212-黄金の背
四時間後。
ジスト星系のホールドスターにて、シンは食堂で食事をしていた。
同じテーブルにはルルがいた。
シンのプレートの上には平均的な和食が並んでいるが、ルルのプレートの上には分厚いステーキが三枚分あった。
主食はパンである。
「どうだ、パイロット達の士気は?」
「概ね大丈夫です、戦いが怖いと言ってた人たちも、慣れるか戦死しましたから」
「そうか...」
仕事中のシンの反応は非常に淡白だ。
けれど、父親モードの時を知っているルルにとっては、その冷徹に思える表情も優しさの裏返しに思えた。
「...司令官、ここへは何の御用向きですか?」
「お前なら話してもいいか、前線に配備する兵器の最終調整だ」
「シン様が直接行うべき事なのですか?」
「悪いが機密事項だ」
「...はい」
父親だからと秘密を教えてくれたと考えていたルルは、突然外された梯子に吃驚する。
しかし、これまでの話は作戦の一部でしかない。
直ぐに気を取り直し、本当に聞きたいことを尋ねる。
「シン様は、今日は泊まって行かれるのですか?」
「ん? ああ、勿論だ」
「上着をクリーニングに出しますので、お風呂に入る時間を教えてください」
「いつも通りだ」
シンは最後に味噌汁を飲み干すと、プレートを持って立ち上がる。
「ありがとう、自分ではなかなか服の具合には気づけないからな」
「は、はい」
自らの夫を騙している。
そんな罪悪感に駆られたルルだったが、言い出せなかった。
夫の裸体を見たいなどと、そんなふしだらな事を計画しているなどと。
「時間はいつも通りです」
「そうですか、では計画を実行しましょう」
今回の作戦は、作業用ドローンを含め各所に設置されたカメラドローンに掛かっている。
そして、シンとオーロラに気付かれないように空調を適切に操作、最高画質を保持したままその裸体を映像に収めるというものであった。
ただし、それは亜空間に隠れたゼクスの仕事。
フュンフは同じく亜空間から大浴場内部にアインスとルルを送り込み、風呂場のオブジェに擬装した潜望鏡でシンを覗く。
「...来ました!」
そして、その時は訪れた。
風呂場に入ってきたシンは周囲を見渡す。
「内装は変わらないんだな...いや、ちょっとオーロラの趣味が入ってるな」
塗装された作業用ドローンや、サタリエルの潜望鏡を見たシンの反応である。
シンは浴室に入ると、シャワーから湯を出し調整を始めた。
適温になると身体を流し、それが終わると直ぐに湯船に向かう。
「(はぁあ♡シン様の引き締まった身体♡)...撮影は上手くいきましたか?」
『ノイズが入ってる、なんでだろう...』
「(チィ、使えない...)引き続き撮影を続けてください」
『はい』
シンは湯船にゆっくりと身を沈める。
その隙に移動したサタリエルは、湯船の中からシンを撮影する。
だが、
『シン様、ガードかたい...』
シンはまるで全てを理解しているかのようにカメラの視界から身体を隠す。
そのせいで、ゼクスの興味がある部位は見えない。
そうしているうちに、全ての画面が一斉に切断され、『CENSORED BY AURORA(オーロラによる検閲)』という画像が差し込まれた。
亜空間では、サタリエルとホドがオーロラの強制コントロール下に入り、大浴場では...
『シン様、盗撮されています』
「そうか...排除しろ」
『はい』
直後、湯船から唐突にワームⅢが出現し、隠れていたルルとアインスを引き摺り出した。
「なんだ...お前たち、何をやってるんだ?」
「お...」
「お?」
自分の評価が下がるかもしれない。
それを恐れたアインスは、咄嗟に言葉を絞り出した。
「...お背中を、お流ししようかと思ってたのです、ルル様もそうです」
「隠れたのはどうしてだ?」
「機会を伺っているうちに出るに出れなくなり...」
「あのカメラドローンはなんだ?」
「シン様のお背中を流す映像を撮って...」
「...いや、いい、やめてくれ」
それを聞いた瞬間、シンが疲れ切った表情に変わる。
「分かりました」
「とにかく、俺の背中を流したいなら全員出てくる事だな、やるなら正々堂々とやれ」
「「はい!」」
瓢箪から駒。
アインスとルルは一斉に飛び出した。
ワームⅢがディーヴァの指示で動き出し、タオルと石鹸を作業用アームに持つ。
石像に擬態していた作業用ドローンが動き出すものの、フュンフとゼクスでコントロールの奪い合いが発生してあちこちを飛び回る。
「なんだ...? 俺の背中に何かあるのか...?」
そして一人、シンは困惑するのであった。
その後、全員から背中を洗ってもらったシンは、やたら綺麗になったような背を摩りながら私室へと戻っていくのであった。
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