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第22話 ごめんね、おじいさん。






急いでクラウスミレが閉じ込められている倉庫にたどり着いたハイネとハウアー少尉は、猛烈に燃え上がる炎前では一歩退くしかなかった。


「この匂い…… 船で防水剤で使われている歴青に違いありません!」


「…マジかよ!こいつら、狂ってるぞ!」


「まだ間に合います! 補給倉庫なので、最低限の防火の設備は整っているはずです!」


それはクラウスミレにとって、あまりにも幸いなことであった。 ハウアー少尉の言葉とおり、倉庫の壁や柱は耐火性の資材でしっかりと建てられていた。

それだけでなく、ハウアー少尉がクラウスミレの指示で抜け出したことを知るはずがなかったダフトはドアを閉ざすのにあまりに急いでいたため、倉庫の中にまできちんと油を撒いていなかったのだった。


「それでも急がないと! 煙が入り込んで窒息するか、熱に耐えられないかもしれないぞ!」


「閣下!こちらです! こちらのドアはまだ火がついていません!」


倉庫の後の方に回り込んだハウアー少尉が軍刀を抜いて、力いっぱいロックを叩き下ろした。


– カチン!


しかし、スパークが散るだけで、固いロックはその程度で壊れなかった。 そもそも軍刀というものは斬るために作られたので、壊すには適していない武器であった。


「どけ、少尉!」


同様にサーベルを抜いたまま駆け付けてきたハイネがドアに飛びかかった。 彼はハウアー少尉のようにロックを殴りつける代わりに,サーベルをロックの隙間に差し込んだ。


「叩き潰せ!」


ハイネの意図に気づいたハウアー少尉は、サーベルを金敷にして叩き下ろした。 だがあまりにも急いだせいで軍刀はロックから外れてドアに当たってしまった。


「外れた!もう一度!」


「はい!」


ふうっ、と深呼吸をしたハウアー少尉は今度はちゃんと集中して軍刀を上からまっすぐ下に引いた。サーベルと軍刀、両方から鋭い力を受けたロックは、鋭い破裂音とともに切り取られた。


.

.

.


ハウアー少尉を送り出した後、間もなくうとうとしていたクラウスミレは、ロックの鍵をかけるカチッとする音で目が覚めた。


首をかしげていたクラウスミレは、しばらくの後、ドアの隙間から漏れ入ってくる煙とますます強く感じてくる熱気に驚いて倉庫の壁から慌てて離れた。


「何、何よ! 火事?今?ここで?なんで?」


しかし原因はともかく、ロウソク蔵人の孫娘であるクラウスミレは、すぐに火の正体を見抜くことができた。


「この匂いは…… 木タール。自然発火ではないわ。誰かが火をつけたんだよね、これは。」


ここを離れながら、生臭い目でこちらを振り返っていた海軍中佐の顔を思い出した。


– ビリッ!


スカート裾の端を引きちぎったクラウスミレは、その布で口を塞いで、身を低くした。

火事の時に体を低くしなければならないのは当然のことだが、木タールを燃やした煙は特に有毒であることを知っているクラウスミレは、最初から地面に伏せてできるだけ空気を確保した。


「(どうか生きている間に誰か来てくれたら…)」


ハイネが港の近くまですでに来ていることを祈るしかない。それでハウアー少尉とすぐに合流ができるとしたら、この炎を見てすぐ走って来られるだろう。ならば間に合えるかもしれない。 しかしそれより遠く… あるいはもっと遠くへ、首都ローレライまで行かなければならないのなら……

おそらく時間内に戻るのは難しいだろう。


せめて死体でも無事に収拾できれば幸いな程度かもしれない。


いつの間にか倉庫の中に深く立ち込んでくる煙を恐ろしい目で見上げながら、クラウスミレはどんどん曇っていく意識を取り戻すために必死に頑張った。


「(工房にあった… 本に書かれて… 火事の時の… どんな内容だったっけ… タイトルは…)」


気を取り戻すために何でもいいから思い浮かべた。


「(そういえば… おじいさんの工房… 先月は… 掃除しに行けなかった…よね…)」


ほこりがたくさん積もっているだろうね。 ごめんね、おじいさん。


「(お母さん… お父さん……)」


最後に言っておきたいことがたくさんあったのに。


そして… フリー…


– バジジッ!


「クラウスミレ!」






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