229-アインスの覚悟
アドアステラは、クロトザクの本星ドルドリークを覆う形で作られたエキュメノポリス型要塞「ドルドリオン」の近辺にワープアウトする。
既に軌道上には、アインス率いるNoa-Tun総戦力が待ち構えている。
全ての艦が、オーバードレーザーとP.O.D、A.O.Iで完全武装されている。
『最終兵器、一斉チャージ開始!』
ネクサス防衛ビーコンを破壊しようと迫るアドアステラに、通常であれば一国の艦隊を撃滅できる程の波状攻撃が迫る。
そして、続けて。
主力艦隊から、極太のレーザー砲やミサイル、実体弾、レーザーの雨霰が飛ぶ。
最終兵器の数々が、アドアステラに降り注ぐ。
しかし、それら全てを受けきって尚、アドアステラはそこにあった。
その装甲は白く輝き、ありとあらゆる攻撃を無力化しているようであった。
『『ロードメイカー』兵装展開を確認、散開せよ』
アドアステラはこのままでは展開を変えられないと悟ったのか、ロードメイカーを撃った。
まるで魚の群れが鮫の突進を躱すように、艦隊が動いてロードメイカーの爆発範囲から逃げ去る。
逃げきれなかった主力艦はそれに巻き込まれるものの、シールドを失っただけで直ぐにパシファイアーによって支援を受け、シールドを修復していく。
『イニシエーターはアグリジェントの援護に回れ!』
『シンフォニア、シールド、アーマーウェーブ投下!』
アドアステラの砲撃は、秒間三発の連射力を持ちながら、ただの一撃でシールドごと戦艦の装甲を貫通する威力を持つ。
これは、Noa-Tun側のオーバードキャノンでも不可能な所業である。
しかしながら、大艦隊を展開すること自体が、アドアステラに対しての唯一の有効策だと言える。
アドアステラがいくら強かろうと、そのエネルギー源は有限である。
語られなかったこれまでの突破戦で、アドアステラは二度だけエネルギー切れを起こしている。
それを知っているアインスが、狙ったものである。
ここは終着点。
アドアステラはここに辿り着き、そしてその戦いにピリオドを打とうとしている。
殺さなければ、殺される。
再教育を受けなくとも、アインスはいずれその答えに辿り着いただろうが。
『オルタネーター、全艦突入!』
『オルタネーターが突撃形態に移行しました、我々もマグパイを接近させるべきと提案します』
『しょうにーん』
『了解です』
オレブ=ザラクが、高速装填を行いながらマグパイを射出する。
マグパイはスラスターを全開にし、他の攻撃型ドローンと共にアドアステラへと近づく。
『ダメですね.....インフォモーフ・フィールドに意識がリークされません、何らかの方法で防護しているようですわ』
『分かった、それなら帰投しろ』
『はい』
既に周囲にはインフォモーフ・フィールドが展開されており、その中心にはビナーがいたが、アドアステラに対してインフォモーフ・フィールドの効果がないことを悟ると、ビナーはワープアウトした。
その横をすり抜け、アドアステラに対して編隊を率いて突撃をかけるのは、ネツァク。
ノルンが乗る機体であり、近距離での格闘戦に強い機体である。
『全機攻撃開始!』
決死隊『ヘルヘイム』は、至近距離でボムを放ち、アドアステラに対して直撃を当てていく。
ネツァクもまた、弾幕を躱しながらシャードキャノンによる近接の強力無比な一撃を入れていくが、爆弾よりは威力が低く、賑やかしにしかなっていなかった。
『けれど.....それでも!』
ノルンは消耗品である。
彼女のクローン体はもう生産されないが、彼女自身の記憶と人格データは生き続ける。
であれば、替えの利かない他の命の為に。
『アドアステラ!』
ノルンは叫び、武装をオーバーロードさせる。
弾が切れるその時まで、撃ち続けるために。
『もう、やめにしよう』
その時。
ノルンの脳内に、声が響く。
直後、アドアステラが光と共に衝撃波を放った。
対キネス防御のある船は無事だが、コーティング材の塗布が間に合っていなかった艦は粉々に粉砕される。
『やめる? いいえ、違います』
そしてすぐに、返答するように思念が流れた。
その声は、アインスのものだった。
『何度でも始めるのです、シン様が望む限り』
バロン級旗艦のブリッジで、アインスは虚空を見ていた。
だがその虚空の先に、彼女にしか見えない....正確には、キネス能力者にしか見えないものが見えていた。
『開眼』
アインスは目を閉じ、開く。
再び開いた両眼には、紋様が浮かんでいた。
『昇華』
旗艦バロンを中心に、虹色の輝きが広がっていく。
輝きに触れた艦は、輝きを纏い再び起動する。
砕け散った艦は、本来動かない筈の武装を展開し、アドアステラにそれを向ける。
『能力者は自分と司令官だけ――――そう、思い上がっていたのではありませんか? あなたはただの小娘です、私たちと変わらず....そして、何も変えられない』
輝きを纏う艦隊は、その武装をアドアステラ――――ではなく・
旗艦バロンが展開した武装に向けて、一斉に放った。
虹色の光を纏ったエネルギーが、作り出された磁場に流れ込み、真球を形作る。
『私もただの小娘でした。皇女などと....ありもしない幻想に踊らされて。』
再教育とは、記憶を弄るのではなく、自分の在り方を一度見つめ直し、忠誠心が行き過ぎず、洗脳の様に何も考えない状態にする訳ではない。
『自分が世界を変えることはできません。故に、世界を動かす為に、人を動かすべきだったのです』
真球が収束したのを見たアインスは、豪快にコンソールからコントローラーを引っぱり、ボタンを押した。
収束されたエネルギーの束は、アドアステラへと飛び、その装甲へと衝突する。
アインスと流歌のキネスの性質がぶつかり合い、そして。
ついに、アドアステラの装甲全体にひびが入り、表面装甲と追加部分が破壊されて、元のアドアステラが現れる。
より小型で、無力なそれが。
しかし、殻を砕かれたが故に、何より正しい。
『.......全艦に通達、私はこれ以上戦えないので......後を頼みます』
『了解!』
『了解だよ!』
『了解!』
『はぁい!』
アインスは膝を突き、改めて無力さを感じる。
数万の艦隊を消し飛ばしてもケロッとしているシンに、こうして長時間戦闘しても疲れる様子さえ見せない流歌。
彼ら彼女らとは、文字通り力のスケールが違うのだと。
旗艦バロンの横を、再び動き出した艦隊が駆け抜けていく。
アドアステラも余裕をなくし、速度を上げてドルドリオンの内部へと突入していく。
それを、艦隊は追い始めるのであった。
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