第7話 ロウソクの夢
「わあ、きれい!」
「でしょ?これはスミレちゃんのために特別に作ったんだよ。」
手のひらほどの小さいケースから出てきたのは、蝶の形をしたロウソク。
おじいちゃんはロウソク職人だった。 おじいちゃんのお父さんも、おじいちゃんのおじいちゃんも。 マインデイ家は代々ロウソクを作ってきた職人の家系だった。
「これを見てごらん。スミレちゃん。」
パーッ!
おじいちゃんが火をつけたら、ロウソクからは甘い香りがした。
「うわぁ、バラの香り!」
「お誕生日おめでとう、スミレちゃん。」
「おじいちゃん、ありがとう!」
バラも、蝶も、ロウソクも、幼い頃のクラウスミレの一番好きなものだった。
地方のロウソク職人で生きたくないと事業を始めて、目が回るほど忙しく働いている父親の代わりに、幼い頃からクラウスミレはおじいちゃんの手で育てられた。そのため、おじいちゃんはクラウスミレが好きなものを正確に知っていた。
「でも、パパは私が何を好きなのかも全く知らない。」
クラウスミレは片隅に放り投げられているケースを見ながらつぶやいた。これが今都城で最も人気のあるブランドのアクセサリーです、と父の秘書が渡してくれた誕生日プレゼント。
クラウスミレの好みなら、ジュエリーよりも一冊の分厚い本の方がもっと歓迎されたはずなのに、それを知らなかったということは、プレゼントを選んだのも、買ったのも、秘書に違いなかった。
「あまり落ち込むんじゃないよ、スミレちゃん。お父さんもスミレたちのために一所懸命働いてるんだから。」
「でも、こんなんじゃ何のために働いてるのかわかんないもん。」
「ふふ。お父さんがお金をたくさん稼いだらスミレちゃんがおしゃれなお嬢様になって王子様のような格好いい坊ちゃんのところにお嫁にいけるかもしれないじゃないか。」
おじいちゃんは優しく笑いながら頭を撫でてくれたが、クラウスミレは依然として落ち込んでいたままつぶやいた。
「でも、私はお嬢様なんかなりたくないんだもの。」
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「お嬢様なんか...なりたくな...い...」
懐かしい過去への短い旅を終え、クラウスミレは徐々に現実の意識を取り戻した。 後頭部に感じられるふわふわとした枕の感触で、彼女は自分が今ベッドの上に横たわっていることが分かった。
真っ先に目に入ったのは、おじいちゃんの工房の懐かしい木の模様でも、今住んでいる屋敷の華やかなシャンデリアでもない、ただ眩しく真っ白で無機質な天井だった。
「見知らぬ...天...じょ」
「おぉっとー...お目覚めですか、お嬢さん?」
隣から聞こえてくる若い男性の声に、クラウスミレの口から思わず見慣れた名前が漏れた。
「フリード...リ...ヒ?」
「パズ大将じゃなくて悪いな。でも、階級を下げるのは勘弁してほしい。こう見えてもかなりデリケートな問題なんだから。」
クラウスミレはベッドからゆっくりと体を起こした。ベッドの隣には、帝国軍の黒い制服で身を包んだ若い男性が椅子に座っていた。
「ここは··· うっ!」
ずきずきと頭が痛い。 生まれて初めて感じる、頭の中にべたべたとくっついてくるような不快な頭痛に、クラウスミレは美しい眉間をしかめた。
「酒に慣れてないようだな… まあ、そんな風に飲んだら誰でも二日酔いになるだろうけど……」
男の声は澄んで力強い美声だったが、その中に込められた楽しんでいるような感じに、クラウスミレは少しいらいらした。
「いったい誰なんですか?そして、ここは…?」
「名前を聞かれるのも久しぶりだな。僕はハイネ・フォン・シューマンという者です。そして、ここは帝国首都病院ですし。」
ハイネ…フォン…シューマン…どこかで聞いたことがあるような… そういえば顔も週刊誌などで見たような気がするし。ぼんやりする最中にもクラウスミレは必死に記憶を辿った。 そんな中、ハイネの階級章を見た瞬間…
「ひいっ!シューマン元帥!」
「おめでとうございます。この十数年間、帝国の宿敵たちが夢でも願っていたことをレイディがやり遂げました。 俺を胸を刺すことを、ね。 今の『ひいっ』はかなり痛かったぞ。」