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アリシア・ヴェリタス【下書き第3弾】  作者: 王牌リウ
不可能犯罪

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27/51

第1話:不可能犯罪(1)

「魔法」とは、ファンタジーの産物ではない。

脳内で行われる演算による、物理法則への直接介入である。


その夜、王都警察の緊急指令センターにおけるメインモニターが、警告色である赤に染まった。

一本の通報。それが、すべての終わりの始まりだった。


『……助けてくれ! 殺される!』


オペレーターが回線を開くと、ノイズ混じりの悲鳴が飛び込んできた。

声紋解析が即座にIDを特定する。通報者はジュリアン・アークライト。かつて王都検察局のエースと呼ばれ、ある汚職事件をきっかけに失脚した元検事である。


『ナラティブ・ヴェリタスが……目の前にいる! 彼女は、私の脳を焼き切ろうとしている!』


オペレーターが息を呑む。ナラティブ・ヴェリタス。数々の難事件を解決してきた民間探偵の名だ。


『やめなさい! バカなことはやめて!』


通話の向こうから、切羽詰まった女性の叫び声が聞こえる。間違いなくナラティブの声だ。


『うわぁぁぁ!展開するな!やめろナラティブ! 来るな!』


直後。

ヒュゥゥゥ……パァァァン!!

それは、火薬の爆発音ではない。

高密度に圧縮された魔力が臨界点を突破し、大気を内側から食い破る時に生じる、独特の破裂音だった。

通話は、ブツリと切断された。

現場へ急行した機動隊が目にしたのは、無惨な密室だった。

重厚な机に突っ伏し、絶命しているジュリアン。

外傷はない。だが、検死官の携帯端末が異常な数値を弾き出していた。

彼の頭蓋内温度は3000度に達し、脳髄は一瞬にして蒸発していた。

高度火属性魔法『プロメテウスの針』。

脳内の水分分子だけを標的にした、極めて精緻で、残酷な処刑術式。

そして、その遺体の傍らに、一人の女が立ち尽くしていた。

探偵、ナラティブ・ヴェリタス。

彼女は肩で息をし、呆然と自分の両手を見つめていた。

その両掌からは白い煙が上がり、魔力の暴走による余波で、皮膚が赤く焼け焦げていた。


「確保!容疑者を確保せよ!」


警官たちが雪崩れ込む。

ナラは抵抗しなかった。ただ、絶望的な瞳で、焼け焦げた自分の手を見つめていた。


逮捕から6時間後。

王都中央裁判所の特別法廷は、冷ややかな静寂に包まれていた。

傍聴席は満員だ。かつての名探偵が、殺人鬼として裁かれる瞬間を見届けるために、多くの市民とマスコミが詰めかけている。


「被告人、ナラティブ・ヴェリタス」


検察官席に立ったのは、ジュリアンの元部下である鋭利な男、ギルバート検事だった。彼は眼鏡の位置を直し、被告人を冷徹に見下ろした。


「罪状は明白です。第一級殺人。凶器は、魔法。

この国において、魔法とは『世界への演算介入』です。被告人は、被害者ジュリアンに対し、高度殺傷術式『プロメテウスの針』を行使し、殺害しました」


ギルバートは、空中にホログラムの証拠データを展開する。


「動機は過去の因縁。被告人は、かつて被害者の不正を暴きました。今回はその後始末、あるいは私怨によるものでしょう。証拠は三点。第一に、通報記録に残された被害者の最期の言葉。第二に、密室に被告人しかいなかったこと。そして第三に……被告人の両手に残る、魔法行使特有の『魔力熱傷』です」


完璧な論証だった。

ナラは、手枷をされた両手を膝の上に置き、俯いている。

彼女は一言も発しない。


(……言えない……自分の無実を、証明できない……)


ナラは唇を噛み締めた。

彼女の沈黙は、法廷内では「罪の肯定」と受け取られた。

裁判長が木槌に手をかける。

このまま判決へ進むかと思われた、その時。

弁護人席から、凛とした声が響いた。


「異議あり」


法廷の空気が変わる。

そこに立っていたのは、白衣を纏った女性。

その瞳は理性の光で満たされ、口元には不敵な笑みを浮かべている。

王都最高の魔導科学者にして、ナラの母親。

エラーラ・ヴェリタスである。


「検察側の主張には、物理学的にも、音響学的にも、そして『教育学的』にも、看過できない重大な矛盾がある」


「教育学的?……聞き捨てなりませんな」


ギルバート検事が眉をひそめる。

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