ある人の視点
すぐに馬を…………アン……が戻って……急いでくれ……
なんだか家の玄関が騒がしい……。
父上の声だ……何かあったのだろうか……。
エルガードは不思議に思い、剣を持ち急いで玄関へ向かった。
玄関に着くと、そこには父が慌てたように外出の装備を整えていた。
すぐに父に駆け寄り、声をかけた。
「父上、何かあったのですか?とても慌てているようですが……?」
「エルガード、先程わたしの指輪に反応があったのだ!!」
「指輪?」
「昔、ここから逃がしたお前の叔母の話はしただろう。何かあったら戻れるように渡していた指輪だ。アンナの血が付けば魔法陣が反応するようにしていた。そして、その魔法陣と対となる指輪も作り、戻ってきたらわかるようにしていた。それが反応したということは、アンナが帰ってきたんだ!!」
アンナとは、父の妹で私の叔母のことだ。父も魔力が多いが、叔母は父よりも魔力が多く、精霊視まで持っていたことから、先々代の王に目を付けられ、婚姻か処刑か迫られていたという……。
その叔母が帰ってきたということは、何かがあったのかもしれない……。
「父上、私も一緒に行きます。何処に戻ってきているかわかるのですか?」
「精霊の森の中にある洞窟だ。アンナを逃がした時と同じ場所に戻ってくるようにしていた。ここからなら、馬で行けば10分とかからない。」
「わかりました。精霊の森は魔獣が出ることもあります。私も護衛として一緒に行きます。」
「ああ、頼む。」
「私の馬も準備を!!誰か、外套も持ってきてくれ!」
「ここに!!」
私の従者のレニーが雨の日用の外套をもち待っていた。
「馬の準備も伝えてあります。すぐに準備出来るでしょう。」
「わかった。ありがとう。」
外套を羽織っていると父の従者が外から慌てて入ってきて「馬の準備が出来ました。」と叫んだ。
「行ってくる」
とレニーに声をかけ、父とともに馬に跨り、フードを被った。
父が家令に向けて「アンナを迎える準備を頼む」と声をかけ、馬を走らせた。
自分も父に続く。
それにしても雨が強い。外套で体が濡れないようにしているが……。
魔力を巡らせ、魔獣がいないか確認しながら、我が家の裏手にある精霊の森へ入って行った。
馬を駆りながら叔母について記憶を巡らせる。
父から聞いた話では、叔母は父の妹で、父よりも魔力が豊富で、精霊視の力を持っていたはず……。そして、先々代の王に結婚か処刑かを迫られていたという話だった。
なぜ、その2択なのかと思ったが、先々代の王は横暴で残虐であったという。結婚した妃は6人いたが、すべての妃は王によって殺されている。
どちらを選んでも死んでしまうため、父は叔母を魔法で別の世界に逃がした。そして、先代の王とともに先々代の王を倒し、平和な治世が遅れるように尽力したという。
兄が生まれる少し前の話らしいから、聞いた話だが……。
その叔母が帰ってきたとは……。
そんなことを考えながら、父とは話もせず5分ほど馬を走らせた。
いつもなら、精霊の森に入れば1匹くらい魔獣と遭遇するのだが、この日は魔獣が寄ってくることは無かった。
これなら、早く着けそうだ。
父の後を追っていると、森の開けた場所に出たので、父が馬を止めた。俺も同じようにして周囲の様子を見たら、大きな木の近くで、人が一人倒れているのが見えた。
あれが、叔母なのだろうか……。
父が「アンナ!!」と声をかけ、馬から降りて駆け寄った。
自分も周囲を警戒しながら、父の後を追う。
「アンナ!!……ッ……アンナじゃない……がひどいケガだ。エルガード、俺はすぐに治療をする。周囲の警戒は頼む。」
「了解」
父が倒れていた人に治癒魔法をかけ始めた。
自分は周囲を警戒するが、特に魔獣の気配も無く、近寄ってくるものはいない。それに、雨が止んでいる……。
父は叔母じゃないと言っていたが……誰なのだろう……。
しばらくして、父の治癒魔法がかけ終わったようだ。
「これでもう大丈夫だろう。この子はとても魔力が多いな……。それに、これは……。」
「どうかしたのですか?」
「この子の嵌めている指輪は、私がアンナに渡したものだ……。なぜ、この子が持っているのか……。とにかく事情を聞かなければ……。家に連れて帰ろう。」
「わかりました。私が運びます。」
「あぁ、頼む。」
運ぶために倒れていた人を改めて見たが、とても幼い顔をしていた。
子どもの様だ。倒れていた辺りを見れば、すごい出血量だったのが分かる。
私は外套をこの子にかけ、抱き上げた。
とても軽い……。
馬に跨り、父とともに帰路へ。
いつの間にか雨は止んでいた。
この子は誰なのだろう……。叔母に渡した指輪を持ち、精霊の森で血だらけで倒れていた子供……。
倒れていた人物の周りを色とりどりの光が飛んでいたのだが、その様子を見られるものがここにはいなかった……。




