171-帰還限界点
その日。
王国は震撼した。
帝国の最前線だった場所から現れた謎の艦隊が、瞬く間に通常戦力の常駐する星系を制圧したのである。
「失態だな、アルヴィン?」
「はっ、誠に申し訳ございません」
「我は別にお前を咎めているわけではない、冗談と知れ」
「はっ」
そして、オルトス王国の王都。
オルティシアンに存在する王城では、一人の男が王国の指導者たるアーラム・ディクロス・オルトスに跪いていた。
男の名はアルヴィン・ラクラム。
王国軍の総括である。
「昨日、我らのもとにこんなものが届いた、見るがいい」
アーラム王は指を鳴らした。
直後、ホログラム映像が空中に投影した。
『この映像は本来全国放送用だが、どこに送ればよいのか分からなかったため王宮に送信している。放送の際はこの部分をカットすることを推奨する』
そんな前置きが入った後、複雑な紋章が数秒間表示された。
その後に、不気味な衣装と仮面に身を包んだ恐らく男...ノーザン・ライツが映し出された。
『長ったらしい前置きは省略させていただこう。我らの名はNoa-Tun連邦。僭越ながら、貴様たちに宣戦布告を行う事とする』
その映像は最初の部分以外を編集され、オルトス王国の全土に放映されていた。
国内の放送機関はすべて、これを放映していた。
非常事態である事を、皆に伝えるために。
『こちらは諸君らを一人として生かす気はない、それ故に、逃げたければ逃げるといい。これは宣戦布告であり、形式上行うものである』
その言葉は、国内の人間たちに異様な印象を植え付けた。
当然である、誰が今から殺す相手に「殺すので逃げてもいいですよ」などと宣言するものか。
シンの日本人的な考え方が、一種の歪なものを生んでいた。
『降伏は許可されない。これは資源戦争であり、我々には奴隷は不要なためである。捕虜を維持するコストを削減するため、また騎士の心を持つ諸君らにそれが通じるとも思えないため、降伏した場合、諸君らの崇める神の御許に送ってやろう』
王国は騎士の心の国。
それを理解している、ビージアイナ帝国ではない国家。
ライバルで無いものにライバルとして語られることの何と不快なものか。
だが何より。
それは歪であるのだ。
騎士道精神を知り。人の弱さを知り。
それで尚、降伏した者も殺すなどと、逃げるほかないではないか。
「へ、陛下。何故このようなものを放送したのですか? これでは混乱が」
「我々はあのようなものには負けぬだろう?」
「はっ、ですが.....」
「心の弱き者は確かに逃げるであろう。だが、奴らはどこまでも追って来よう、あの口ぶり、帝国は最早人のいない無の領域と化したに違いない。王国がそうなれば次はホーエンティア帝国か? それとも別の国か。ここで戦わねば、誰も止められぬよ、それに――――」
アーラムはそこで言葉を切り、アルヴィンを見下ろした。
その目には、絶望や不安などという感情は込められていなかった。
むしろ、希望に満ちていた。
「我々には、スターランクの傭兵三人がいるではないか」
「スターランク.....というと、「静謐」のアルバトロス、「英雄王」アルゴ・ヴェンタス――――そして、陛下お気に入りの?」
「ああ。」
――――「最強」のカル・クロカワ。
それがいる限り、王国に敗北はない。
スターランクとは、王国の自由戦力「傭兵」の中でも突出した者に与えられる称号。
世俗の権力から分離された存在であり、隠し大戦力と言っても過言ではなかった。
「.......Noa-Tun? それって」
どこかで誰かが、放送を見ていた誰かが呟く。
かつて聞いた名を思い出しながら。
「行かないと」
その人物は立ち上がり、部屋を出ていった。
かくして、王国と連邦の戦いは再び始まったのである。
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