第15話 襲撃
ハイネを襲撃した連中の一人が、クラウスミレを後ろから乱暴にとっ捕まえた。 クラウスミレがちっとも動けないようしっかりと両腕ごと抱きついてきた男は片手で彼女の口を塞いだ。
緊張感で興奮で荒くなった男息づかいが耳元を通り過ぎた。 鳥肌が立つほど不愉快な感覚が背筋を伝って流れた。思わずクラウスミレは、自分の口を塞いだ男の手を強く噛みしめた。
「ああっ! こんちくしょう!」
「きゃあっ!」
手を嚙まれた男は悲鳴をあげ、手を振り回した。頬を殴られたクラウスミレはその場で倒れてしまった。
「おい! 手は出すな!」
「くっそ!このあまっちょのしわざを見ろ!」
血が滴り落ちる手を出して見せる男の後ろに、一台の馬車が駆けつけ、慌てて彼らの後ろにに止まった。
「早く乗れ!野良犬の隊長は?!死んだか?」
「知らん!早く行け! とりあえず女は確保したぞ!」
男たちは倒れたクラウスミレを馬車の中に放り込んで、自分たちも急いで乗り込んだ。
「行くぞ!」
男たちとクラウスミレを乗せた馬車は、夕日が沈む方に向かって荒々しく走り去った。
静かだった道であっという間に起こった事態だった。これを目撃した数少ない通行人はいたが、彼らは手も足も出せず馬車が視界から完全に消えてから, 敷石の上に倒れているハイネのところへ駆け寄った。
「おい, あんちゃん。大丈夫かい?」
「ううっ…」
後頭部に強い衝撃を受けて倒れたが、幸いにもまともには打たれていないのか、意識は失っていなかった。 ハイネは通行人の助けを借りてやっと起き上がることができた。
「奴らは…どこへ…?」
「あちらに、西の方へ向かったよ。 それより大丈夫でか? あんちゃん、血をかなり流しているんだけど……」
「大丈夫です。」
誰かが床に転がっていたハイネの帽子を渡した。帽子についた真っ赤な鮮血は、すでにベタベタと固まっていた。ハイネは歯を食いしばりながら、帽子を手でぎゅっと握りしめた。
誰かが地面に転がっていた帽子を拾って渡してくれた。 帽子についた真っ赤な鮮血は、すでにベタベタと固まっていた。 ハイネはクラウスミレのことを思い出して歯ぎしりしながら帽子をぎゅっと握りしめた。
「ちっくしょう!」
「おい、そこ!いったい何の騒ぎだ!」
けたたましく馬のひづめの音が聞こえてきた。
陸軍の制服を着た5人の兵士がそれぞれ馬に乗って現れた。 尖った錐が光っている兜と華麗で長い肩章がついてる軍服を見て、彼らが誰なのか一目で分かった。
「おい、下がれ! 道を開けろ! 皇立騎馬憲兵隊だ!」
「ここに集まって何をしている! 全員逮捕する前に散れ!」
市民が襲われている時は見向きもしなかったくせに、いまさら現れて偉ぶるとは… ハイネはイライラしたが、今はそれどころではなかった。 彼は急いで、軍人たちの中で一番強そうな馬に乗っている憲兵のところへ向かった。
「そこの憲兵、馬を貸してくれ。」
「何だと? 貴様、 狂ってんのか!」
「俺たちが誰だか知ってんのか!」
「陸軍参謀総長のハイネ・フォン・シューマン元帥だ。早く馬を出せ!」
「どうかしてる野郎だったな。一刀のもとに斬り…」
「その刀抜いたら、てめえは確実に死ぬぞ。」
ハイネがポケットから取り出した軍の手帳。
そこには刻まれている『元帥府』という単なる三文字。 それだけでも憲兵たちは直感的に自分らの軍のキャリアに傷がついたと思ってたが、表紙を広げて現れた身分証を見た瞬間、彼らははっきりと悟った。「(終わった。)」
「げ、げ、げ、げ、元帥閣下!」
「ど、どうか、お、お許し、しを!」
今まで抑えていた怒りがそろそろ限界に達したハイネが怒声を上げた。
「いいから、さっさと降りろ!」
結局、ハイネは憲兵隊の馬を奪い、元帥府に向かって走った。
【早く乗れ!野良犬の隊長は?!死んだか?】
「あいつら、俺のことを『野良犬大将』と呼んでいた。 俺をそう呼ぶ奴らは、この国であの連中しかいない!」
ハイネは馬に拍車をかけた。