懐く少女
私は寝ていようとしたが小さな手が肩を揺すってきたことにより眠りを妨げられる。
「うぅぅ……もう少し、寝かせてくれ……」
「お姉さん、お姉さん起きてください。ブローに負けないように剣を教えてください!」
「はぁー。早朝に教えるってなぁ……ふぁー。ベンドゥラは魔法を使えるか?」
私は欠伸をして両腕を天井に伸ばして愚痴を漏らす。
二度目の欠伸をしてから起こしてきたベンドゥラに質問をした。
「使えない……です。お姉さん、師匠って呼んで良いですか?」
「まあ、構わないよ。そう……私の魔法、見るか?」
「良かった〜!見せてくれるの見たいです」
私は上体を起こし、ベンドゥラを見つめる。
ベンドゥラは私の手首を掴み、ベッドから下そうとした。
私はベンドゥラに手を引かれ、階下に降りて、カウンターの内側にいたおじさんに挨拶をした。
「おはようございます」
「おはようございます、お客さん。ベンドゥラが朝早くにすみません。止せって言ったのに聞かなくて」
「師匠、優しいんだぁ!」
「ベンドゥラ、ほどほどにな。朝食はあと1限程で出来上がりますが?」
「ベンドゥラちゃんに稽古してきます」
宿屋を出て、私とベンドゥラは資材置き場のような樹が何十本も積まれた場所に行き、ベンドゥラとブローが木剣をぶつけ合っていたところで向き合う。
「師匠は名前ってなんていうの?」
「シェイラだよ。魔法、見るかい?」
「可愛い名前ですね。うん、見たいです」
「じゃあ、火魔法をひとつ。んんっ……ローグファイヤー」
私はベンドゥラの頭の横を通り越していく火を前に伸ばした腕の広げた掌から出した。
4トルスは出た火柱を見た村民の男女数組が自宅から出てきて、老人も姿を見せた。
「なんだなんだ」
「火事か?」
「こんな早朝から火遊びしとるのは誰じゃ?」
「あぁお騒がせしてすみません。火事ではないので大丈夫です」
出てきた村民は戻っていき、静かになっていく。
「すごいすごい!?すごいです、師匠!私もいつか師匠みたいに魔法使えるようになりますか?」
「喜んでもらえたならなによりだよ。そうだね、それはベンドゥラちゃんの努力次第だよ。次は剣の稽古かな?」
「えぇ〜!?あっあぁはい!!」
斧を振り下ろしたらしき傷が幾つもある伐採された樹に立てかけていた木剣を掴み、斬りかかろうとする体勢をする彼女を私は制して、短剣を鞘から抜き、ベンドゥラに短剣を手渡し、彼女の木剣と交換した。
「えっ!?良いん……重いぃっ!?」
「短剣だが、重いだろそれ?剣で戦おうとするならこのくらいの重さには慣れなきゃな!ベンドゥラなら振り上げることも難しいだろ、傷付かないから心配するな!」
重さに苦戦しているベンドゥラは短剣を地面に落とさないようにすることで精一杯だ。
私も師匠に剣の稽古をおねだりした時に、カルナが腰に携えていた剣を渡された時はベンドゥラと同じ反応だった。
「あははっ!木剣は軽いからみくびっていたろ?そんな軽くないってそりゃさ〜!まずは短剣を震える事なく持てるようになってからだな!くくっ」
「うぅっ……うわぁああぁあああ!!!!」
少女には私の短剣は重いようで、脚をよろけさせ、しまいには地面に倒れたベンドゥラだった。
「もうじき朝食だ。稽古をしてもらいたきゃ、その短剣の重さに慣れるこった。ベンドゥラちゃん、戻るかい?」
「わぁっ……わかりましたぁ……戻りません」
私は宿屋に戻り、カウンター席で朝食をたべる。
資材置き場に戻ってきたもののベンドゥラは短剣を持ちこなせていなかった。
「そりゃあまだか。諦めるか?」
「うぅぅ。ぐぅぬぬぅっ……諦めません、師匠。師匠も筋肉付いて無さそうなのに、良く冒険者続けられるね。どうして?」
「それなりの冒険者だからさ。昔、師匠に何百回も殺されかけたし。あぁーあの日々は地獄だったなぁ……」
「へ、へぇ〜!いつ村を出るの、師匠は?」
「昼頃にはディルカンに行くよ。ベンドゥラちゃんが冒険者になれる頃になって私に逢いたいならディルカンに来てみな!」
「わかりました。大きくなったら、師匠に逢いに行くから」
出発するまでベンドゥラと魔法の特訓もして、別れの挨拶を交わして、ストーミィグ村を出発した。