彼女の隣には、リウ・ヴァンクロフトがいる。

そして、その背後には、純白のドレスに身を包んだ国防教育省長官、アリシア・ヴェリタスが静かに佇んでいた。

エラーラ・ヴェリタスは、ふと、姿を消した。


「少し、野暮用でね」


そう言い残して、彼女は白衣を翻し、王都の闇へと溶けていった。

それから一週間。

彼女は帰ってこなかった。

研究所の荷物はすべて消え、彼女の痕跡を示す魔力反応も、王都のセンサーから完全に消失していた。


「……探さないのですか、姉さん」


ナラが振り返る。その瞳は揺れていた。

アリシアは、窓から差し込む陽光に目を細めた。


「探して見つかるような人ではありませんわ。……それに、あの方は今、準備をしているのです」


「準備?」


「ええ。……わたくしの『愛』に対する、あの方なりの『回答』を叩きつけるための」


アリシアの声には、恐怖も焦りもなかった。

ただ、これから訪れる必然の破滅を静かに受け入れる、殉教者のような覚悟だけがあった。


その日の午後。

王都は、歴史上、最も美しく、そして最も残酷な日曜日を迎えていた。

アリシアの「愛の政策」により、街は輝いていた。

メインストリートは清掃が行き届き、花々が咲き乱れている。

行き交う人々は笑顔で挨拶を交わし、かつてスラムで泥水を啜っていた子供たちが、新しい制服を着て学校へ通っている。

貧困による犯罪は消滅した。

病気になれば最新の医療が無償で受けられる。

誰もが「生きる希望」を持ち、明日を信じることができる世界。

それは、アリシアが血の滲むような努力で築き上げた、地上の楽園だった。


「見て、姉さん!あの子たち、あたしが教えた護身術で遊んでる!」


ナラが、広場で駆け回る子供たちを指差してはしゃぐ。

彼女は、不安を振り払うように明るく振る舞っていた。


「ええ。……逞しくなりましたわね」


アリシアが微笑む。


「あたし、この風景が好きだな。……姉さんが作った、この優しい世界が」


ナラが、本音を漏らす。

彼女は戦士だ。痛みを知っている。だからこそ、痛みのないこの平和が、どれほど尊いかを知っている。

その隣で、リウは無言でスケッチブックにペンを走らせていた。

だが、彼女が描いているのは、幸福な街並みではない。

アリシアの横顔だ。

笑顔の裏に隠された、張り詰めた緊張感。

何かを待ち構える、「覚悟」を決めた、冷徹な瞳の奥の光。

リウだけが、気づいていた。

この平和な散歩が、嵐の前の静けさであることを。

その時だった。


突如、街頭に設置された巨大な魔導モニターが一斉にノイズを発した。

カフェのラジオ、通行人が持つ携帯端末、店先のテレビ。

ありとあらゆる「音」と「映像」を伝える媒体が、不快なハウリングと共にジャックされた。

人々が足を止め、ざわめき始める。

ノイズが収束し、モニターに一つの映像が浮かび上がった。

そこは、無機質な白い部屋だった。

中央に、一人の女性が立っている。

白衣を纏った、銀髪の姿。

その瞳は、狂気と理性が極限で混じり合った、冷たい光を放っていた。


『――ごきげんよう、王都の家畜たち。そして、愛すべき我が娘たちよ』


エラーラ・ヴェリタスだった。


「お母様……!?」


ナラが叫ぶ。

エラーラの声は、王都中の空気を震わせた。


『アリシア・ヴェリタス長官の施策により、君たちは痛みから解放された。飢えもなく、恐怖もなく、ただ与えられる餌を食むだけの存在に成り下がった』


エラーラが、画面の向こうで手を広げる。


『だが、生物学的に言えば、それは「死」と同義だ。ストレスなき環境で、進化は起こらない。痛みを知らぬ個体は、脆弱だ。……よって、私はこの世界に「適正な環境」を取り戻すことにした』


彼女が指を鳴らすと、画面が切り替わった。

映し出されたのは、王都の地下深くに設置された、見たこともない巨大な魔導兵器群だった。


『これから24時間以内に、私は王都に対して無差別攻撃を開始する。……これは「選別」だ。私の試練を乗り越え、生き残った者だけが、次なるステージへと進む権利を得る』


人々が悲鳴を上げた。

平和ボケした彼らにとって、それは理解の範疇を超えた悪夢だった。

あの「救国の英雄」エラーラ様が、なぜ?


『さあ、震えろ。逃げ惑え。思考しろ。……生き延びるために、牙を剥け!』


エラーラの高笑いが響く。

それは、アリシアへの明確な宣戦布告だった。

愛による平和を否定し、痛みによる進化を強制する、科学者からの挑戦状。


「ふッざけるな……!なんでだよ!お母様!」


ナラが拳を握りしめる。


「姉さんが……姉さんがどれだけ頑張ってこの街を作ったと思ってるんだ! それを壊すなんて!」


ナラは、今すぐにでも飛び出そうとした。

だが。


「……お待ちになって」


アリシアの静かな声が、ナラの足を止めた。

アリシアは、モニターを見上げたまま、微動だにしていなかった。

驚きも、動揺もない。

ただ、深く、悲しい瞳で、画面の中の母親を見つめていた。


『――なお』


画面の中のエラーラが、余裕の笑みを浮かべて言葉を継いだ。


『もし、この実験の結果が芳しくなければ……私は「リセット」を行うつもりだ。世界を崩壊させ、人類が絶滅寸前まで追い込まれたシミュレーションを見せた後……私の時空魔法で、時間を巻き戻す。私の理論が正しいと世界が納得するまで、何度でも地獄を繰り返す』


人々が息を呑む。

時間を戻す。

それは、エラーラだけが持つ、神の御業。


『そうすれば、君たちも少しは懲りて、平和のありがたみを知るだろう? これは教育だ。アリシア、君にお灸を据えるための、壮大な授業参観なのだよ。誰も死なない。最後には元通りだ。……だから、安心して絶望したまえ!』


エラーラは、「安全圏」からの攻撃を宣言した。

いつものパターンだ。

失敗してもやり直せる。

誰も本当には死なない。

だから、私の遊びに有無を言わずに付き合えと。

それは、あまりにも傲慢で、そしてアリシアの覚悟を侮辱する言葉だった。

その瞬間。

アリシアが、懐から通信機を取り出した。


「今です!」


短く、告げた。

次の瞬間。

画面の中のエラーラの背後で、凄まじい爆発が起きた。

映像が揺れる。


『な、なんだ!?何が起きた!?』


エラーラが初めて狼狽し、後ろを振り返る。

同時に、王都の遙か上空、成層圏に浮かぶ「時空制御衛星クロノス」が、内部からの爆発によって粉々に砕け散る光景が、地上の望遠鏡からも観測された。

モニターの映像が乱れる。

煙の中で、エラーラが叫んでいる。


『クロノスが……破壊された!?セキュリティは完璧なはず……!物理的干渉も魔法的干渉も無効化する絶対防御が……!』


『外部からの攻撃ではありませんわ、おかあさま』


アリシアの声が、ジャックされたはずの放送波に割り込んだ。

街中のスピーカーから、アリシアの冷徹な声が響き渡る。


『貴女が信頼していた「時間管理システム」。……その論理の中に、わたくしが「愛」という名のウイルスを仕込んでおきましたの』


『な……っ!?』


『「時間を巻き戻すことは、今までの成長を否定する行為である」。……貴女の作ったシステムは、貴女の理論に従って、時間遡行を自ら破壊しました。……皮肉ですわね』


アリシアは、空を見上げて微笑んだ。

その笑顔は、かつてないほど美しく、そして残酷だった。


『これで、もう戻せません。なかったことにはできない。貴女は……ただのテロリストです』


アリシアの宣告が、エラーラの心臓を貫く。


『……これからここで死ぬ人は、本当に死にます。貴女が壊す建物は、二度と戻りません。貴女が殺す命は、永遠に失われます。……貴女は、少し、他人の命を弄びすぎたのです』


画面の中のエラーラの顔から、血の気が引いていくのが見えた。

彼女は「実験」のつもりだった。

「シミュレーション」や「ゲーム」のつもりだった。

だが、リセットボタンは永遠に失われた。

アリシアはそれを、引き返せない「現実」に変えたのだ。


『さあ、始めましょうか、エラーラ・ヴェリタス。……貴女の好きな「痛み」とやらを、わたくしの「愛」が討ち滅ぼす様を、その目に焼き付けなさい』


通信が切れた。

モニターは砂嵐になり、やがて元の静かな街頭広告に戻った。

だが、街の空気は一変していた。

「やり直せる実験」から、「後戻りできない戦争」へ。

その重圧が、鉛のように人々にのしかかる。


「……嘘、でしょ……?」


ナラが、膝から崩れ落ちた。


石畳に手をつき、肩を震わせる。


「戻せない……?もう、戻せないの……?」


彼女は知っていた。

エラーラが「最強」でいられたのは、失敗しても自分の都合に応じて時間を戻してやり直せるという傲慢な余裕があったからだ。

だが今、その保険は消えた。


「う、あぁぁぁ……ッ!!」


ナラの口から、慟哭が漏れた。

彼女は、未来の荒野で「取り返しのつかない死」を嫌というほど見てきた。

だからこそ、この時代に来て、平和な家族ごっこに安らぎを感じていたのに。

それが、一番愛する二人の手によって、粉々に破壊された。


「どうしてよぉ……!なんで、こんなことするのよぉ……ッ!」


ナラの涙が、石畳を濡らす。

彼女の心は、引き裂かれていた。

エラーラの傲慢さへの怒り。

アリシアの冷酷さへの絶望。

そして、どちらも止められない自分の無力さへの憎悪。


リウは何も言わず、震えるナラの背中を優しくさすった。

だが。

リウの視線は、ナラには向けられていなかった。

彼女の瞳は、真っ直ぐにアリシアを見つめていた。

そこにあるのは、静かな熱狂。

アリシアは、実の母親から「神の力」を奪い、地上に引きずり下ろした。

世界を守るためには、神殺しをも厭わないその姿勢に、リウの魂は震えるほどに惹かれていた。

たとえ、親友がどれほど泣こうとも。

あたしは、貴女の剣になる。

その決意が、リウの瞳を鋭く輝かせていた。


そして、アリシア。

彼女は、空を見上げていた。

その碧眼には、涙が溜まっていた。

こぼれ落ちそうなほどの、悲しみの涙が。


(……ごめんなさい、おかあさま)


アリシアは、心の中で謝罪した。

貴女を追い込みました。

貴女から逃げ道を奪いました。

これで、貴女は本気でわたくしを殺しに来るでしょう。

そして、わたくしも本気で貴女を討たねばなりません。

「痛みから学ぶ」という貴女の甘えを断ち切るには。貴女に「命の重さ」を教えるには。貴女自身が、命がけの当事者になるしかなかった。


「……行きましょう」


アリシアは、涙を拭わずに踵を返した。


「国防教育省へ戻ります。……総力戦ですわ!」


その声に、迷いはなかった。


・・・・・・・・・・


王都を見下ろす丘の上。

エラーラ・ヴェリタスは、震える声で号令を下した。


「……進みなさい。我が愛しき子供たちよ」


彼女の背後には、異形の軍勢が蠢いている。

合成魔獣キメラ。

獅子の頭に蠍の尾、鋼鉄の皮膚にドラゴンの翼。エラーラがその天才的な頭脳と、狂気じみた生物学の知識を総動員して作り上げた、殺戮のためだけの生態系。

その数、100万。

かつて世界を救った英雄が、今、世界を滅ぼす魔王として立っている。


「う……ううッ……」


エラーラの目から、止めどなく涙が溢れ出していた。

彼女は、本当は理解していたのだ。

自分がやっていることが、狂気であることを。

時間を巻き戻す手段を失った今、この進撃は単なる虐殺であり、自殺行為であることを。

だが、止まれなかった。

……もう、止まれなかった。

止まってしまえば、彼女がこれまで信じ、積み上げてきた「痛みによる進化」という論理が、アリシアの「愛」に完全敗北していたことを認めることになる。

科学者としての矜持。親としての歪んだプライド。

それが、彼女を地獄への行軍へと駆り立てていた。


「行け……!私の正しさを……証明してくれよ……!」


エラーラが指揮棒を振るう。

100万の咆哮が大地を揺るがし、キメラの波濤が王都の防壁へと雪崩れ込んだ。


「――敵性体多数接近! 防衛ライン、接触します!」


王都軍司令部。

巨大な戦況モニターの前で、オペレーターの悲鳴が上がる。

だが、その中心に座るアリシア・ヴェリタスは、優雅に脚を組み、紅茶の香りを愉しんでいた。


「慌てないで。……想定の範囲内ですわ」


アリシアは、モニターを一瞥もしない。

彼女の指示は、すでに全軍に行き渡っている。

最前線。

アリシアによって再編され、最新鋭の魔導装備を与えられた王都軍は、恐怖に震えてはいなかった。

彼らは知っている。自分たちの背後には、絶対的な「愛」があることを。


「撃てぇぇぇぇッ!!」


一斉射撃。

魔導砲の閃光が、押し寄せるキメラの群れを蒸発させる。

だが、敵の数は圧倒的だ。防壁の一部が崩れ、キメラが市街地へと侵入する。

通常ならば、ここでパニックが起き、逃げ惑う群衆が将棋倒しになり、死者の山が築かれるはずだった。

エラーラも、そう計算していたはずだ。「痛みを知らぬ惰弱な民衆は、恐怖の前に無力だ」と。

だが。


「落ち着いて! 第3避難ルートへ!」


「怪我人は優先して中央へ! 動ける者は瓦礫の撤去を!」


「子供と老人はシェルターへ! 私たちが壁になる!」


誰も、自分だけ助かろうとはしなかった。

市民たちは、互いに手を取り合い、声を掛け合い、整然と避難を開始した。

かつてのスラムの荒くれ者が、貴族の老女を背負って走る。

学生たちが即席のバリケードを築き、軍の誘導を補助する。

そこには、「自分さえ助かればいい」という利己主義はなかった。

アリシアが教育によって植え付けた、「隣人を愛し、共に生きる」という魂の強さが、極限状態で開花していたのだ。


『長官!市街地侵入エリア、民間人の避難完了! 死傷者……ゼロです!』


報告が入る。

アリシアは、カップを置き、初めてモニターのエラーラを見据えた。


「……見ましたか……見ましたか!おかあさま!」


アリシアが通信を開く。

戦場の喧騒を切り裂き、彼女の凛とした声が、エラーラの元へ届く。


『貴女は言いましたわね。「痛みを知らぬ者は弱い」と。……ですが、ご覧なさい。わたくしが愛で育てた民衆は、誰一人として死んでいませんわ』


『ぐ……ぅ……!』


画面の向こうで、エラーラが歯噛みする。

アリシアは、冷徹に畳みかけた。


『そして、貴女の自慢の子供たち……そのキメラたちは、どうですの?』


戦場では、キメラたちが次々と駆逐されていた。

彼らは知能がない。ただ本能のままに突撃し、連携のとれた王都軍の集中砲火を浴びて、肉片へと変わっていく。

痛みを感じて暴れ回り、仲間同士でぶつかり合い、無意味に死んでいく。


『彼らは、撃たれて痛いでしょうね。苦しいでしょうね。……教えてくださいまし、大賢者様エラーラ・ヴェリタス。その、討ち滅ぼされる苦しみの中から、彼らは一体……いったい、何を学んだのです?』


『……ッ!?』


エラーラの動きが止まる。


『死ぬ瞬間の激痛から、彼らは進化しましたか? 未来を掴みましたか? ……いいえ。ただ痛くて、ただ苦しくて、無意味にゴミのように死んでいくだけですわ』


アリシアの言葉は、鋭利な刃となってエラーラの論理を解体した。


『貴女は、「痛み」を崇拝するあまり、それが「死」と直結するリスクを見落としている。……生き残ってこそ、学びはある。死んでしまえば、痛みなどただの情報の欠損です。……貴女のやっていることは、教育ではありません。ただの、傲慢な自己満足ですわ』


「黙れ……!黙れぇぇぇッ!!」


エラーラが絶叫する。

図星だった。

彼女は、自分の理論を証明するために、罪のない命を使い捨てにしているだけだった。

愛なき痛みは、虐待でしかない。

アリシアは、静かにため息をついた。

そして、冷ややかに宣告した。


「もう……議論は終わりです。全軍に通達」


アリシアの声が、氷点下の温度を帯びる。


「敵将、エラーラ・ヴェリタスを捕縛せよ。……国家転覆罪、および大量虐殺未遂の現行犯です」


一呼吸置いて、彼女は付け加えた。


「なお、抵抗する場合……殺害も許可します」


「……!」


その命令が下った瞬間。

アリシアの隣に控えていたナラの喉から、獣のような悲鳴が漏れた。


「ね……姉さん……ッ!?」


ナラは、信じられないものを見る目でアリシアを見た。

殺害許可。

実の母親を。

あの、不器用だけど優しかった、自分たちを拾ってくれた恩人を。


「本気なの……?お母様を、殺す気なの……!?」


アリシアは、ナラを見なかった。

モニターの戦況図を見つめたまま、淡々と答える。


「それが、背負う者の義務です」


「ふざけるなッ!!」


ナラが机を叩く。


「お母様は間違ってるかもしれない! でも、殺すことないじゃない! 捕まえて、話して、またみんなで……!」


「話し合いで止まる相手なら、100万の軍勢など連れてきませんわ。……彼女は、死ぬまで止まりません。貴女も、戦士なら分かるはずです」


「分からない!分かりたくないの!」


ナラが泣き叫ぶ。

その肩に、リウの手が伸びた。


「……ナラティブ。落ち着いて。アリシアの判断は、この国を守るための……」


乾いた音が響いた。

ナラが、リウの手を乱暴に払い除けたのだ。


「……触るなァ!」


ナラティブは、親友であるはずのリウを、憎悪の籠もった目で睨みつけた。


「あんたは!私の親友だったのに!その手……。その、姉さんのことしか考えてない、よくわからない手で……あたしに触るなッ!」


「……ッ」


リウが息を呑み、手を引っ込める。

ナラには分かっていた。

リウは、もう、中立ではない。彼女の魂は完全にアリシアに捧げられている。

その冷徹な献身が、今のナラにはたまらなく恐ろしく、そして許せなかった。


「……あたしは、認めない」


ナラは、涙で濡れた顔を上げた。


「姉さんが殺すって言うなら……あたしがお母様を止める!」


「ナラティブ!」


アリシアが初めて声を荒らげる。

だが、ナラは止まらなかった。

彼女は長官室の窓を蹴破り、そのまま外へと飛び出した。

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