ハンター講習
「あー、時間になったので、講習を始めるぞ。受付済みでも現時点でこの場に居ない者は、今回のハンター講習は不合格として処理される。時間すら守れない奴に自分の命は預けられないからな。また、この場にいる者達は現時点でハンターとして仮登録される。この後の実習で実際にダンジョンに入るための処置であるため、実習での評価で不合格になることもあるので承知するように」
そういえば、ダンジョンにはハンター資格がないと入れないからな。それにしても不合格になることもあるのか…。
「えー、ダンジョンについては義務教育で習っているだろうが、少しおさらいと、補足をしよう。ダンジョンにはモンスターと呼ばれる怪物がそこら中に跋扈している。俺達ハンターはそのモンスターを狩り、魔塊や素材を回収する事を生業にしているのは知っているだろう。またダンジョン内には稀に宝箱と呼ばれるアイテムの入った箱が出現する。最近では、宝箱から〈ゴルディアルシュ〉という魔剣が回収され日本円で1兆2700億円の値がついたのは知っているだろう。ダンジョンで手に入れたものは、全て入手した者の物なので、一攫千金を狙うなら、宝くじよりも確率は高いだろうというのが、ワタシの見解だ」
あぁ、コイツは喰えないヤツだと俺は思った。
ニュースで派手に放送された魔剣の話しを出せば、少なからず金に目が眩むのが人間の性だ。そうやって眼前にぶら下げた人参で、人間性を試しているのだろう。この会場の大半の目が¥マークに変わってるぞ。
「これから諸君には、ダンジョンに入ってもらうが、知っての通り、ダンジョンに初めて入ると"天の声"と呼ばれるものが脳内に響くようになり、また〈ステータス〉が確認できるようになる。初入ダン時には、必ず一つ〈スキル〉が生えるが、これはダンジョンの宝箱やモンスターのドロップから入手される〈スキルオーブ〉でも覚えられる。初期のスキルが、どっかの馬鹿どもがハズレなんて評価しているスキルであっても、腐らずやっていればチャンスはやってくるので、諦めずに頑張ってほしい」
講師の話が進めば進むほど、俺は不安とも焦りともつかない気持ちになってきた。ここまで射倖心を煽る講師の姿に裏を感じるのは、俺が捻くれているからだろうか?
「長々と話してしまったが、これから実習のため、ダンジョンに入るので、各員、ギルド支給の武器、防具を受け取り、先輩ハンターの指示に従って行動するように」
悶々とした思考に耽っていた為に、いつの間にか講義が終わり実習に入ることになってしまっていた。
講習会場の端に並んだ武具から、動き易そうな革鎧とバックラー、自身の身長ほどの槍を身につけた俺は、同じ様な格好になった裕太にこの後の行動について尋ねようとした時、一人の女性が声をかけてきた。
「準備はよさそうね。私は貴方達の担当官の宮前花蓮、三ツ星のB級よ」
まだ、10代と思われる彼女が、すで三ツ星だというのに驚くとともに、ちゃんと1グループに一人か二人の担当がつくことに安堵した。
(流石に初心者達だけで入ダンはさせないよな!)
「俺は、夜上陽向。こっちは笠間修斗、二人とも21で貴女よりも歳上になるだろうけど、敬語なんかは使わなくてもいいですよ。こちらは、教えを乞う立場ですから」
「そうそう!堅苦しいのはなしにしよ〜よ」
「いや!お前は敬語くらい使えよ!」
「へぇ。私が年下だって嫌味を言わないのね。貴方みたいな礼儀正しい大人は好ましいわ。そっちの貴方はぬけてそうだけど、私を馬鹿にしてる様子はないし。今回は当たりな方ね」
(あぁ、今までは年下だからってだけで嫌な思いをしてきたのか…)
彼女の言葉に、馬鹿馬鹿しさがこみ上げてくる。これからダンジョンに潜ろうって初心者が、自分よりも格上な上に経験豊富な人物を、さも格下の様に振舞ったらしたのだろう。俺からすれば、そんなヤツらはただの馬鹿か死にたがりだ。そんなヤツらのせいで俺達やこれからダンジョンに挑もうっていう後輩?達の待遇が悪くなるのは我慢ならん。
「なぁ?オレってそんなにマヌケそうに見えるの?」
「いや、マヌケっていうか、呑気そうにみえるんじゃないか?」
「あれ!?オレ、ディスられてる?」
「ディスってなんかねぇよ。いつも明るいのが修斗のいい所だって」
「そ、そお?」
「仲が良いのはわかったけど、そろそろ行かないと今日中に終わらないわよ」
彼女の言葉に周りを見れば、会場には俺たち以外誰も残っていなかった。
「今日中に終わらないってどういうことかな?」
「ちゃんと話を聞いてなかったの?実習では、スキル・ステータスの確認とモンスターを各々5体の討伐をしないと帰れないのよ」
「あ〜、そういえばヒナタは、講義の後半なんか上の空って感じだったからな〜」
「はぁ〜。外にいる時はかまわないけれど、中に入ったら気を抜かないようにして。じゃないと怪我だけじゃ済まないわよ」
「あ、あぁ。気を引き締めていくよ」
「それじゃあ、行くわよ」
彼女の号令に頷き返し、俺たちは会場奥にある巨大な扉を通り抜けると、周囲を十メートルを越える巨壁に囲まれたサッカーグラウンド程の広場へと出た。更に奥にダンジョンへと続く頑強な扉があり、次々と入っていくハンター達の姿があった。
「ダンジョンに入る前に言っておくけど、余程のことがない限り、私は貴方たちを助けたりしないから。アドバイスはするけれど、ダンジョンでは全ての行動が自身の責任というのがハンターのルールだから自分達で考えて行動する事。わかった?」
「わかった」「了解だよ〜」
俺たちの返事に頷いた彼女は、慣れた足どりでダンジョンへと入って行った。すぐ後に俺たちもダンジョンの扉を潜り抜けた。




