第一話
新シリーズです。どうぞよろしくお願いしたします。
誤字脱字等、ご容赦ください。
これは、俺の友人の話です。俺とその友人……、Aって呼びますね。Aはオカルト同好会っていうものに所属してまして。特段大層なものでもないんです。ただ、オカルト好きが集まって何かするだけの遊びの延長線のようなものです。それに、集まってすることと言っても、心霊スポットにちょっと行ってみたりとか、地元の学校の七不思議を確かめに夜の学校に向かったりとか。……でも、そうやって遊んでいると次第にマンネリ化してきまして。結局度胸がないので、本当に危ないであろうところには行けないんですよね。浅瀬で遊んでるだけ、みたいな。……そんな時、Aがある話を持ってきたんです。とある一軒家に住んでいた家族四人が一夜のうちに消え失せたっていう話です。ある人が言うには借金が返しきれずに夜逃げした、また別の人は夜逃げじゃなくて心中だなんて。また別の人が言うには何かしら危ないものに手を出して呪われたんじゃないかと。……Aは乗り気でした。最近のマンネリをどうしても打破したかったのか、いつになく乗り気でして。最初は嫌だったんですが、Aの熱意に負け、結局俺とAとオカルト同好会のメンバー二人の合計四人でその家に向かうことにしました。
問題の一軒家は駅の近くで、静かな住宅街の中にありました。広い庭や車をしまうためのガレージのようなものもあってそんなにお金に困っているようにはどうにも思えず、その時点で借金のせいという説は頭の中で否定されました。家の前で様子を見ていると、近所に住んでいる人が近くに来て話を聞かせてくれたんです。……その家の住人がいなくなる一週間前から急に「家に遊びに来ないか」と誘われるようになったそうなんです。その人が言うにはその家の住人と普段挨拶を交わしたり世間話をするなど、確かに親しいと言えば親しいけど、いきなり家に呼ばれるような関係ではないようで。当然「どうしていきなり?」って聞いたそうです。すると、「どうしても見てもらいたいものがある」とだけ。いくら聞いてもその見てもらいたいものが何かは教えてもらえず、ただ、「家に遊びに来ないか」と繰り返すだけだったそうです。……正直言って不気味以外の何物でもないんですが、その誘いはその人以外にも執拗に行われていたそうで、学校帰りの子供にも行われていたようでした。その子が怖がって泣き、その声を聴いて大人の方が集まったため大事にはならずに済んだのですが、その一件で周囲からかなり警戒されたようでして。警察に厳重注意をしてもらおうと通報した方もいたのですが、あの家族はその警察すらも家に招き入れようとしたほどで。失踪する前日には郵便配達員すら家に連れ込もうとしていたそうです。……中には誘いに乗って家へと赴いたという人もいるのですが、その人は現在入院中らしいです。何を聞いても「いらっしゃいませ」としか言わないとか。
俺たちは家の中へ足を踏み入れました。家の中はひどいもので、とてつもない荒れ方をしていました。まず警察が事件性を調べるため出入りして、その後も何回か肝試しにきた人がいるらしいので、荒れてしまうのは仕方ないかなと思ったんですが、荒れ方がおかしいんです。家の外観は白がメインの小ぎれいな家だったんですが、玄関を開けた途端、タイムスリップしたみたいに荒れているんです。壁はボロボロにはがれて、床はところどころ抜けているところも。廊下も一部で壁が崩れていて、それ以上先には進めないようになっていました。中を全部調べようとしたんですが、結局調べられたのはリビングだけでした。
ただ、そのリビングがおそらく震源地だったと今では思います。……リビングにはパーティー用の飾り付けがされていました。まるで小さい子の誕生日でも祝うかのように。でも、絶対に誕生日ではなかったんです。……例えば誕生日だと飾り付けには「おめでとう」って書かれますよね。でも、書かれていた言葉は「いらっしゃいませ」だったんです。……どう考えても普通じゃありませんでした。俺はその時点で帰りたくてしょうがありませんでした。けれど、皆乗り気なせいで、どうにも帰りたいと言い出せるような雰囲気ではなくて。リビングの入り口に突っ立っているだけでした。……そこで、Aがある物を見つけたんです。靴でした。それも四人分。それらはテレビの前にそろえられていました。まるでテレビが玄関でもあるかのように。
Aはまっすぐテレビに近づきました。そして近くのローテーブルに置いてあったリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を入れたんです。電源がつくと、普段やっているバラエティー番組が流れ出しました。どうやらまだ電波は生きていたみたいで。けれど、Aの目的はそれでは無いようでした。彼はリモコンを操作し、ビデオに切り替えたんです。すると、とある映像が流れ始めました。画質からしてどうも映画のようなものでもなく、いわゆるファミリービデオのようなものかと思いました。映像に映っていたのは兄と妹らしき小さなきょうだい。あとはその母親と父親。祖父母らしき姿も見えました。そしてもう一つの四人家族の姿もありました。そちらは姉と弟、そして父母だったかと思います。映像だけ見れば普通の仲良し家族同士の付き合いの風景でしたが、俺はどうにも不気味な気配を感じていました。まあ、あんなところで映像を見れば何でも不気味には感じるから、そのせいだと思います。
だからか、Aも案外そうでもなかったようで、「呪いのビデオを見つけた!」なんて喜んでましたよ。そしてAはそのビデオを持ち帰ろうとしたんです。いろいろリモコンをいじっていると、テレビの下に置かれた機械から、こう……。黒くて四角くて、丸が二つ付いてる古そうな……。ああ、VHSって言うんですか?あれ。そうです、そのVHSが出てきて。Aはそのままそれを鞄に入れて持ち帰りました。それから三日後、土日をまたいだAの様子は異常そのものでした。目の下にはありえないほど深くクマが刻まれていて、でもなぜか目はぎらついていたんです。俺は心配でした。もしあれが本当に呪いのビデオで、Aが取り憑かれたりしたらどうしようかと……。でも、それは杞憂でした。Aはただ寝不足だったんです。原因はあのビデオだったんですけど。……あの映像の内容がどうしても気になって、土日を使って何度も見返していたらしいんです。もはや取り憑かれていると言っても過言ではないと思うんですが、彼自身とは普通に意思疎通ができたので……。彼が言うにはあのビデオは呪いのビデオではないらしいんです。何度見ても殺されるってわけではないですし、おっかない女が出てくるってわけでもない。ただ、不気味なだけ。……僕は信じられませんでした。ならどうしてAはあの後もあの映像を見ようとしていたんでしょう。
あのビデオを手に入れてから一週間が経って、Aが大学に来なくなりました。メッセージを送っても反応がなく、電話をかけても応答がない。Aが暮らしているアパートに行ってみても、結局Aがどうしているかはわかりませんでした。もしかするとバイト中なのかと思い、Aのバイト先であるスーパーにも行ってみたんですけど、ここ三日ほど来てないと言われて……。俺は警察を呼びました。さすがにどこに行ってもAの姿が見られていないのはさすがにおかしいと思ったんです。……で、アパートに戻って通報して、警察を待っている間にアパートの管理人の方がとある話をしてくれたんです。「ちょうど昨日、この部屋すっごい騒がしかったよ」って。午前の十時頃あたりからドタバタ騒ぎ出し、それが一日中続いたらしくて。落ち着いたのは日を跨いだ頃だったとか。隣の人が注意しに行ったらしいんですが、部屋から出てこなかったそうです。その人いわく「絶対あれは一人じゃなかった」って。つまり、昨日Aは何人かを部屋に連れ込んで大騒ぎしてたということなんです。僕にはどういうことか全くわからず、ただAの部屋の前で立ち尽くしていると、ようやく警察の方々が到着しました。
警察の方に事情を説明すると、すぐさま鍵をこじ開けることになりました。管理人さんの話から判断したのか、Aには薬物乱用の可能性があり、なかで中毒を起こして死んでいる可能性もあるとのことでした。すぐさま鍵屋を呼んで部屋の鍵を開けてもらいました。一応入る前に呼びかけてみたのですが、やはり反応はなく。ドアを開けて中に入ることになりました。部屋の中を一目見た瞬間、あることを思い出したんです。あの一軒家、Aがビデオを持ち帰ったあの一軒家に荒れ方がそっくりだったんです。壁も滅茶苦茶にされていて、床もところどころ穴があけられていました。おそるおそるAの名前を呼びながら中へと進んだんです。一番奥、リビングには誰もいませんでした。部屋中の家具がひっくり返されていて、壁にはスプレー缶らしきもので「いらっしゃいませ」と……。唯一傷がついていなかったのはテレビでした。そのすぐ下にはあの時と同じように、靴がそろえてありました。俺は震える手で、今までなかったテレビ下の機械に手を伸ばしました。……今まで何度もAの家には遊びに行っているんですが、初めて見るものでした。おそらくあのビデオを見るための機械だとは思います。……「取り出し」と書いてあるボタンを押すと、あの時Aが手に入れていたであろうビデオが出てきました。汚れ方もそっくりでおそらく同じものだと。……けれど、Aの姿はどこにもありませんでした。寝室にも、トイレにも、風呂場にも。アパートとは言っても大学近くということもあって、防犯カメラはそこそこあるんです。なので、アパート周りの防犯カメラも警察の方の許可で見せてもらったんですが、Aはどこにも行っていないようでした。
警察の方たちは早々に引き上げていきました。部屋の荒れ具合から事件性ありとのことで、捜査本部を設置するためだそうです。管理人の方もいつまでもいる訳にはいかないということで、先に帰って行ってしまい、Aの部屋には俺が一人残りました。俺はどうしても気になっていたんです。Aがあれほどまでに入れ込んだというビデオの内容が。このビデオのせいでAがおかしくなってしまったんじゃないか。そう思うとどうしても……。だから俺は一度取り出したビデオをもう一度中に差し込んでテレビの電源を入れました。リモコンを操作していると、あの映像が流れ始めました。あの一軒家で見た不気味な映像。二つの家族がピクニックをしているような……。やっぱりおかしなところはありません。ただ彼らがにこやかにしているだけで、どこも変なところは。でも、日が暮れはじめて部屋の中が暗くなると、ずっと感じていた違和感に気づいたんです。
最初、その家族たちが遊んでいるのは公園だと思っていました。背景には特に遊具の類などは映っていなかったんですが、やけににぎやかな音声も聞こえていたんです。でも、前見た時とは全く違う所もあったんです。前見た時は家族たちの背景には特に何もなかったんですが、あの日見た時はなぜか背景にも大勢人が集まっていたんです。皆離れたところにいるせいでどのような顔かは良く見えませんでしたが。……でも、じっと見ていると、見知った顔がいるんです。ゼミで一緒だった女の子だったり、同じ授業を取っていた友人だったり。あるいは大学の教授だったり、オカルト同好会の会員も何人かそこにいました。俺は何が何だかわからなくて、とりあえず暗くなってきたから部屋の明かりをつけたんです。さっきのは見間違えかもしれない、そう思って。でも、やっぱり見間違いなんかじゃありませんでした。それに、音量をいじっていないのに、どんどんと映像の音が大きくなっていくんです。そして次第ににぎやかな声の中から違う声が聞こえてきました。「ようこそ」、そう言われている気がしました。ハッとなって顔をあげると、背景に座っていたAがこちらを見ていたような気がするんです。
……あの後、僕は急いで映像を止めました。すっかり夜も遅くなっていましたし、いつまでもAの部屋にいる訳にはいかないですよね。でも、あの映像はどうしても気になったんです。……だから、持ち帰ってしまいました。まるでAみたいですね、どうしても気になって持ち帰ってしまうなんて。……今日でAがいなくなってからちょうど一週間なんです。あれから毎日あの映像を見ていますけど、Aを探すための手がかりは一向に手に入りません。やっぱりAはあの映像に取り憑いていた何かに魅入られてしまったんでしょうか。……話は変わるんですが、今日この後お時間とかってありますか?もしあるなら俺の家に遊びに来ませんか?どうしても見せたいものがあるんです。……え?それは何かって?俺の家に来てくれたら教えてあげますよ。
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