199-終わった戦い
こうして、俺たちはラステイクを襲撃した七十万の王国軍を撃破した。
前回の失敗を踏まえ、残党も残らず撃破、ラステイク星系内から完全に敵性存在を排除した。
だが、俺たちはこの戦い、勝ったわけではない。
アドアステラを逃してしまった以上、流歌は決して諦めないだろう。
そして、流歌がいる以上、王国の士気も下がりようがないはずだ。
ただ、流石に.....
『王国国内では暴動が頻発し、国家としての威信が大きく揺らいでいるようです。軍上層部ではトカゲの尻尾切りが始まっています』
「崩壊は近い、か」
士気が維持されるのは、軍内部と上層部だけだ。
国民は七十万もの戦力を失った上、死者は七十万では済まないはずだからな。
沈んだ主力艦だけで、一隻二万人程度が収容できると考えると、六万死んでいる。
小型艦ですら最低四人運用と考えると、考えたくもないな....
だが俺は、その数の命を奪ったことに後悔はない。
今更後悔など不要だ。
「ラステイク星系の状況は?」
『アウトポストは既に復旧、現在ホールドスターの係留が開始されています』
「サルベージは?」
『残骸のサルベージングは既に完了しました、現在、拿捕した艦艇を無人艦に改装中』
「どうする気だ?」
『司令官、肉盾や便衣兵はご存じですか?』
「....バカにしてるのか?」
『いいえ、そういう用途だと思ってください』
成程、元々便衣兵(オーロラインフォメーション:民間人に偽装した兵士の事です)を投入すると言ったのは俺だ。
少しダーティだが、味方同士で疑心暗鬼になってもらうのも面白そうだ。
『兵士たちのローカル通信での肉声も記録しており、現在99%に近い再現が可能となっています。これを利用し、王国軍に牽制をかけるという手も取る事が出来ます』
「それか、内部にボムを満載して、旗艦に接舷した瞬間にズドン、とかな」
こちらの指揮官はコバルト&オーロラが居れば十分だが、向こうの有能な指揮官は殺せば減る。
育成には何十年もかかるからな。
「遊撃部隊の成果はどうだ」
『現在、122回の襲撃のうち120回を成功。内2回は、星系軍に先回りされた他、ワープブースターらしき装置でインターディクションフィールドを振り切って逃亡されました』
「そんな輸送艦が王国にあるのか....」
技術レベルがおかしいような気がするが、まあ輸送艦だ。
気にする必要はない。
遊撃部隊といえば聞こえはいいが、実際はゲリラ部隊である。
敵地に侵入、ワープとジャンプを繰り返して遮蔽状態でワープ中の艦を捕らえて襲撃、その星系の警戒度を上げて逃走、を繰り返す艦隊だ。
被害が増えれば星系軍も本腰を上げるようだが、その時すでに艦隊は別の星系か、地方に移動してしまっている。
星系軍は無能を晒し、何も知らない一般市民は軍に対する不信感を強める。
そうなれば、次の作戦に移行できる。
「.....あの!」
「...どうした」
気付くと、背後にネムが居た。
彼女は、あまりいい表情をしていなかったので、俺は頬を緩めて屈む。
「どうした?」
「司令官....は、どうして、あの船を....実の妹のあの人を、あんなに執拗に殺そうとするのですか?」
「ああ、その事か....簡単だ、死なないからだよ、死んだくらいじゃ、あいつは死なない」
「そんなの理由に...」
「なる、だが....それをネム、ルル....お前たちに説明するのは、最後の決戦の時だ」
流歌は、俺よりずっとずっと.....いや、あいつを人の枠に当てはめること自体が間違いだ。
IQ自体は120程度だが、英語の文献をちょっと勉強したくらいで読めるようになり、数学の数式を数週間でマスターし、運動系も賞を取りまくってきた。
俺は兄として、それを称賛したが...
同時に、自分は物語の主人公ではないと思い知らされてきた。
この歪んだ関係は、俺の「計画」が終わると共に修復される。
ただ、それだけの話だ。
『ところで、ただいまお時間頂けますか?』
「どうした?」
俺はオーロラの声に耳を傾ける。
『ラステイク星系の残党調査中に、厳重に遮蔽された遺跡を発見しました。形式的にはエミドのものと思われます』
「調査しろ、直ちに」
『分かりました』
遺跡か.....それが吉と出るか、凶と出るかは分からないが、まあ、いいだろう。
俺はネムを連れて、戦闘指揮所を離れるのであった。
面白いと感じたら、感想を書いていってください!
出来れば、ブクマや高評価などもお願いします。
レビューなどは、書きたいと思ったら書いてくださるととても嬉しいです。
どのような感想・レビューでもお待ちしております!
↓小説家になろう 勝手にランキング投票お願いします。




