224-ビルジースプライム封鎖戦(後編)
『アドアステラを視認!』
ガマリエルとその周囲の艦隊の眼前に、アドアステラが姿を現す。
サマエルは既に避難済みであり、コクマーのバイタルサインは途絶している。
周辺に艦隊はおらず、ガマリエルの周囲の艦隊だけである。
しかし、ツェーンに恐怖は無い。
彼女は元々、フェルミという名を持っていた。
イルエジータにかつて存在した人間の国家の王女であり、エミドの侵攻で王は死に、国土が廃れた事で、自分が犠牲になればと、星空の帝王に身を捧げたのだ。
結果的にイルエジータは復興したものの、国民は彼女が戻る事を望んでいなかった...と、彼女は内心考えていた。
彼等には別のリーダーが生まれ、最早彼女を覚えている者は誰も居ないのだと。
『エアリアル、モルドレッドを前に出します』
モルドレッドが、前面の収束シールドを展開しながら前へと展開された。
エアリアルは四門の三連装レーザー砲を構え、アドアステラに向けて撃つ。
『突破出来ないでしょう。しかし...私は、私達はここを守り抜きます。...ヴァタスの女は強いのです』
ヴァタス王国。
かつて存在した国の名を継ぐ最後の王女。
彼女はツェーンとしてここに在るが、退かない理由はそれだけで充分なのだ。
『砲撃確認』
アドアステラの砲撃が左翼のモルドレッドのシールドに突き刺さり、しかし弾けずに逸れて奥のエアリアルのシールドに当たる。
エアリアルの方のシールドは貫通され、装甲に損傷を与える。
ダメージを受けたエアリアルは、破壊の衝撃で下方へ押し出された。
その穴を埋めるように、奥から別のエアリアル級戦艦が現れる。
『パシファイアー、シールド支援開始!』
ガマリエルの周囲に展開していたパシファイアー級支援型巡洋艦。
計四隻のそれが、損傷を受けたエアリアルとモルドレッドのシールドを回復する。
『パワーコアシンフォナイザーを使用する』
『了解、パワーコア波長パターン同調開始』
ガマリエルは他の二隻に比べて、特徴的な装備を持たない。
攻撃力も高くなく、打撃力も決定打もない。
防御が強いわけでもなく、電子戦装備耐性も無い。
速度もなく、機動性にも欠ける。
ただ、たった一つだけ。
たった一つだけの装備に、全てのエネルギーを使用するのだ。
『パワーコアのリンクを開始する』
『クロトゼム・ドライブに切り替え』
フィラメントを使いワープエネルギーを得る、クロトザクの機関。
それを搭載することで、エネルギーを全て使用しても航行は不可能では無くなる。
『全艦とのパワーコアリンク構築完了』
『パワーコア・シンフォナイザー起動!』
ガマリエルと接続された艦船のパワーコア、つまりはエネルギーを生み出す炉心が、外部からの増幅波を受けて一気に活性化する。
そうする事により、モルドレッドはシールドに、エアリアルは砲撃に、パシファイアーはシールド支援により多くのキャパシターを使用できるようになるのだ。
デメリットとしては、ガマリエルのパワーコアを消耗する事だが...
ここで使わずに、いつ使うのだ。
コバルトもツェーンも、そう判断していた。
『キャパシター安定、エアリアルの決戦モジュールをアクティブ化します』
エアリアルに搭載された決戦モジュールが作動し、砲撃の威力が遥かに増大する。
アドアステラのシールドで逸らされるのではなく、食い込めるまでに威力が上がったのだ。
『これなら...』
『アドアステラ、前部装甲の展開を確認、専用武装『ロードメイカー』であると思われます』
『モルドレッド、シールドのオーバーロード開始!』
アドアステラの前面から突き出した砲口に、膨大なエネルギーが収束する。
たった数秒のチャージで発射されたそれは、ただの一撃で前衛を破壊した。
シールド強化を受けていたはずのモルドレッドが、バラバラになって離散する。
同じくシールドを失ったエアリアルも、艦列を維持出来ずに押し流される。
『こんな...状況報告っ!』
『モルドレッド、全艦パワーコアとのリンク消失、パシファイアーのうち二隻が干渉波でシールドトランスミッター使用不能。エアリアル、三十六隻中六隻がシールド残存、他シールド消失。シールドジェネレータに異常』
『シールドが無事なエアリアルとパシファイアーを離脱させてください、陣形変更、エアリアル密集隊形!』
最早前衛はいない。
しかし、ツェーンは退く気はない。
ツヴォルフのバイタルサインは途絶し、エルフは星系を離脱した。
ここで逃げれば、撤退中のエルフが後ろから追撃を受ける。
『三隻ロスト』
『アドアステラ左舷シールド部に砲撃集中! バンカーバスター射出!』
『五隻ロスト』
アドアステラは、残った艦隊の砲撃を集中的に受けるが、シールドは一切傷付かずに、どんどんとその強度を修復し始めていた。
『艦隊、全滅です』
『コンパクトジャンプドライブ起動!』
ツェーンはガマリエルをアドアステラの眼前へと転移させ、そのシールドをアドアステラのシールドへと擦り付ける。
シールド同士が干渉しあい、擬似的な中和状態になる。
そのままガマリエルはアドアステラにラムアタックを仕掛け、十二門のP.O.Dレーザーを艦橋に収束照射する。
『受け取れ!』
装甲を分解し、内部にレーザーが届くその一瞬。
旋回を終了したレーザー砲が、シールドの無くなったガマリエルを吹き飛ばした。
前面部の砲火力全てを受けたガマリエルは崩壊し、エネルギーを失ったまま、慣性で遥か彼方へと流されていった。
障害を打ち破ったアドアステラはスラスターを起動し、ゲートへ向けて加速を続けるのであった。
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