238-ただ一つの夢
斬りかかった俺は、その感触の重みに驚く。
流歌はそれを躱さずに、受け止めているのだと。
この膠着状態を続けるわけにはいかない。
「シッ!」
「っ!」
まず俺は、流歌の肩を狙う。
だがそれは阻まれ、反対に鋭い薙ぎの一撃が差し込まれる。
気付けば、カウンターと攻撃の応酬がたった一秒の間に五回も起きた。
流歌は斬撃をただ受け流すだけで、俺と戦う気がないように見える。
だが流歌はチャンスを窺っているだけだ。
「どうした、流歌。剣道、フェンシング大会金賞受賞者の割に、随分剣が弱いように見えるぞ」
「...お兄ちゃんと戦いたくないだけだよ」
「なら、死ね!」
俺は流歌に向けて飛び出し、光の剣を上段に構えて振り下ろす。
流歌はその動きを見て、光の剣を上手に構えて防ぐ。
俺は光の剣の出力を変えて刃を透過させるが、流歌はそれを見た瞬間に後ろ跳びに回避し、後転倒立回転跳びを綺麗に行って距離を取る。
「どうして...私は!」
「語る事はもう無い、家族ごっこの時間はもう終わった」
流歌は国を、仲間を、家族を殺された戦士にならなければいけない時間だ。
俺は一人の少女から全てを奪った悪の帝国の枢軸とでも言うべきか。
そんな立派なものじゃないが。
「ウォオオオオ!」
「ッ!」
俺は猛然と距離を詰め、鍔迫り合いに持ち込む。
だが、流歌はそれを、光の剣を曖昧にする事で回避し、俺の腕を狙って斬撃を差し込んでくる。
すかさず俺は跳び上がり、流歌の肩を足場にして飛び越える。
追撃で飛んできた背を狙う斬撃を、明瞭化させた光の剣で受け止める。
平気で背中を狙ってくるようになったな、あいつも本気だ。
「(剣を手放せ)」
心の内から声が響いてくる。
俺はそれから目を背け、流歌に曖昧化した斬撃を浴びせ掛ける。
だが、流歌はそれをキネス能力で押し流して、俺から距離を取る。
これで、流歌と俺の距離は絶対的になった。
ただし...それは俺が、普通に近づいた場合だけである。
「ッ!?」
「死ねぇ、流歌ァ!」
流歌と俺の距離を、「破壊」する。
そうする事で、俺は擬似的にテレポート出来る。
これは正確な距離が分かっていなければ事故るのであまりやらないが...奇襲にはなったはずだ。
俺は流歌へと鍔迫り合いを仕掛け、刃が曖昧化すればこちらも曖昧化で対処する。
曖昧化による範囲斬撃や、斬撃を飛ばすような攻撃は、刃を構成する何かの粒子にエネルギーを乗せて飛ばしているに過ぎない。
だから、こちらも同じようにしてやれば防げる。
「(防ぐな、そのためにここまで来たんだろう)」
心の声は更に大きくなる。
そうだ、俺はどうして戦っている...?
「くっ!」
ダメだ。
集中を乱せば、その隙を突かれる。
俺が戦っているのは、格下でも、対等な相手でもなく――――
俺の妹、そのものなのだから。
「追い詰めた!」
「いいや、まだだ!」
流歌の全身から蒼雷が吹き荒れる。
俺はそれを、身の内から溢れ出す破滅の力で相殺する。
それと同時に、俺と流歌は剣術をかなぐり捨てて鍔迫り合いに持ち込む。
”そうしたい”と感じたからだ。
俺と流歌は、どうやら今同じ気持ちらしいな。
「(........血の繋がらない、不思議な妹だってのにな)」
これは流歌も知らない、俺と家族だけが知る事実。
母親が流歌に興味を示さなかったただ一つの事実。
流歌は、母親のDNAも継いでいない。
母親の胎から産まれたのにも関わらず、そのDNAは母系・父系どちらにも属していない。
完全な赤の他人。
だが、身内の考えというものは似ているらしい。
「(思えば、父親の他人行儀もそのせいか)」
俺は流歌の連撃を、腕を痛めながら受け流す。
その過程で、ふと気付いた。
父親は、血が繋がっていないというその理由だけで、妹を愛さなかったのだ。
何て愚かな男だ。
「今度こそ終わりだ!」
「終わらない! 絶対に!!」
何度目かの応酬の末、先に体力が尽きたのは俺だった。
副作用で意識が朦朧とする。
全身が激しく痛む。
だが――――ここで気絶するわけにはいかない。
俺はこの時の為に――――全て準備してきたんだ。
「うおおおおおお!!!」
本気のふりをして、俺は流歌に斬りかかる。
明瞭化した光の剣同士がぶつかったことで、通常の反作用が働く。
その勢いで後ろに下がったように見せ、流歌の斬撃を誘った。
「(.......)」
胸の内で、息を吐く。
ようやく。
ようやく――――終わる。
「はぁああ!!」
「なっ!?」
その時。
流歌の斬撃が、俺の想定していたものと違う挙動を取る。
そして、俺の体はそれに反応してしまう。
違う、違う違う違う!
そうじゃない、そうするべきでは――――
次の瞬間。
俺の顔に、光の剣が突き刺さっていた。
「あ――――」
流歌の手を離れた光の剣は、刀身を失って落下する。
そして、空を切ったように思えた俺の剣も、流歌の左腕を、肩から切り取っていた。
俺は....俺はなんてことを......
「お兄ちゃん」
「....流歌」
肩から噴き出す血なんて、まるで大したことがない様に。
妹の顔は、悲しみに満ちていた。
「ごめん、”予知”を使って....何が起こるか見ちゃった」
「やめろ」
「お兄ちゃん.....」
「...やめてくれ」
「―――――――今までずっと、私に殺してほしかったんだね」
流歌は予知で見たらしい、俺の夢を語った。
俺は流歌の顔を直視できずに、ただ俯いた。
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