232-信頼
Noa-Tun、第六格納庫。
そこでは、ルルが最後の準備を整えていた。
髪の毛と耳を整えて専用のレシーバーを付け、ヘッドギアを付ける。
パイロットスーツに身を包み、決心を固めるように息を吐く。
「行こう、ネム」
「お姉ちゃん...」
傍には、ラムブレードが係留されている。
ネムもまた、色違いのパイロットスーツに身を包み、そこにいた。
「怖いの?」
「...ううん、それより...シンさまが、お側にいない時に何かあったら...って」
ネムは目に涙を浮かべる。
「帰ってきたら、シンさまが居なかったらって...それが、嫌なの」
「...大丈夫よ、ほら、シン様の無事を祈りましょう」
かつて、流れ星に託した父親の無事を祈る願い。
叶うことの無かったそれを、二人は第二の父親、そして自分たちの夫であるシンへと捧げた。
今度は叶うと、信じて。
「あそこ、ね...」
滑るように飛び出したスワロー・エッジは、スラスターを自在に操作して、オリジンスターの外壁をまっすぐ降りる様に飛ぶ。
集中砲火を浴びながら進むアドアステラに近づこうとしたルルであったが、
『君がエースかな?』
通信が入ると共に、スワロー・エッジに対して機銃が襲い掛かる。
スワロー・エッジはバレルロールしながらそれを回避し、オリジンスターの構造を利用して追撃をかわす。
「あなたは...?」
『私はラビ。...アドアステラのエースパイロットだよ』
スワロー・エッジを追って、不明な機体が速度を上げる。
ルルはスワロー・エッジを空中でスライドさせる形で転進し、不明機体の追撃をかわす。
そのまま背後を取り、機銃を打ち込んだ。
『...やるね』
「そんな余裕の態度で、良いんですか?」
『いいよ。余裕じゃなきゃ、こんな無謀なことはしないよね?』
「...そうですか」
不明機体はシールドでそれを耐えると同時に、上方向へ急に方向を変え、それを追ったスワロー・エッジを軽くいなしてその横をすり抜けた。
『私の機体の名前は、ホワイトレイヴン。君は?』
「スワロー・エッジ」
『良い名前だね』
ルルは聞かなかったことにして、オリジン・スターの上部まで機体を上昇させる。
それにぴったりくっついて来るホワイトレイヴンに、ルルは不気味なものを覚えていた。
『私の彼氏は...彼女かな? 君の大事な人を殺しにきたんだ』
「...」
『どうかな、話し合う余地はあると思うんだけど』
「...シン様がそうする気がないのであれば、その提案に意味はありません」
『盲信かな? 君の主人がいつも正しいとでも?』
ホワイトレイヴンは搭載していたミサイルを発射する。
その爆発をかわしたスワロー・エッジに、追撃が襲い掛かる。
直撃だ、しかし...
「覚醒」
ルルの瞳孔が開く。
全身の毛が波打つ様に逆立ち、彼女の体は眠っていた力を引き出させる。
スワロー・エッジはスラスターを最大まで噴射して、追撃のパルスレーザーを回避する。
亜光速に達したまま、ほぼ減速しない周回軌道でホワイトレイヴンへと肉薄する。
「盲信とは、何も知らぬまま信じることです。私は、シン様の全てを知らないでしょう、けれどその想いだけは知っている。だからこれは盲信ではなく、信頼です!」
『へーえ? 随分薄っぺらい信頼じゃないか、私は...それなら君を排除する』
「出来るものなら」
二つの機体は、睦み合う様に絡み合って飛行する。
互いのスペックは互角であり、小型スラスターを用いた超機動によるドッグファイトを繰り広げ、互いのシールドを削り合う。
『君の想いは、恋だよ。痘痕も靨、いつか破綻する』
「恋? もう結婚してますよ、そっちこそ、恋してるんじゃないんですか、流歌様とやらに!」
『んなっ...既婚者だからと偉そうに!』
ホワイトレイヴンのシールドが先に消え、次の邂逅でスワロー・エッジのシールドも無くなる。
互いの隠し玉はそれぞれ一つずつ。
一発貰えば撃墜される最後の勝負である。
『ここが終着点って訳だね』
「...シン様」
ルルは圧倒的なホワイトレイヴンの性能に、最初にスワロー・エッジに乗って戦った時を思い出した。
隙を作って欲しいという願いに、シンは「その言葉を待っていた」と答えた。
最初に自分を信じたのは、シンの方だったのだ。
ならば...
「あなたを、信じています」
『なっ!?』
その時。
オリジン・スターの全武装が、一斉にホワイトレイヴンに向けられた。
ホワイトレイヴンは、緊急避難のために一挙に加速する。
だが、覚醒の力で認識能力が上がっているルルには、その軌道が手に取るようにわかった。
「ぁあああああああああああ!」
再び亜光速へ。
スワロー・エッジはその翼で星空を駆け抜けて、ホワイトレイヴンの眼前へと躍り出た。
『死ね!』
「そっちこそ!」
互いのスマートミサイルが交錯する。
ホワイトレイヴンは直撃を受け、爆発四散した。
スワロー・エッジは回避が間に合い、機体底部に攻撃を受けながらも逃げ切った。
「勝った...?」
しかし、その時。
背後から撃たれ、スワロー・エッジは推進器を破壊された。
動けないスワロー・エッジに、直掩機が近づいて...
『お姉ちゃんに近づくなああああああっ!!』
遮蔽を解いたラムブレードが、直掩機に近づく。
そして、スマートミサイルランチャー十二基を一斉に起動した。
十二発のうち六発は、片側の戦闘機を吹き飛ばし、もう六発はギリギリ回避した戦闘機を追って飛び、旋回中で速度の落ちたそれを粉々に破壊した。
「...ネム」
『もう、居なくならないよね? 誰もいなくならないよね!?』
「...うん」
未だ続く戦いの中、寄り添う様にラムブレードから降りたネムはスワロー・エッジの中からルルを助け出す。
『こんなに、大人になったんだね...ネム』
『お姉ちゃんみたいになれたかな?』
『ううん、まだまだでしょ』
『じゃあ、良いところ見せてあげる!』
『うん、見てるわ』
ラムブレードは速度を上げ、アドアステラから飛び出した機体を追って飛び出した。
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