201-蛮する騎士と、賢き征服者
クオリアス戦線、クザイ星系・第四惑星軌道上。
そこに、王国の艦隊十七隻が布陣していた。
「...」
旗艦は巡洋戦艦であり、その艦長である男は、戦場を目にして長い沈黙を放っていた。
彼は数ヶ月前のラステイク奪還戦、通称「手負いの雪豹狩り」の生き残りであり、指揮官不足の王国で急な昇進を遂げた人間である。
部下からは寡黙な人間と言われているが、ラステイク星系での戦いを経てそうなったのだ。
「キャプテン、大丈夫ですか?」
「...あ、ああ」
コーヒーを持ってきた部下が、前ばかり見ている彼に話しかけ、
彼はその言葉に歯切れ悪く返す。
「このままだと、全員死ぬなと思っていただけだ」
「なっ、まだそうと決まったわけじゃ...」
「いいや、そうなる。少なくとも、奴らには慈悲などないぞ」
彼の言葉の重みに、部下の男が唾を飲み込んだその時。
ブリッジに緊迫感のある警報が鳴り響く。
「ワープアウト反応!」
「ッ...全艦に通達! 戦闘準備! 旗艦がやられた場合、基地に帰還せよ!」
即座に艦隊は戦闘準備を開始する。
そして、同時に五隻の艦隊がワープアウトした。
「たった五隻...?」
部下が呟くが、彼は戦慄していた。
今まで確認されていない艦種かつ、その少数さ。
柔よく剛を制すという諺は王国にもあり、「弱き鼠を侮るな、彼等は弱く振る舞っているだけだ」という訓文として知られている。
「拙い、全艦散開陣形に移行」
「間に合いません!」
直後。
Noa-Tun艦隊は一斉に青白い稲妻を放った。
その艦の名前はスプリットダーク級巡洋艦。
ヴォートンパルス・リリーサーを装備する、PARADISE-GURDIANシリーズの艦船である。
稲妻は船と船の間を駆け回り、たった一瞬で前衛の三隻を破壊した。
船体を貫かれ、轟沈する巡洋艦。
それを見て、艦隊は混乱した。
もともと低かった士気がどん底まで落ちたのだから、当然ではあるのだが。
「左翼が落ちます!」
「船と船との距離を開けろ、誘導させるな!」
『仲間を見捨てろと言うのですか、貴方はそれでも騎士の...』
「馬鹿野郎、生きたければ上官に従え!」
生き残りの彼に、しかし誰も耳を貸さない。
奇跡的に生き残ったのではなく、逃げ延びてきただけの彼に。
「獅子の如き騎士の勇気」を持っていると自称する王国兵が退くわけが無い。
前線で多くの有能な兵士を失った結果、王国に残ったのは常備戦力という名の排斥されてきたたらい回しの兵士たちだけである。
「キャプテン、我々だけでも逃げるべきでは...」
「...生き残ったが、後ろ指を指されてきた。...私も騎士の端くれ、お前たちもついて来い」
「はっ!」
こうして、十七隻の艦隊は三十分の戦闘でバラバラに引き裂かれ、宇宙の藻屑となって漂うことになったのであった。
「第四艦隊、通信途絶!」
「第二警備隊、救難信号途絶! 増援艦隊、ワープ中に通信途絶!」
「クザイⅥ、首都が爆撃を受けています! 軌道上のステーション、及び防衛艦隊は全滅!」
「避難場所を特定されました、避難船団が攻撃を受けています!」
ツヴァイが展開する猛攻により、クザイ星系は陥落しようとしていた。
爆撃艦隊による奇襲、スプリットダークによる正面突破、ワープ中の艦の軸線にワープ妨害フィールドを張ることによるワープの強制停止、かつブラストウェーブの連打によって、前線の戦力を持つクザイ星系ですら長くはもたないといった状況であった。
「指揮官、やはり...」
「ああ、敵はここを最後に回しているようだな」
敵が意図的にこの場所...クザイⅡステーションを避けていることを察した指揮官は、敵の情報収集能力の高さ、驚くべき指揮能力の高さに感銘を受けていた。
「脱出しましょうか...」
「奴等は悪魔だな、まるで...」
「そうですね...」
王国にも「悪魔」の定義はある。
だが、この場合の意味はどちらかと言うと、広義の意味である。
武器を持ち、手加減をする知能がありながら容赦が無く、慈悲すらもないというその残虐性。
「降伏の意思は示したかね」
「王国、帝国、銀河共通法で試しましたが、受け取ったあと普通に艦隊を殲滅させられました」
「では、諦めるとするか」
「家族に遺書を書く時間はありますでしょうか」
「勤務時間中にかね? 構わんよ」
『現宙域に敵艦ワープアウト、武装展開を確認!』
「何っ!?」
「馬鹿な...早過ぎる...」
クザイⅡステーションは爆撃艦隊の猛攻によって十分と保たずに壊滅し、司令部を失ったクザイ星系の防衛艦隊は次々と瓦解、圧倒的な火力の前に敗れ去っていくのであった。
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