233-聖域の戦い
ラビとルルが戦っている間に、アドアステラは外壁で静止していた。
非戦闘員を残し、ついに流歌が仲間と共に内部へ突入したのだ。
「何だ...ここは...?」
オリジンスターの内部は空洞であった。
当然である。
装甲を貫き、武装を制御するのに必要な部分を貫けば、オリジンスターはただのNoa-Tunの強化外装甲でしか無いのだから。
『ようこそ、オリジンスターの内部へ』
その時、一行の眼前にディーヴァが現れた。
それを見た、狼頭の男が渋い声で呟く。
「ホログラムです、惑わされない様」
「分かっている」
『この先にNoa-Tun、妾たちの愛の巣があるのじゃが...生憎、今日は面会拒否でな、通すわけにはいかんのじゃよ!』
ホログラムを破り、無数の光線が一行を襲った。
だが、流歌が構えた盾が発生させた防御フィールドにより、それらは防がれる。
「散れ!」
『ボクが相手するよ!』
並行して飛んでいた一機の機体が、ディーヴァの前に立ち塞がった。
奇妙な形状をしており、概ね人型であるものの腕は蛇腹の様になっており、伸縮自在である様に見えた。
『地味な機体じゃな、強そうには思えんぞ?』
『強さは見た目じゃない、テクにあるとボクは思ってます!』
『ならば、テクで勝負じゃ!』
マルクトが、シュッツェ・フリューゲルスを最大展開する。
それらは飛び出すと同時にディーヴァの制御下に入り、それぞれの機能を発揮し始める。
『まずは前戯と行こうぞ!』
『おねーさん、する派なんだ! ボクもスる時はやるかも!』
前翼に展開されたビットが一斉にレーザーを放つ。
それを、敵は両腕のシールドを重ねて防いだ。
『意外と気が合うかもしれんな、お主、名は?』
ビットの攻撃をかわしながら、その機体に乗る女は答えた。
『ボク? ボクはエンテ。エンテ・カスクレイ! 覚えていってね!』
その機体は、レーザーの雨をいなしながら、一挙にディーヴァへと肉薄した。
両手のレーザー砲を、一斉にマルクトにぶつける。
『あ、この機体はテンタックラーって言うんだ』
『妾のマルクトの方がイカした名じゃな』
『言ったな!? こっちが勝ったらその名前もらうよ!』
テンタックラーは、両腕を振り回して高速回転しながらマルクトのシールドに干渉する。
ディーヴァはそれを回避し、A.O.Iを一発放つ。
『おわぁっ!? ミサイルもあるんだ!?』
『ビーム砲もあるぞよ!』
マルクトの両舷ビーム砲を回避したテンタックラーは、再び両手のレーザー砲をマルクトへと放つ。
だが、代わりにビット同士が連結して盾を形成し、ディーヴァはそのレーザーを弾いた。
『ちょっとっ、多すぎない!?』
『そうかのう』
場に展開されているビットは全部で500。
それらが、まるで全て生き物のように統率されて襲い掛かる。
テンタックラーは、それを損傷を受けながら受け流していく。
『ちょっとー、ボクみたいな単純なロボのする相手じゃないって言うかー...』
『ならば仲間を呼ぶがいいぞ』
『ううん、呼ばないよ、だって...』
直後、テンタックラーの全身から、追加で腕が伸びる。
それらは全て、先に砲台らしきものが接続されていた。
『ボクにも、矜持ってものがある!』
『ああ...そう、じゃな』
ディーヴァは少し顔を曇らせて、尋ねた。
『のう、矜持とは、何であろうか?』
『自分が今一番大切にしたい考え! ボクはね、お父さんをカル様と結婚させたいの!』
『そうか...ならば、蟠りは特にないのう、死ぬがいいわ!』
『そっちこそ!』
500のビットと、十本のレーザー砲。
本来前者が勝つその戦いは、操縦者の圧倒的なセンスにより後者との互角の戦いとなった。
だが、得てして限界というものは来る。
『ぐっ...』
通信の裏で警告音を響かせながら、テンタックラーが停止する。
『どうしたのじゃ?』
『エネルギー切れが近いみたい。...ねぇ、ディーヴァ様、あなたは帝国の皇女なんですよね?』
『あ、ああ...そうじゃが』
『カナード・カスクレイが娘、エンテ・カスクレイは、あなたに決闘を申し込みたい』
唐突な決闘の申し込み、本来であれば困惑するはずだ。
だが、ディーヴァも帝国人である、こういう時に決闘を申し込む文化は知っている。
『うむ、引き受けよう。では...』
『行くよ!』
テンタックラーは、全ての砲口をディーヴァへと向け、放った。
ディーヴァはそれを避けず、マルクトのシールドだけで受け止めた。
やがてレーザーは弱まり、そして消えた。
『さらばじゃ』
最早通信を維持できるエネルギーも残っていないテンタックラーは、ビットの総攻撃により一瞬で蜂の巣になり、冷えた鉄の塊と化す。
その上で、更に接近したビットによってバラバラに分解され、散った。
オリジン・スターの内部は酸素があるため、エンテは生きている可能性があったものの、ディーヴァがそれを取り出した時、彼女は息絶えていた。
ディーヴァは悲しげにそれをミサイルポッドの空き部分に仕舞うと、シュッツェ・フリューゲルスの収納を始めるのであった。
Noa-Tun外周部。
そこでは、四機の機体がぶつかり合っていた。
Noa-Tun所属のイェソドと、流歌の仲間が乗る「ブルーワールド」が、
Noa-Tun所属のダァトと、流歌の仲間が乗っている「オクティアン」が、
それぞれのフィールドで戦っていた。
『シールド低下、そちらの機動性では.....』
『どうでしょうか? 耐久力がないのはそちらも同じでしょう』
イェソドはスラスターを短く噴射しながら、ブルーワールドの両腕のガトリングガンの斉射を回避する。
腕の手前が開き、ガトリングパルスレーザーが姿を現した。
イェソドはそれで牽制しつつ、両肩部と頭部を展開、重レーザー砲と二連装ガトリングパルスレーザーでブルーワールドを狙い撃ちにする。
『これも、避けますか....』
ブルーワールドは上部にスラスターを吹かして回避、Noa-Tunの外壁を駆けるようにしてダァトの後部を取る。
右腕部に接続されたショットガンが、ダァトの無防備な背中を撃った....かのように思えた。
しかし、実体弾の一撃はシールドに阻まれ、代わりにイェソドは、左腕部を露出させた。
それが、旋回中で速度のないブルーワールドを狙い撃つ。
重い音が響き、ブルーワールドは正面装甲が陥没して壁に叩きつけられる。
『向こうは苦戦しているようですねぇ、加勢されてはどうですか?』
『シトリンはうまくやりますよ、私がどうこうする問題ではありません』
片側では、蛸頭の亜人が操るオクティアンと、フィーアが操縦するダァトがぶつかり合っていた。
『それにしても、あなたの武器はつまらないですねぇ。私の嫌いな剣筋と同じですよ』
『元々は戦闘用ではないもので、仕方ない事ですよ』
オクティアンは両肩に接続された衝撃波砲塔と、腰にある移動用フックを巧みに操り、フィーアは人馬形態のダァトで、双剣を操って戦っていた。
ダァトの飛行形態は実は飾りであり、人馬形態こそがメインの戦闘形態なのだ。
電子戦機能は失われているが、しかし、剣こそが帝国人の誉れである。
『取りました!』
『見事です!』
ダァトの突進をスラスターを全開にして跳ぶことでかわしたオクティアンは、右腕部の武器をダァトに向ける。
ダァトはそれを認識した瞬間、外壁を駆け上る。
そして、オクティアンが回避に移るより速く、その上を取った。
オクティアンは移動用フックで応戦するものの、
『姑息ッ!』
ダァトは片剣だけでそれを弾き飛ばし、オクティアンに迫る。
『こんな近距離で使わされるとは.....やはり貴方は、凄いですよ』
だが、オクティアンの武装展開のほうが早かった。
「パラライシスリンク」というその武装は、ダァトの全ての制御回路を即座に沈黙させた。
動かなくなったダァトを、オクティアンは蹴り飛ばした。
「.......これは.....成程」
システムを掌握された。
即座にそう判断したフィーアは、操縦桿から手を離した。
『私の勝ちですね』
「そうですね.......」
フィーアは、オクティアンが両肩の衝撃波砲を展開するのを静かに見つめていた。
『どうやら、向こうはもう終わるようですが』
『そのようですね』
ブルーワールドは右腕を失い、イェソドは半身を破壊されていた。
『助けに行かないのですか?』
『助ける? 何故ですか?』
『あなたには騎士特有の誠実さを感じます、そんなあなたが....』
『少し間違っていますね、それとも....王国の騎士はそんなに愚かなのですか?』
イェソドは全武装をパージする。
それに、ブルーワールドは困惑して立ち止まる。
『騎士とは、人を信じるものです。それに.....もし、助けてほしいと願う状況になったのであれば....』
イェソドの後部から、より小さい機体が分離する。
その直後、イェソドが勢いよく飛び出し、ブルーワールドに取り付いた。
『自分で何とかするものです』
『これはッ....自爆!?』
イェソドは自爆した。
凄まじい爆発は、ブルーワールドを粉々に破壊し、中のシトリンと呼ばれたアンドロイドごと吹き飛ばす。
『....同時に、助ける必要がないとも言えますね』
ツヴァイはそちらを見る。
そこでは、宙を漂うダァトと、それを見ながら衝撃波砲を展開するオクティアンが見えた。
ツヴァイはそれを見ながら、一つだけメッセージを送った。
『........王国人を前に、気後れするのですか?』
と。
それを見た瞬間、フィーアの全身の血が沸騰する。
「おうこくじん.....王国人ッ!!!」
殺す!!
フィーアがそう思った瞬間、彼女の記憶の奥底から、とあるモードの存在が蘇った。
『いいか? もし王国人相手に機体のコントロールを奪われるような事態になったら、これを起動するんだ。直接デバッグして取り返すような形になるんだが.....お前ならできるだろう?』
「王国人ッ!!!!! 殺す、殺す、殺ぉおおおおおす!!!」
コンソールが開いて展開されたキーボードを高速で入力し、フィーアは乗っ取られた機体のコントロールをたった数秒で奪い返す。
そして、途中で気付いた隠しモードまで同時に展開する。
ダァトの背から翼が生え、ダァトは速度を上げてオクティアンに迫る。
『くっ....!』
衝撃波砲が、摩耗していた剣を破壊する。
ダァトは武器を失った。
『武器がなければ、何もできませんね』
『フフフフフ、帝国人の真髄をお見せしましょう』
ダァトは拳を握り締め、振り被る。
そして、翼を広げて加速。
そのままオクティアンのコックピットに殴打を喰らわせた。
『なっ、騎士では...』
『いぃィつ私が、あの王国のッ!!! 腐れ騎士共と同じ精神性をッ、ももも持ってるとでもッ!!』
オクティアンが吹き飛ぶ前に追いついたダァトは、コックピットブロックを覆う装甲板を両腕で引きはがす。
それと同時に、ダァトの胸部.....コックピットの入り口が開き、剣を持った完全武装のフィーアが飛び出した。
そして、オクティアンのコックピットに座る蛸頭の亜人に向けて、剣を突き出した。
「最後に言い遺すことは?」
「......何も。ただ、帝国の騎士とは野蛮ですね」
「ありがとうございますッ!」
そして、ノルスと呼ばれていた亜人は首を飛ばされ、死亡した。
返り血を浴びながら、フィーアは笑った。
「野蛮ではなくて、王国騎士の様にルールに縛られないだけですよ。....そもそも私は騎士ではありませんが! あははははっ!」
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