060-「戦いと覚悟」
オーロラが命じる。
『ガウェイン艦隊、一斉砲撃開始!』
ガウェイン艦隊の強みは、何と言っても戦艦にあるまじき長射程である。
ブラスターによる長距離の一斉射は、旗艦級戦艦に大きなダメージを与えるほどである。
『砲撃感知――――無効。攻撃を停止する理由なし』
だが、ナージャには通らない。
その触手のような砲台と、周囲に散った筒状のセントリーガンから放たれた砲撃は、シールドを容易に貫通して、戦艦群に損傷を与えていく。
『友軍の被害拡大』
「セントリーガンの排除に努めろ! 全モジュールをオーバークロック!」
だが、その甲斐虚しく、ついに一隻の船――――シンビオシスが機関部を撃ち抜かれ、内部から爆散した。
『シンビオシスが撃沈されました』
「あいつは小型艦特化だからな......オーロラ、交換は終わったか?」
『はい、一極化大型シールドエンハンサー、再起動!』
一極化大型シールドエンハンサーは使い切ると焼け付いて使用不能になる。
しかしながら、予備が積めないとは誰も言っていない。
シールドエンハンサーを再起動したアヴェンジャーは、ナージャのレーザー砲撃に耐える。
巨大なレーザーの横を、無数のコルベット・フリゲート艦隊が通り抜けていく。
『ブラインドファイス、妨害を試行....しかし、効果が認められません』
「なら下がらせろ! ドローンの排除に回せ!」
エクサシズムは、ナージャへの砲撃を続け、アコライトとブラインドファイスは、11機の残存ドローン排除に向かう。
『無効。敵損害拡大。理解不能。理解不能。』
その時、ナージャはとあるアイデアを閃き、それを実行した。
そう、ワームホールの出口を閉じたのである。
外からの通信を失った船たちが、一斉に沈黙することを望んで。
だが、船たちは止まらない。
『何故? 現宙域に指揮官級の存在がいると仮定、しかし――――』
「お前にはわからないだろうが.....」
その頃、シンは独り言ちていた。
「戦いには”覚悟”が必要だ。それが遅かれ早かれ、あるのとないのでは、戦況を大きく左右する――――即ち。将こそ戦場にあり!」
シンがいる場所は、戦闘指揮所ではない。
アヴェンジャーの艦橋である。
外部との遮断を見越していたシンは、自ら艦橋へと乗り込み、オーロラをそこにインストールした。
そして。
『〈一匹狼〉ルルシア・アリーシア....出撃します!』
ユリシーズの甲板から、たった一機の戦闘機が現れた。
スワロー・エッジは折り畳み式の左右翼を展開し、その尾から光の粒子を噴出させて飛翔する。
「お前はひとつ、大きなミスを犯した」
シンは呟く。
オーロラはシンが何を言うか分かっていたが、黙っていた。
「それは、自分たちの技術が解析されることなどないという傲慢から来た、致命的なミスだ」
ルルを乗せたスワロー・エッジは、セントリーガンによる弾幕をすり抜け、バレルロールを繰り返しながらナージャへと肉薄する。
「乾坤一擲....乾坤一擲....!」
ルルはそう呟きながら、ナージャの眼前へと躍り出る。
『単騎での突撃、理解不能。理性の喪失と判断、撃墜する』
「お前は何も分かってはいない――――」
ルルの戦闘機から放たれた弾頭は、ナージャに向かって真っすぐに飛ぶ。
ナージャは、その程度の攻撃とそれを見誤った。
巻き起こった爆発は、衝撃ではなくシールドに干渉する。
シールドキャンセラーを改良する過程で生まれた、「シールドヴォイドボム」。
それが炸裂したのだ。
「今だ、アルファストライク!」
シールドを抜かれたナージャに、艦隊中からの砲撃が突き刺さる。
だが、ナージャは諦めてなどいなかった。
『敵旗艦を排除し、この状況を――――』
「既に――――読んでいる!」
先程までの「ニューエンド」とは異なる通常兵装「ラルクアンシエル」を使い、直接アヴェンジャーを攻撃して全てを終わらせようとするナージャだったが、直後その眼前にアヴェンジャーが出現する。
チャージが終わると同時に、アヴェンジャーがナージャに突撃を仕掛ける。
装甲板を突き破り、ナージャの内部へとその船体を潜り込ませたアヴェンジャーだったが、ラルクアンシエルが至近距離で炸裂する。
「耐えろ――――!」
異空間全体を、ラルクアンシエルとシールド、二つの色の光が鮮やかに彩る。
数秒にも、数時間にも思える拮抗の末、勝利したのは――――
「......賭けには勝った、か」
ラルクアンシエルが霧散し、シールドだけで耐えきったアヴェンジャーがいた。
ナージャは即座にニューエンドを起動しようとするものの、その判断はオーロラの方が早かった。
至近距離で「オーロラ・グランツ」の輝きが膨れ上がり、そして。
「撃てッ!!」
光の爆発が、ナージャを内側から蹂躙する。
不完全なニューエンドとオーロラ・グランツの衝突で、ナージャの装甲板は背中側に捲れ上がり、その隙間から漏れ出た衝撃が噴き出す。
『理解不能。理解不能。理解不能。理解不能――――』
「分からないなら、分からないで構わない」
ナージャの声が聞こえていないにもかかわらず、シンは呟く。
そして、光が収まった時――――ナージャだったものは完全に残骸と化し、アヴェンジャーの前に浮かんでいたのであった。
『敵旗艦の沈黙を確認。勝利です!』
「やった、な」
『やりました!』
ルルの嬉しそうな通信を聞き、少し休もうかとシンが肩を降ろしたとき。
アヴェンジャーのブリッジ全体に警報が鳴り響く。
「なんだ!?」
『ポケット空間が崩壊を始めました、全艦隊衝撃に備え――――外側に放り出されます!』
ポケット空間に空いた穴は、異次元という水の中にある泡である。
その泡が弾けたことで、Noa-Tun組は外へと一斉に放り出される。
「ルル! 適当な船に係留しろ!」
『は、はい!!――――』
艦隊はひとまとめの団子状態になり、ドローンの残骸やその遺跡、そして――――ナージャの残骸ごと、既知宇宙へと放り出されたのであった。
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