表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

夫婦の日常

夫婦の日常 #2 〜 夫のこだわり 〜

作者:

「夫婦の日常」第2作目は、ちょっと頑なとも言える“夫のこだわり”がテーマです。

くすっと笑えて、最後はじんわり温かいーー

陽介と恵の週末のひとコマをお楽しみください。


くすっと笑えて、じんわり温かい週末を一緒に味わっていただけたら嬉しいです。

あなたには、『隣の芝生が青い』と感じたことはありますか?


このお話は、私の夫がまさにそれを体現しているようなエピソードの一つです。

いえ、正確にはーー『隣の芝も青くしよう』というエピソードです。


「今日は掃除と洗濯と、晩ご飯の準備で手一杯。お昼は何か買ってきてほしいからお願い」

そう言って財布から五千円札を渡すと、夫は素直にうなずいた。


「じゃあ買いに行ってくる。何がいい?」「なんでもいいよ。コンビニでもスーパーでも。食べたいもの買ってきて」


具体的なことは言わなかった。それが失敗だった。


しばらくして帰ってきた夫の袋の中には――弁当が二つ、おにぎり二種類×二、サラダも二つ、デザートも二つ、スナック菓子も二袋ずつ、ジュースも2本…2本…二つなどなど。


見事に『同じものを二つずつ』、そして財布の中はほぼ空っぽ。


「あ、おつり」122円渡される。


「……はい。」


外食で良かったかもね。いや、2食分なら…どっちでもいいか。


本人曰く「違うもの買っちゃうと、そっちの方が良かったってなっちゃうからね。」だそうだ。


「……たくさん買ったね」呆れ半分で笑うと、夫はあっけらかんと言った。


「たくさん買ったら、晩ご飯も作らなくていいかと思ったから。今日は立食プーディー!」


「……うん、座って食べようね。」


「5千円あったからね。おやつとかデザート入れての金額だと思ったんだけど。違った?」

 

なんなら、ちょっとやってやった、という得意げな表情。


「ありがとう…」


ツッコミどころは多いけど、諦めることにする。


当然のように同じものを同じだけ、それが彼の信念のようだ。

と考えると、笑いが込み上げてくる。


出会った頃から変わらない。私はどちらかというと、違うものをシェアして食べるみたいな方が好きだけど。


初めてデートで行ったのは、親子丼の美味しいお店。

焼き鳥丼と親子丼がおすすめだった。


「焼き鳥丼にしようかな。。」

「じゃあ、あたしは親子丼にするよ。そしたら…」

「じゃあ、俺も親子丼にするよ。」

「あ、え?好きなの食べればいいのに。」

「親子丼て美味しいよね。」


爽やかに答える彼に、「うん」それしか言葉は出なかった。


彼は不思議なことに、私と同じものを欲しがることが多い。

そういう時、驚かされることがある。


「私この八橋買おうかな。美味しそう。」

「じゃあ俺の分も買っておいて〜」

そしていざ実食。八橋を。

「うぁぁぁ、ダァめだこれー」

「え?何が?普通の八橋の味だけど。」

「いや、八橋って嫌いなんだよね。」


えぇーーーですよねぇ!?となることはよくある。

注文するものを合わせるだけでは満足せず、嫌いなものへの挑戦までして見せるのだ。


どうやら彼は、シナモンとかハチミツとかちょっとクセのある匂いや風味が強い食べ物が苦手。

買うたびに、食べるたびに『嫌いだよね?』『本当に大丈夫?』と聞く。


すると、当然のことのように、


「なんかイケると思うんだよね。」


と、またチャレンジする。



その理由について夫に聞いてみたことがある。


「陽介はさぁ、なんで嫌いなのに何度も食べようとするの?」


「………」


自分の襟足の辺りの髪をいじりながらじっと何かを見つめている。

夫が何か考え事をしている時のポーズ。


『考える夫』というタイトルがぴったり。


「考えてるの?」


静かに頷く夫。


この間は夫のよくある行動の一つ。私もわかってるけど、

なんか声をかけちゃう。


無視されているかと勘違いする程度には、この間が長いのです。


待っている間に、用を済ませようと動き出した瞬間、夫が話し始める。


「恵が昔トマトとかウニとか好きじゃなかったのに、チャレンジして食べれるようになってたでしょ。そうやって味覚が変わってるかもしれないから。大人になると子供の時嫌いでも食べたらイケるとかあるから。」


なるほど…まぁ、納得できないことも…ないけど。


「損しちゃうもんね。」

好きになれるかもしれないし。


「何を?いや、うん。そうだね。」


夫曰く私も時々、何を言ってるかわからないらしい。

そういう時は聞き流してるみたいなので、私もわかってもらってないと

わかっていても、知らないふりをする。


彼はいつも自分が変われるかもしれないと思っている。

もちろん食べ物の好き嫌いに限らず。


大人になると人はみんな、もう今更変わらないと諦めてしまうけど。

私と夫は、変わるかもしれない。という気持ちを失わない。


それは、私たち夫婦が自然と分かち合えている、唯一の気持ちなのかもしれない。

そのことに気づいた瞬間、胸の奥にじんわり安心感が広がる。


あ、ホットケーキのメイプルサンドかぁ…これはハチミツより苦手なんじゃないのかな。


「これもいける?」

「恵が好きそうかと思って。」

「私はね…」

「まぁ、チャレンジしてみるよ」


「……そっか。パーティーだもんね。」

「祭りだね?食べよう。」


だからこうして失敗しても、いつか変われるだろうと信じられる。

一緒にいたら、諦めずにいられる気がする。


買ってきた弁当やデザートを並べながら、二人で笑った。不器用でも、ちゃんとお互いを思っている。


それを確かめ合うみたいに。


今週も、楽しい週末です。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

「夫婦の日常」2作目、お楽しみいただけましたでしょうか。


感想やリアクション、読んで感じたことなどをいただけたらとても嬉しいです。


ちょっとおかしくて、じんわり温かいーー

陽介と恵の時間を、またお届けしていきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ