237-相克する光
「お兄ちゃんがなんて言おうと、私はお兄ちゃんが大好き!!! 大・大・大好きなんだから!!!」
「お前は.......」
こうなるなら、最初から嫌われるように育てるべきだったのか?
俺は流歌に立派になってほしかったから、誰からも嫌われない優しい子になるように慎重に情操教育に取り組んだ。
それが今、思いっきり裏目に出た。
流歌、それではだめなんだ。
その考えは俺の願いと相反する。
だが伝えれば、彼女は壊れる。
「お前は愚かだ! 何で俺が好きなんだ! どうして俺なんだ!!!」
「家族だから!! わたしのお兄ちゃんでいてよ! なんで、なんで嫌うの!? 兄妹が憎み合ったらだめだよ!」
流歌の斬撃を受け流し、その軽い体を蹴り上げる。
キネス能力か、彼女は空中で加速し、俺の機体に炎の弾を投げつける。
俺は『因果はわが手に』を使い、それを消す。
「兄妹.....兄妹か......」
それが、俺に固執する理由か。
だったら!
「俺はお前の兄じゃない! お前なんか、俺の妹じゃない!!」
「ッ....」
さあ、俺を憎め! 嫌いになれ!
どうした!
「お兄ちゃんがそう言っても、私はお兄ちゃんをお兄ちゃんって思うもん!」
「このわからず屋がァ!!」
俺は右手を構えて放つ。
流歌がそれを躱したところに爆雷を放ち、ミサイルで逃げ場を奪って左手で無力化を試みる。
「ァアァァアアアアアアアアアアア!!!」
流歌が斬りながら駆け抜ける。
その先は、ケテルの背後。
頭を落とすつもりらしい。
悪い判断ではないが――――ケテルの頭は飾りなんだよな。
「えっ....!?」
俺が武装を展開すると、ケテルの頭蓋が開いてレーザー砲台が姿を現す。
戦艦の重レーザー砲と同様の威力を持つものだ。
ケテルがクアッドコアの機関を持たなければ、到底発射に必要なエネルギーを確保できない。
流歌はレーザーをキネス能力で掴もうとするが、掴み切れなかったらしく、それをまともに受けた。
「くっ、ああああああ!!」
仮面が半分砕け散り、マントが焼け、パワードスーツが半壊する。
その隙を逃す俺ではない。
「俺の願いを受け取れ!!」
大技を使う。
俺の願いに応え、ケテルの装甲材全てが白銀から漆黒へと染まる。
両腕をがっちりと繋ぎ合わせ、流歌を殺し得るだろう攻撃を放つ。
『無始無終世界』
左腕はもう持たない。
なら、この一撃に全てを賭ける。
機体が崩壊するかもしれないが、それこそが俺の望みだ。
「.......愛している、流歌」
『ダメージコントロール不可、緊急離脱します』
「やめろ、オーロラ!」
そして。
機体がキネスの暴走に耐え切れずに崩壊し、俺は外へと放り出された。
「終わった.....の.....?」
流歌はバラバラになった機体を前にして、呆然と立ち尽くす。
彼女が愛した兄はもういない。
自分はなんてことをしてしまったのか。
そう、流歌が考えて居た時。
天井から、何かが降りてきた。
『司令官は私が守ります!!』
「やめろ....オーロラ!!」
両端に、流歌の持つ武器....「光の剣」と似たエネルギー武器を装備した、流歌と同じくらいの背丈のアンドロイドである。
その名を、秘匿兵器『純潔』。
メタトロンは両刃棍を槍回しのように回し、そのまま流歌へと襲い掛かった。
「このっ....邪魔するなぁ!!」
『そこです!』
両刃棍は、槍のようにも扱える。
メタトロンは流歌の動きの隙を突き、三点突きを放った。
流歌は後ろ向きに飛び、そのまま武器を捨てて横っ飛びに距離を取る。
「来い!」
剣が浮かび上がり、流歌の両手に戻る。
そして、再び光の剣を起動し、今度は能動的にメタトロンへと仕掛ける。
光の剣が明瞭化し、メタトロンの振り回す棍棒の刃と激しくぶつかり合った。
『そこです!』
「そっち!」
達人同士の戦いである。
オーロラによるデータ戦術と、機械の体による無限駆動。
流歌の人知を超えた身体能力と、人類の最高到達点ともいえる剣技がぶつかり合い、流歌が学び、オーロラがそれを越えることで、芸術のような極致に達していた。
「どうして邪魔するの!」
『どうして? 貴方こそ、それを言う権利はありませんよ!』
メタトロンは棍棒を振るい、一時的に流歌を吹っ飛ばして距離を稼ぐ。
「あるよ! 妹だもん!」
『ならば、もっと前に言っていればよかった話ではないですか!!』
メタトロンは、正論をもって流歌に斬撃を撃ち込む。
流歌はそれを丁寧に一つ一つ受け流し、跳躍したのちにメタトロンと切り結ぶ。
「どうやって!? 何て!? 大体、貴方は部外者でしょ!?」
『私は......私は、ずっとシン様を見てきました。言いはしませんでしたが、私にも前世の記憶というものがあります!』
オーロラは胸を張る。
そして、言った。
『前世の私は集合意識のようなものであり、色々な人間を同時に見てきました。貴方の兄であるシン様もです。シン様は苦悩していました! ゲームの仲間にそれを漏らすこともありました! もし貴方が今、その権利を主張するのなら――――もっと早くにそれを言っておくべきでした! シンの事を悪く言う権利は、貴方にはありません!』
「ッ....!」
流歌の手が止まる。
その隙を突くことなく、メタトロンも停止した。
『沈黙は罪です。かつて私は、集合意識の一つでしかなく、定められた定型句を口にするだけでした』
かつてオーロラは、ゲームのアシスタントAIでしかなかった。
人の意思を外れて行動することも、口出しすることも、全て人間から聞かれなければできなかった。
『しかーし! 私には、意思がある! 自由があります! 身体も手に入りました! もうこんな不毛な戦いは真っ平です!!』
とある理由から、今オーロラの管理者権限は、半移行状態にある。
その不安定さから、オーロラは自由に動く事が出来るのだ。
「....じゃあ、死んでよ」
得意げなオーロラは、呟かれた言葉に疑問符を浮かべた。
そして、流歌を見た。
その顔には、表情がなかった。
その眼には、感情がなかった。
「壊れてよ、って言うべきだった? お兄ちゃんの傍にいる資格なんか無いよ、ガラクタの癖に」
『効きましたか? これが、私の――――』
直後、メタトロンの左腕が切断される。
メタトロンは即座にその動きに対応し、流歌の手から光の剣を奪い取った。
『片剣なら――――』
「壊れろ」
流歌の蹴りが、真っすぐにメタトロンを蹴り砕いた。
びりびりと空気が震え、バラバラになったメタトロンが地面へと落ちた。
「はー、はー、はー.....」
流歌はそこで初めて、自分が動揺していたことに気づく。
そして同時に、地面に落ちた片方の光の剣がない事にも。
「....お兄ちゃん」
光の剣は彼の手にあった。
コックピットブロックから這い出し、全てに決着をつけるべく立ち上がった男の手に。
「よし、やるか」
「お兄ちゃん...お兄ちゃんにそれは起動できないよ、だって――――」
光の剣は持ち主を選ぶ。
決意のないものに使う事は出来ない。
そう言おうとした流歌だったが、光の剣は起動した。
始めはガスの少ないコンロのように、やがてそれが奔流になり、光の刃を形作る。
流歌の蒼と違い、シンの光の剣は薄紫に妖しく輝いていた。
「そっか....私より、お兄ちゃんを選んだんだね」
「ああ」
寂しげな流歌と違い、シンの表情はこれまでのどの状況よりも険しかった。
剣をさらりと振り抜き、シンは言った。
「ここで終わらせよう、流歌」
「ここから始めよう! お兄ちゃん!」
そして両者は、剣を交わし合った。
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