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32、頑張る

 場所を移動し、4人で話しているとき。イグナルスは先ほどの王太子、ヴェルスの話をした。ヴェルスがイグナルスに声をかけてきて、ついてこいと言ったことを。


 それを聞いたラウローリエが不思議そうに首を傾げる。


「王太子殿下は、何の用があるのかしらね。私はほとんど会ったことがないし」

「ラウローリエと面識ないの?」


 婚約の話が出るくらいだ。顔合わせくらいはしたと思っていた。しかし、ラウローリエははっきりと首を振る。


「遠くから見たことはあるけれども。それくらいよ」

「そっか」


 それでも、ラウローリエが見たことがあるということは、王太子もラウローリエのことを見たことがある可能性がある。そのときに、自分と結婚するのだと当然のように思っていたかもしれない。


「こちらが勝手に気まずく思っているだけだと思っていたけれど。殿下は何を考えているかさっぱりだわ」


「自分の女を奪った、と王太子殿下が思っているんじゃないかな?」


 アデルバートがそう言ったのに、イグナルスも頷いた。何となくヴェルスがラウローリエに好意を持っている気がしたから。


 ラウローリエは不思議そうに瞬きをした。


「婚約の話が水面下で出ていただけだし、もともと断る予定だったのに?」

「結果的にそうだったのかもしれないけれど。それでも、奪われた感覚になったんじゃない?」

「確かに」


 アデルバートの言葉にイグナルスが頷いていると、おっとりとしたマグダレーネの声がした。


「王太子殿下がラウローリエに興味を持っていたから、別の人と婚約したのが悲しかったのかな?」


 マグダレーネの柔らかい言葉に、イグナルスは曖昧に笑った。興味をもった、の程度だったら良いのだが。ヴェルスの気持ちまで知ることはできない。


「これから、同じクラスでどうしたら良いんだろう……」


 気が重い。仲良くなりたいとまでは思っていないが、顔を見ても気まずくないくらいになりたかったのに。

 イグナルスが俯くと、アデルバートの淡々とした声で言った。


「無礼で下品なことを言うけど無能ではないから、どうにかなるよ。きっと」

「……」


 無礼な有能な人間の方が面倒な気がする。イグナルスは視線を落としたままだった。


 ラウローリエと婚約をすることは、王太子と対立する可能性があった。その事実はもちろん承知していた。それでも、いざそうなってみると、どうしたら良いか分からなくなる。


 ◆


「イグナルス。あいつのこと、どうにかしてやろうか?」


 帰宅してすぐ。グラキエスから声をかけられて、イグナルスは赤の目を見開いた。そんなイグナルスを見て、彼はにやりと笑う。


 イグナルスは頬を緩めた。相変わらず頼もしい人だ。グラキエスにお願いすれば、数日で問題はさっぱり解決していることだろう。


 それでも。グラキエスに頼りたくないな、と思う。もしどうしようもなくなれば、助けを求めたいとは思うが、できることなら自分の力で解決したい。


 イグナルスは、グラキエスの微笑みかけた。


「グラキエスお兄様。大丈夫です」

「そうか?」

「僕、頑張ります」


 具体的な方法は決まっていない。王太子と仲良くする方法を考えるか、できるだけ関わらない方法を考えるかの方針くらいは決めた方がよさそうだ。


 ラウローリエと婚約をできたからこそ、頑張ろうという気持ちになれる。


「お前がそう言うなら良いけれど。本当に困ったら言えよ」

「ありがとうございます」


「でも、僕はいまのところ大丈夫です。僕じゃなくてプリムローズのことを気にかけてください」


 兄弟を大事にしているグラキエスだから、イグナルスに意識を向けてもらうよりも、プリムローズのことを気にしてほしい。


 イグナルスはそう言ったのだが、グラキエスは首を傾げてから苦笑した。


「プリムローズ? あいつはなあ……。俺が助けるまでもないだろう」

「プリムローズは、しっかりしてますからね」


 人形のようにかわいらしいプリムローズだが、たまに苛烈さを見せることもあるようだ。以前、プリムローズが他家の令嬢と喧嘩したとき、相手を完膚なきまで叩きのめしたらしい。


 プリムローズのにこにこした笑いが、ただ無邪気なものではないことは何となく気づいていた。プリムローズは聡明なのだろう。


 イグナルスがそう考えていると、グラキエスがぼそりと呟いた。


「……しっかりしているというレベルじゃねえけどな」

「え?」

「いや……。まあ、プリムローズは大丈夫だ」


 少し気まずそうに目線を外しながらも、グラキエスは大丈夫だと言い切った。それだけ、プリムローズのことを信頼しているのだろう。イグナルスは心配をかけてしまって申し訳ない。


「僕も、グラキエスお兄様に信頼してもらえるように頑張ります」


 身体の前でぐっと拳を握ったイグナルスが言うと、目を合わせてきたグラキエスは困ったような顔をした。


「信頼してないわけじゃないが……。なんか心配なんだよな」

「ええ……?」


 そう言われても、どうしたら良いか分からない。イグナルスが情けない声を出すと、グラキエスは楽しげに笑った。


「まあ、やれるだけやってみろ。いつでも助けるから」

「ありがとうございます」


 兄にも応援されたところで、明日から頑張ろうとイグナルスは改めて覚悟を決めた。

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