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ツンデレ魔王の不器用な愛に、毎日のけ反っています

作者: 藍沢 理

 王城の謁見の間。三百人は入れる広大な空間で、私は務めて笑顔を振りまいていた。


「ローズ・ベルフィーユ。お前との婚約を破棄する」


 王太子エドワードの声が、水晶のシャンデリアに反響する。


 え?


 今なんて?


 頭の中で、誰かが鐘を乱打しているような音がした。


「聖女の素質もない、ただの凡庸な令嬢など必要ない。我が国には真の聖女、マリアがいるのだからな」


 エドワードの隣で、純白のドレスに身を包んだ少女が慎ましやかに微笑んでいる。亜麻色の髪に、翡翠のような瞳。絵に描いたような清楚な美少女だった。


 ああ、そういうことか。


 胸の奥がきゅっと締め付けられた。痛い。針で刺されるような痛み。でも、涙は一滴も出なかった。


 きっと、あまりにも現実離れしていて、実感が湧かないんだ。


「異論はないな?」

「……ありません」


 搾り出すように答えた。三年間の婚約期間。その思い出が走馬灯のように頭を巡る。中身のないスカスカな時間。振り返ったとて、愛も恋も何もないのだから。


 ここで取り乱したら、それこそ彼の思うツボだ。誇り高きベルフィーユ公爵家の令嬢として、最後まで毅然としていなければ。


 深々と一礼して、踵を返す。


 背中に突き刺さる三百対の視線。ひそひそと交わされる噂話が、波のように押し寄せてくる。


 足早に謁見の間を後にした。



 王都アーケーディアは、白亜の城を中心に広がる巨大都市だ。


 実家のベルフィーユ公爵邸まで、馬車で一時間。でも、今はそこに帰りたくない。


 婚約破棄された、なんて知られたら、両親はどんな顔をするだろう。特に、次期公爵である弟のことを考えると、これ以上家名に傷をつけるわけにはいかない。


 いっそ、このまま行方不明になってしまおうか。


 そんな自暴自棄な考えが頭をよぎる。


 気がつけば、王都の東門から外に出ていた。衛兵に怪しまれないよう、薬草摘みに行くと嘘をついて。


 王都を出て三十分ほど歩くと、深い森が広がっている。『迷いの森』と呼ばれる場所だ。一度入ったら出られないという噂があるけれど、今の私にはちょうどいい。


 森の奥へ奥へと進んでいく。


 太陽の光が木々に遮られて薄暗い。足元には見たこともない青い花が咲いている。


 ふと、違和感を覚えた。


 青い花が、規則正しく円を描いて咲いている。まるで誰かが意図的に植えたような――


 その時、足元が光った。


「きゃっ!」


 青白い光が私を包み込む。体が浮き上がるような感覚。


 そして次の瞬間、景色が一変した。



 目の前に現れたのは、黒曜石で造られた巨大な城だった。


 尖塔が天を衝き、不気味な魔力が漂っている。でも、なぜか恐怖より好奇心が勝った。


 どうせもう、失うものなんてない。


「あら、めずらしい。お客様?」


 振り返ると、そこには――


 羊のぬいぐるみ?


 いや、違う。手足があって、メイド服を着ている。顔は完全に羊だけど。


「ようこそ魔王城へ! 私、メイド長のメリーと申します。メェ~」


 ……メェ~?


 現実なのか幻覚なのか、判断がつかない。


「あの、ここは?」

「魔王バルバトス様のお城ですよ。メェ~。転移陣でいらしたんですね」


 転移陣。さっきの青い花の円か。


 つまり私は、うっかり魔王城に来てしまったということ?


「人間のお客様なんて百年ぶりです! さあさあ、中へどうぞ。メェ~」


 羊メイドに手を引かれ、城の中へ。


 廊下を歩いていると、次々に変な存在とすれ違う。


 鎧だけで中身がない騎士。宙に浮いている本。三つ目の猫。


「皆様~、お客様ですよ~。メェ~」


 メリーが嬉しそうに触れ回る。


 すると、変な存在たちがぞろぞろと集まってきた。


「人間だ!」

「本当だ!」

「写真撮っていい?」

「サインください!」


 ……なんだこの歓迎ムードは。


 魔王城って、もっと恐ろしい場所だと思っていたのに。



「騒がしいな」


 低い声が響いた瞬間、廊下が静まり返った。


 皆が一斉に道を開ける。


 現れたのは、銀髪に紅い瞳の青年だった。


 整いすぎた顔立ち。でも、その瞳は氷のように冷たい。


 ああ、間違いない。この人が魔王バルバトス。


 オーラが違う。さっきまでのほのぼのとした雰囲気が嘘のように空気が張り詰めた。


「人間か」


 値踏みするような視線。


「申し訳ございません。転移陣を偶然踏んでしまって……すぐに帰りますので」

「帰る?」


 バルバトスが、私の顔をじっと見つめてきた。


 紅い瞳に吸い込まれそうになる。


「お前、泣いているな」


 え?


 慌てて頬に触れると、確かに濡れていた。


 いつの間に。自分でも気づかなかった。


「違います、これは……」

「王都の方角から来た。しかも、その服装は貴族のもの。何かあったのだろう」


 鋭い。


 図星を指されて、言葉に詰まる。


「まあいい。メリー、客間を用意しろ」

「はい! メェ~」

「え? いえ、私は」

「今日は満月だ。森の魔物が活発になる。人間が一人で帰れば、確実に餌食になるだろう」


 さらりと恐ろしいことを言われた。


 でも、なぜか親切心からの言葉だと分かった。


「夜が明けたら帰れ。それまでは大人しくしていろ」


 そう言い残して、バルバトスは去っていった。


 メリーが私の袖を引く。


「バルバトス様、優しいでしょう? メェ~」


 優しい、のかな?


 よく分からないけれど、一晩お世話になることにした。



 案内された客間は、想像以上に豪華だった。


 天蓋付きのベッド、大理石の暖炉、ふかふかの絨毯。


「夕食の時間になったらお呼びしますね。メェ~」


 メリーが出ていった後、ベッドに腰を下ろす。


 ここはどこなんだろう。本当に魔王城?


 しばらくして、ノックの音がした。


「お嬢様、お食事の準備ができました」


 扉を開けると、今度は犬の顔をした執事が立っていた。燕尾服が妙に似合っている。


「執事長のバロンと申します。ワン」


 ……ワン。


 もう何も驚かない。


 食堂に案内されると、そこには――


「うわああああ! スープが爆発したワン!」

「だから火加減に気をつけろって言ったメェ~!」

「俺のせいじゃねぇ! このコンロが勝手に!」


 厨房が戦場と化していた。


 スープまみれの犬執事。小麦粉まみれの羊メイド。フライパンと格闘する鎧騎士。


 これが魔王城の日常なのか。


「あ、お客様! すみません、ちょっとトラブルが……メェ~」


 その時、食堂の扉が開いた。


「何をしている」


 バルバトスの冷たい声に、全員が凍りついた。


「あ、あの、料理を作ろうとしたら……」

「下がれ」


 バルバトスが指を鳴らすと、散らかった厨房が一瞬で元通りになった。


 そして、もう一度指を鳴らすと、テーブルの上に料理が次々と現れた。


 ローストチキン、野菜のスープ、焼きたてのパン、フルーツの盛り合わせ。


 湯気が立ち上り、いい匂いが漂う。


「……魔法ですか?」

「召喚魔法だ。人間界のレストランから借りてきた」


 借りてきた!?


 それって泥棒では……。


「対価は払ってある。向こうの売上の三倍の金額を転送した」


 心を読まれた。


 というか、金額おかしくないですか。


「座れ。冷める」


 促されて、向かい合って座る。


 おそるおそる一口食べてみると――


 美味しい。


 涙が出そうなくらい美味しい。


 今日一日の出来事を思い返すと、余計に心に染みた。


「また泣いているな」


 バルバトスが困ったような顔をしている。


「す、すみません。あまりにも美味しくて」

「……そうか」


 なぜか、ほんの少しだけ、魔王の表情が和らいだ気がした。



 翌朝、帰る準備をしていると、メリーが部屋に飛び込んできた。


「大変です! メェ~!」

「どうしたんですか?」

「転移陣が壊れちゃったんです! メェ~!」


 ……は?


 慌てて昨日の場所に行ってみると、確かに青い花が全て枯れていた。


「魔力切れですね。次に使えるようになるまで、最低でも一カ月はかかります。メェ~」


 一カ月!?


「他に帰る方法は?」

「歩いて帰るしか……でも、人間の足だと王都まで十日はかかりますよ。メェ~」


 十日。


 しかも、魔物だらけの森を通って。


 詰んだ。


「あの、私、しばらくここに置いていただけませんか?」


 背に腹は代えられない。


 メリーの羊顔が輝いた。


「もちろんです! バルバトス様に聞いてきますね! メェ~」


 笑顔で走り去るメリーを見送りながら、これでよかったのかと自問自答する。


 でも、帰る場所もない私には、ここしかなかった。



 玉座の間で、バルバトスは眉間にしわを寄せていた。


「一カ月も、か」

「申し訳ありません。ご迷惑でしたら、自力で帰りますので」

「森を歩いて十日。その間、何を食べる? どこで寝る? 魔物に襲われたらどうする?」


 正論の三連打。


 返す言葉もない。


「……仕方ない。転移陣が回復するまで一ヶ月、その間の滞在を許可する」

「ありがとうございます!」

「ただし、条件がある」


 やっぱり。


 タダより怖いものはない。


「この城の連中は、見ての通り家事が壊滅的だ。お前、料理はできるか?」

「え? はい、一応」


 公爵令嬢でも、花嫁修業として料理は習っていた。


「では、滞在中は料理係をしてもらう。報酬は出す」


 つまり、住み込みの料理人?


 でも、それなら気が楽だ。タダで置いてもらうより、働いた方が気兼ねしない。


「分かりました。精一杯務めさせていただきます」

「……ふん」


 バルバトスが、なぜか気まずそうに視線をそらした。



 初日から大騒動だった。


「ローズ様の料理、美味しすぎるワン!」

「おかわり! メェ~!」

「俺にも! 俺にも!」


 簡単なオムライスを作っただけなのに、城中が大騒ぎ。


 どうやら、今まではまともな料理を食べていなかったらしい。


「いつもは何を?」

「保存食とか、魔法で作った味のない何かとか……メェ~」


 不憫だ。不憫すぎる。


 張り切って、次はハンバーグを作った。


 すると――


「うおおおお! 肉が! 肉がこんなに美味しいなんて!」


 鎧騎士が鎧なのに感涙している。


 大の大人? が泣いている。


 やりがいを感じる反面、プレッシャーも大きい。


 特に、バルバトスの反応が読めない。


 いつも無表情で食べて、一言「うまい」とだけ言って去っていく。


 本当に美味しいと思ってくれているのかな。



 滞在して一週間が経った。


 厨房で夕食の準備をしていると、バルバトスが入ってきた。


「何か手伝うことはあるか」


 まさかの申し出に、包丁を落としそうになった。


「い、いえ! 大丈夫です!」

「そうか」


 でも、出ていかない。


 カウンターに寄りかかって、じっと私を見ている。


「あの……何か?」

「別に。ただ、人間がどうやって料理をするのか興味があるだけだ」


 そう言いながら、なぜか彼の耳が赤い。


 もしかして、一緒にいたいとか?


 いやいや、考えすぎだ。相手は魔王様だ。


「じゃあ、これ、混ぜていただけますか?」


 ボウルを差し出すと、素直に受け取ってくれた。


 魔王がエプロンもつけずに、生地をこねこねする姿。


 シュールすぎる。笑いそうになった。


「なんだ」

「いえ、なんでも」


 必死に笑いをこらえる。


 でも、口元が緩んでいたらしい。


「……楽しそうだな」


 ぽつりと呟かれた言葉に、心臓が跳ねた。



 平穏な日々は、二週間で終わりを告げた。


 城の門に、王国の紋章をつけた馬車が到着したのだ。


「ローズ・ベルフィーユ殿はおられるか!」


 まさか、もう居場所がバレた?


 恐る恐る出ていくと、そこには見知った顔があった。


 ベルフィーユ家の使用人、セバスチャンだ。


「お嬢様! ご無事でしたか!」

「セバスチャン……どうしてここが?」

「旦那様と奥様が大変心配されております。すぐにお戻りください」


 両親が心配している。


 当然だ。何も言わずに消えたのだから。


「戻らなければ――」


 え?


「なにを言って――」

「戻らなければ、殺す、と伝えるように仰せつかっております……」


 セバスチャンの悲しげな顔。


 ああ、忘れていた。


 私の家は公爵家。王家の親戚でもある。そこの娘が魔王の城にいるなんて許せないのだろう。


 でも――

 実の娘を「殺す」だなんてよく言える。


「申し訳ありませんが、もう少しここにいさせてください」

「お嬢様!?」


 自分でも驚いた。


 なぜ、帰りたくないんだろう。


「私は今、ここで働いています。契約期間が終わるまでは」


 嘘ではない。一カ月の契約だ。

 セバスチャンは困惑していたが、最終的に一度戻って報告すると言って帰っていった。


 玉座の間に戻ると、バルバトスが待っていた。


「帰らなくていいのか」

「……はい」

「なぜだ」


 なぜだろう。


 自分でも、よく分からない。


「ここが、居心地いいからです」

「ほう」


 バルバトスの口元が、ほんの少し上がった。


 初めて見る、笑みらしきもの。


「ならば、好きなだけいるがいい」


 ああ、あれ? 私もしかして――


 この人に、惹かれ始めている?



 その夜、眠れなくて厨房でホットミルクを作っていた。


「眠れないのか」


 振り返ると、バルバトスが立っていた。


 いつもの魔王の装束ではなく、シンプルなシャツ姿。


 なんだか、普通の青年に見える。


「少し、考え事をしていて」

「両親のことか」


 図星だった。


「……心配をかけているなー、と思って」

「後悔しているのか」

「いいえ」


 即答した自分に驚く。


「ここに来て、初めて自由になれた気がします。今まで、婚約者として、公爵令嬢として、期待に応えることばかり考えていました」


 バルバトスが、向かいの椅子に座った。


「俺も似たようなものだ」


 意外な告白。


「魔王として、恐れられ、憎まれることが役目。感情など不要だと教えられてきた」

「でも、優しいじゃないですか」


 思わず口に出してしまった。


 バルバトスが目を見開く。


「優しい? 俺が?」

「はい。私を助けてくれたし、城の皆のことも大切にしています」


「……そんなつもりはない」


 また、耳が赤くなっている。


 可愛い。


 魔王を可愛いと思う自分が、おかしくて笑ってしまった。


「何がおかしい」

「すみません。でも、バルバトス様の素顔が見れて嬉しくて」


 今度は、彼の顔全体が赤くなった。


 本当に、不器用な人だ。



 三週間目に入り、私の気持ちは確信に変わっていた。


 バルバトスが好きだ。


 優しくて、不器用で、可愛い魔王様が好きだ。


 でも、この気持ちをどうすればいいか分からない。


 相手は魔王。私は人間。


 種族も立場も違いすぎる。


「ローズ様、最近幸せそうですね。メェ~」


 メリーに言われて、はっとした。


「そんなに顔に出てますか?」

「はい! バルバトス様も最近優しい顔をされることが増えました。メェ~」


 本当に?


 期待してもいいのかな。


 その時、バロンが慌てて飛び込んできた。


「大変です! 王国軍が攻めてきました! ワン!」



 城壁の上から見下ろすと、王国軍が城を包囲していた。


 その中心に、エドワード王太子の姿。


「魔王バルバトス! 我が婚約者を返せ!」


 ……は?


 婚約者?


 誰のこと?


「あの馬鹿は何を言っている」


 バルバトスが、心底呆れた顔をしている。


「たぶん、私のこと、かと……でも、婚約破棄したはずなのに」

「ローズ!」


 エドワードが私の姿を見つけた。


「今すぐ戻ってきなさい! 婚約破棄は撤回する!」


 城壁の上が、しんと静まり返った。


 皆が私を見ている。


 深呼吸して、声を張り上げた。


「お断りしまーす!」


 軽いお断りの言葉に、エドワードが硬直した。


「私はもう、あなたの婚約者ではありません! そして、これからもなるつもりはありません!」

「馬鹿な! お前には聖女の素質が……」

「聖女? 私に?」


 意味が分からない。


 あなたが言ったじゃないか。私には聖女の素質がないって。


「説明してやろう」


 バルバトスが私の前に出る。


「王国の調査は間違っていた。ローズは確かに聖女の力を持っている。ただし、それは『魔を浄化する』力ではなく『魔と共存する』力だ」


 ……えっ?


「だから城の連中も、俺も、こいつといると心地いい。それが真実だ」


 こいつ?

 はあ?

 いやまあ、それは置いといて。

 そうだったのか。


 道理で、皆に好かれるわけだ。


「それを知った王国は、今更になって連れ戻そうとしている。滑稽な話だ」


 バルバトスが私の手を取った。


「ローズ、選べ。王国に戻るか、ここに残るか」


 選ぶまでもない。


「残ります。ここが私の居場所だから」


 バルバトスの顔が、ぱあっと明るくなった。


 そして――


「ローズは渡さない。我が妻になる女だ」


 ……つま?


 今、何て?


 頭が真っ白になった。



 結局、王国軍は撤退していった。


 魔王の本気の威圧に、誰も逆らえなかったのだ。


 問題は、その後だ。


「あの……さっきの、妻って」


 玉座の間で、二人きり。


 バルバトスは、そわそわしている。


「あ、あれは、その……威嚇のためだ」

「そうですかぁ……」


 がっかりした気持ちが、声に出てしまった。


「違う! いや、違わないが……ああもう!」


 バルバトスが頭を抱えた。


 そして、意を決したように顔を上げる。


「好きだ」


 真っ赤な顔で、真っ直ぐに見つめてくる。


「最初に会った時から、気になっていた。毎日、お前の作る料理を食べるのが楽しみで、お前の笑顔を見るのが幸せで……」


 言葉に詰まって、また俯いてしまう。


「俺は、魔王だ。人間のお前には、相応しくないかもしれない。でも……」

「私も好きです」


 顔を上げたバルバトスと、目が合った。


「私も、バルバトス様が大好きです。種族なんて関係ありません」


 次の瞬間、強く抱きしめられた。


「もう離さない。ずっと側にいてくれ」

「はい」


 これが、本当の幸せ。


 聖女の力なんて、どうでもいい。


 ただ、愛する人と一緒にいられれば。



 あれから三カ月。


 私は正式に魔王の妻となった。


 人間と魔王の結婚なんて前代未聞だけど、城の皆は大歓迎してくれた。


「奥様の料理、今日も最高です! メェ~」

「おかわり! ワン!」


 相変わらず賑やかな食卓。


 でも、一つ変わったことがある。


「ローズ、俺にも」


 バルバトスが、さりげなく皿を差し出してくる。


 最近、甘えん坊になってきた。


 人前では魔王の威厳を保っているけど、二人きりになると甘えてくる。


「はい、どうぞ」

「……あーん」

「こ、ここでですか!?」

「早く」


 小声で言われて、顔が熱くなる。

 仕方なく、フォークを口元に運ぶ。


 美味しそうに食べる顔が、とても愛おしい。


 ふと、窓の外を見ると、王都の方角から伝書鳩が飛んできた。


「また王太子からですね」

「無視しろ」


 エドワードは諦めていないらしい。


 聖女マリアの力を完全に引き出すには、私の協力が必要だとか。


 知ったことではない。

 鳩の足についている文の中身は、毎度脅迫状なのだから。


「それより、今日のデザートは?」

「シュークリームです」

「絶対に他の奴らには渡すな。よこせ、なんて言われたら俺が滅ぼす。俺が全部食べる」


 子供みたいなことを言う。


 でも、そんなところも全部、愛おしい。


 魔王城での生活は、毎日が驚きと笑いに満ちている。


 料理を作り、皆に振る舞い、バルバトスに甘やかされる。


 婚約破棄されたあの日。


 まさか、こんな幸せが待っているなんて思わなかった。


 運命の転移陣に感謝だ。


「ローズ」

「はい?」

「愛してる」


 突然の告白に、また顔が赤くなる。


 もう慣れた、と思ったのに。


「私も愛しています」


 不器用な魔王様と私。


 種族を超えた幸せな時間。


 これからも、ずっと続いていく。




(了)


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