第11話 お見合い (1)
1.お見合いはデートの形で
2.待ち合わせはローレライ大学の前で
3.他の人なしに二人きりで
4.服装はご自由に
5.費用は割り勘で(重要)
これがクラウスミレがお見合いの申し込みへの返事で送った条件だった。
この事項を伝達しながらカールス·マインデイは顔が青ざめ、ハイマー商工大臣は口をあんぐりとあけ、最後に受け取ったハイネ·フォン·シューマン元帥はくすくすと笑った。
しかし、この唐突な条件付きの返事をを見て、真剣に眉をひそめた人もいた。
「二人きりで、ってことは護衛も副官も黙って消えろという意味なんですね。」
「おお、エルトマン大佐。 そろそろ君もこのお嬢様の話し方に慣れてきたようだな。」
「これは危険です、閣下。」
「ローレライ大学の前なら、首都ローレライでも一番賑やかで混んでる場所だと知ってる。 そんな所で私を狙う誰かがいるとは思えない。」
「必ずそうだとは言い切れません。 暗殺者が丁重に時間と場所の約束を取ってくるわけではないじゃないですか。 それに、鎮圧されたばかりのカリヤ反軍と閣下に征服されたマルラニ公国も、いつでも閣下を狙う可能性があります。」
「それが怖いなら、今でも参謀総長辞めて家に引っ込んでるべきだろう。あ、もしかしてあれか?俺を引退させて、君がこの座を奪うつもり? 大佐にはまだちょっと早いぞ。」
「その座がどれほど疲れるのかは傍から見てきてよく承知しております。こちらからご遠慮させていただきます。それより、一つだけ進言したい策がありますが。」
「策?」
「ちょうど4番の項目に服装はご自由に、と書いてあります。 ですから…」
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チェス盤みたいなチェック柄のズボンにシャツとベスト。その上に羽織ったカシミアのポロコート。エルトマンの提案どおりに着飾ったハイネの姿は、30代の高級将校というよりはまるで大学生のようだった。
『おまえがついに俺を羞恥死で暗殺しようとするんだな。 背後は誰だ? 海軍か? 近衛隊か?』といううわごとは片耳で流しながら、 エルトマンは冷静にスケジュールをまとめた 。
『お見合いの当日、元帥閣下のスケジュールは騎兵隊の視察でございます。 こちらは護衛兵のうち、閣下と体格が似ている兵士に元帥服を着せて送ることにします。 その間、閣下はローレライ大学の前でマインデイ嬢とゆっくり時間をお過ごしください。』
『欺瞞作戦だね。』
『そうです。 最近流行っている大学生の服装を参考してもらった偽装ですので、正服や制服よりこのほうがむしろ目立たないでしょう。 』
『おい、偽装とか言うなよ。』
『そしてプロフィールによると、マインデイ嬢は休学中の大学生なので、この偽…この格好の方がお二人には自然に似合うと思われます。 幸いに、元帥閣下は見た目「だけ」は若く見えるお方ですので。』
『おい、おまえなにげなく「だけ」に力入れなかった? 喧嘩売ってんのか?』
そういうわけで幼年期の以来、制服と正服、そして戦闘服以外の服は着たことがほとんどないハイネが、ぎこちないカジュアル姿でローレライ大学の正門に堂々と立つことになったのであった。
そしてそんなハイネの前に現れたクラウスミレの格好と言えば…
「……マインデイ嬢、もしかしてまたお酒を?」
「たった一度飲んだだけで、人を酔っ払いのように言わないでもらえるのかしら?」
そのたった一度がシャレにならなかったからだよ。
と言う代わりに, 自らを良識がある軍人だと自負するハイネは上品に指摘をした。
「じゃあ、何のつもりで高校の制服なんか着てきたのかな?それより、いったい何年前に卒業したんです?」
「あら、レイディの年齢を聞くなんて、士官学校ではレイディへの礼儀作法を教えなかったのですか? それとも卒業してからずいぶん経って忘れてしまったんでしょうかね。」
こうして、30代元帥の大学生コスプレと20代大学生(休学中)の高校生コスプレは成立したのであった。




