帰りたいアールスカ
シェイラがディルカンに到着した頃、ヘルゲドムから東にセングクレードル皇国があり、そのビーチが見渡せる食事処でA級石工士やS級石工士が石材の加工をしているのを待機して、骨付き肉に齧り付いて唸っていたアールスカがいた。彼のワンランク下のA級建築士の青年達三人がアールスカとテーブルを囲んで食事をしていた。
「あと三ヶ月ですか、此処に滞在するのは?」
「三ヶ月も掛かるか、あれを建てるのに?そりゃ言い過ぎだろ」
ヴェーダーとドフトは返答の返ってこない質問をした。
「……アールスカさん、帰ったら屋敷に籠るんですか?遊びに行っても良いですか?」
ストラムが正面に座るアールスカに話し掛ける。
「さぁのぅ。屋敷に籠もれたら最高じゃがなぁ。依頼を受けることになったら帰れるのはいつになるか分からんからのぅ」
アールスカはストラムの質問に答え、木製の樽のようなジョッキを掴み、ビールを呷る。
アールスカ達はディルカンの建築ギルドのギルド長から依頼を受け、セングクレードル皇国に長期滞在しており、石造の建物を建てに来た。
現在は石材の加工の段階で擁壁に取り掛かるまで余裕がある。
石材の形成などやれるにはやれるが歳が歳なもので大分と質が劣ってきたので若い者に任せているのだ。
S級建築士は全て己で仕上げられるのが当たり前で、A級建築士は途中までしか出来ない人材だ。
監督として渡ってきたアールスカだ。
彼は、背中も曲がって杖を付いていないと歩けない。
土魔法に秀でている者でS級建築士の中では10人の中で上位に入る程である。
「護衛の冒険者は観光かのぅ?儂みたいなのは襲われんと思っとるようじゃ。ストラム、そろそろS級になろうとせんか?儂はお主の腕を見込んでおる、なぁ?」
「アールスカさんに見込まれるのは嬉しいです。でも僕には早いです。まだアールスカさんの元で居たいんです」
「ふぅ〜む、そうか。ヴェーダー、ドフトや。ストラムを見習わんか!」
「ストラムみたいにはいかないって。娘を養っていかなきゃならねーんだから」
「ヴェーダーじゃないけど、お金はあるだけあれば良いんだ。ストラムみたいな殊勝なこと言えないよ」
アールスカは長い白髪が揺れそうな程大きく左右に首を振ってため息を漏らした。
「教えがいのない奴らじゃわい、お前らは。ストラムよぉ、そのままでいてくれんかのぅ、まったく」
アールスカの左右の席に座るヴェーダーとドフトもため息を漏らす。
護衛で帯同してきた冒険者達の顔を見なかったその日だった。
スウェーデン語でドフトは香りで、ヴェーダーは天気です。アールスカは尊敬する、です。
セングクレードルは寝具です。
アールスカはシェイラの建築士の師匠です。