初めての戦闘・理想と現実
「先手必勝!」
修斗の声と共にボッシュっと音がなり、ダンジョンの床に水柱が線を引きジャイアントラットを分断した。
「グハッ!」
スキルの使用を禁止されているのに、躊躇う事なくスキルを使った修斗に驚き、ジャイアントラットから目を離してしまった事により、腹部に体当たりをくらってしまた俺は、痛みと衝撃でタタラを踏むが、なんとか体勢を立て直すとバックステップでジャイアントラットから距離を取ると、槍を構え直し大きく息を吐いた。
(落ち着け!耐えられない痛みじゃない!)
キシャーっと威嚇するジャイアントラットに気圧されないように気合いを入れて腰を落とす。
「かかってこい!」
言葉を理解しているのかわからないが、俺の言葉を合図に威嚇していたジャイアントラットが大きく口を開け飛びかかってきた。
(それは悪手だ!)
慣れない槍で突き刺すなんて事はせずに、半円を描くように石突をかち上げると、狙い通りジャイアントラットの顎を捉え、吹っ飛ばした。
鈍い音を立て2メートル程吹っ飛んだジャイアントラットを追いかけ、すぐに穂先を突き刺すとギャギャっという断末魔を残して、ジャイアントラットは黒い塵となり消えていった。
(くそっ!嫌な感触だ…)
手に残る肉を裂く感触と、ドッドッドと心臓の音が耳に響く。モンスターとはいえ初めて生き物を殺した事実に揺らぐ感情を抑えようと、深く息を吐いた。
「良くやったわ。はじめてにしては上出来だったわよ。あっちもそろそろ終わるみたいね」
宮前の言葉で修斗がまだ戦っていたことを思い出し様子を窺うと、二匹めを仕留めて塵に返したところだった。
「あれ~?ヒナタの方が先に終わってたか~。やっぱりいきなり二匹を相手にするのは大変だったよ~」
手にしていてた槍を背に収めながら軽い口調で戻ってきた修斗は、宮前に向き合うと勢いよく頭を下げた。
「勝手にスキルを使ってスイマセンでした」
「いや、いい判断だったわ。そもそもスキルを使わせないと言ったのは、スキルに頼り切った戦闘になるのをさせないためだったからで、貴方は敵を分断したときだけしか使ってなかったし、あの時分断したのはいい判断だった。貴方は大丈夫だったかもしれないけど、お友達はそうでもなかったみたいだし…」
彼女の言葉に頭を上げた修斗は褒められたことに少し照れくさそうにしているが、俺は肩身が狭い…。上手くいったとはいいがたいうえに、命のやりとりをしている時に相手から目を離すミスをしてしまった。
「その様子なら私がアドバイスする必要はないみたいね。二人とも改善点はあるけれど初めての戦闘にしては上出来よ。後は反省点を生かして残りのノルマを狩っていくように」
俺の方を見てから頷き、俺たちに向かって人差し指を立てそう言った彼女は奥に向かって歩き出した。
修斗と顔を見合わせ頷き合うと、俺たちは彼女を追って歩を進めた。
ダンジョンの奥に進み戦闘することもなく二階層に足を踏み入れたところで彼女から声がかかった。
「予想していたよりほかの講習生がいないようだからこの先はモンスターとの戦闘が多くなると思うわ。今のうちにノルマを達成してしまいましょう」
「了解で~す」「わかった」
俺たちの返答に満足したのかわずかに口元が上がった彼女は「好きなように散策してみて」と言って俺たちの後に下がった。
「それじゃあさっさと終わらせて、打ち上げしようぜ~」
いつもと変わらぬ緊張感の欠片もない修斗のセリフに苦笑しながらも言っていることには賛成するので、さっそく二階層の散策をはじめた。
二階層は一階層と変わらず岩壁の洞窟なのだが少しだけ通路の幅が広くなっているようで、二人並んで槍を振り回しても問題ないようだ。一階層よりも戦闘が楽になりそうな感じがした。
「さっそくお出ましのようだ」
毎度ながら本気になった時の修斗の変貌ぶりに苦笑しそうになるが、奥から聞こえてくるタッタッタッタという複数の足音に気を引き締める。先ほどのようなミスは致命傷に直結する。同じミスはしてはいけないのだ。
「またジャイアントラットが三匹か。今度は俺が二匹やる。また分断を頼めるか?」
「任せとけ!」
頼もしいセリフをうけ、背にしていた槍を抜くのと同時に、ジャイアントラット達の間に水柱が立ち2:1に分断される。修斗に心の中でナイス!と投げかけながら、動きの止まったジャイアントラットに水平に振るった穂先をおみまいする。
目測を誤ったのか、柄の部分が当ってしまったが、ジャイアントラットが吹っ飛び壁にぶつかったのでもう一匹に標的を切り替え槍を振るうと、回避しようと後方に飛び跳ねたジャイアントラットの前脚を二本とも切り飛ばした。
(よし!これで実質残り一匹だ)
前脚をなくしたジャイアントラットは後でも処理できる。先に壁に吹き飛んだヤツからだと身体を翻すと、ジャイアントラットがヨロヨロと立ち上がったところだった。どうやら当たり所がよく、前脚の骨に異常がでたようで、地面に着いては離しを繰り返している。
そんな大きい隙を逃してなるものかと、力強く踏み込んだ俺はヤクザキックよろしく、思いっきり前蹴りを喰らわせ、再び壁にぶつかりずり落ちたジャイアントラットに、素早く穂先を突き入れた。
ギャ!っと短く鳴いた後、塵となって消えはじめたが見届けることなく、放置したジャイアントラットに駆け寄ると、ギュッギュ!っと威嚇しながら地を這いずり回るのを足で押さえつけると、苦しまないよう頭を突き刺しトドメをさす。
少し気が入りすぎ目測を誤るミスをしてしまったが、概ね思い通りにいった戦闘に胸をなでおろすように息を吐き、修斗の様子を窺えば、すでに戦闘は終わっており、何かを拾っているところだった。
「なんかきれいな石みたいなのが落ちてたんだけど、これって魔塊ってやつかな~?」
「そうよ。モンスターのドロップの半分がその魔塊で、第5階層までのモンスターの約6割がドロップするわ。その大きさだとたしか5,000円ほどだったはずよ」
「マジで!?やったぜ~!これで一週間は乗り切れる~!」
喜ぶ修斗を見ながらあんな豆粒ほどの石が5,000円もすることに驚いた俺は、自分が倒したジャイアントラットもドロップしていないか確認すると、一匹目にトドメを刺した方の地面にキラッと光るものを発見し、喜び勇んで駆け寄ると、光ったものを拾い上げる。
「あ~、残念だけどそれはジャイアントラットの歯ね。買取価格は確か200円だったかしら?」
修斗は5000円で俺は200円…。なんてツイてないんだ…。
「立ち入ったことを聞くけど、貴方たちお金に困っているの?」
修斗とのドロップ格差に落ち込む俺を見て、憐憫の目を向ける宮前が尋ねるので、思わず縋りつきたくなるが、そこは大人の余裕を見せなければと取り繕おうとするが、修斗の一言で意味がなくなる…。
「いや~俺たちってバイトしかしてないから生活がきついんだよね~。馬鹿な上司に理不尽な客、無茶振りばっかりしてくる元請けの相手をするよりも、ハンターの方が稼げるんじゃないかな~って思って来てみたんだけど、結構簡単に稼げるのな!」
入手した魔塊をつまみながら嬉しそうにする修斗だが、宮前の表情は険しいものだ。
「貴方もそう思う?」
「いや、ドロップが悪かったからってわけじゃないが、正直キツイと思ってる…。時間的なコスパはいいかもしれないが、命がけな割に稼げてるイメージはしないな…」
思ったことを正直に伝えると、幾分か表情をやわらかくした彼女は、キョトンとする修斗に向き合い語り掛けた。
「スキルに恵まれ、ドロップもよかった貴方は、ハンターなんて楽して稼げると思ったかもしれない。けれど、ハンターはというのは決して楽して続けられるものじゃないの。初戦闘の時、相手がホーンラビットだったなら、お友達はお腹に穴を開けられて最悪死んでいたかもしれない。ジャイアントバットが相手だったなら、貴方は毒を受けて苦しんでいたわ」
俺が死んでいたかもしれない。彼女にそう言われ、修斗の表情が一気に曇る。俺自身、想像して血の気がひいた。
「一つのミス、気の弛み、軽率な判断。それらは全部死に直結するの。一般の人達にはハンターという職業は華やかに見えるかもしれないけれど、一流と呼ばれるハンター達は、死線を何度も超えているの。それこそ貴方たちが想像するよりもずっと多くの死線をね…」
彼女の過去に何があったのかはわからないが、声に籠るマイナスの感情が、彼女が今まで歩んできた苦悩を伝えてきた。
場の重苦しい雰囲気に水を差すように、背後から人の声が聞こえてきたので、俺たちは奥に進むことにした。まだ、ノルマまで一人二匹のモンスターを狩らなければいけないからだ。
誰も言葉を発しないまま、奥に進んだ俺たちは、分かれ道に行き当たり立ち止まった。このまま重苦しい雰囲気で戦闘にはいるのは勘弁して欲しい。宮前が居るから問題ないとは思うが、このまま片方の道を進むと背後からモンスターの襲撃に会うなんてことも考えられる。この重苦しい雰囲気だと反応が鈍るかもしれない。
「宮前さん。さっきは結構簡単に稼げるなんて軽率な事を言ってスイマセンでした…」
俺の考えを察したわけじゃないだろうが、いい意味で修斗は空気を読まないやつだから、今みたいに唐突に頭を下げたりする。
「いえ、私もいいすぎたわ。ごめんなさい…」
「そんなことない!俺たちは何もわかってなかった。だから宮前さんが謝ることなんてない」
熱くなってしまうのも修斗のいいところで悪いところでもある。いきなり熱く語られた彼女の困惑する顔は少し面白いが、修斗が熱くなると止まらないことを俺は知っているので、早めに止めることにしよう。
「お互い謝った。それでいいだろ?修斗はこれから彼女の言ったことを忘れないように、宮前さんは俺達に先輩としてのアドバイスを遠慮することなく。まだノルマを達成してないんだから切り替えていこう」
俺の言葉に頷く二人。うまく切り替えてくれたようで、重苦しい空気はなくなっていた。




