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LOST HEAVEN  作者: 宵空希
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Stuffed toy to do bad things

深まってきた夜の廃墟にて。

シンとレオは、プライドと“もう一体の悪魔”を相手に戦闘を繰り広げていた。

激闘と呼ぶに相応しいであろう対峙は、どちらとも一歩も引かない接戦であった。

のだが。

「おいシン。今わざとぶつかってきたやろ」

「はあ?お前がぶつかってきたんだろーが!」

先程から健闘してはいるのだが、それは何故か口喧嘩をしながらであった。

「だいたいお前はいっつも自分勝手なんだよ!何だって適当にやるし、そもそもやる気ねーし!」

「おまえに言われとーないわ。勝手につっこんでいくんはおまえの方やろ」

他を気にせずギャアギャアいがみ合う二人に、プライドと後から現れた『色欲のラスト』は現状をどう受け取ればいいのか迷っていた。

「……ねえ、プライド?この子達はさっきから何をしているのかしら?作戦?」

「……私に聞いてどうするのですか。クズの思考回路など、理解出来る方がどうかしています」

「そうね……そうよ、その通りだわ。それなら答えは簡単よ。今の内に、いただいてしまえばいいわ」

独特な言い回しをする彼女、それがラストである。

個性の強い悪魔達の中でも、彼女は最も異様な雰囲気を醸し出すのだ。

それは彼女の力のせいであるのだが。

数刻ほど前にこの悪魔は現れ二対三で不利となったシン達は応戦するも、とうとうこの場所からグラトニーの突破を許してしまった。

グラトニーの標的はロレイヌに住まう人々であったがクレハがいるから大丈夫だろうと踏み、シン達はあえて追わずにこの二体の悪魔達との戦いを選択した。

ラストは両の手の平から、それぞれ氷の剣を造り出す。

その透き通った二振りの剣を構えて、レオへと真っ直ぐに駆け出した。

「フフ。スロウス?アナタはいけない子ね」

ヒュッと剣が振られ、レオは咄嗟に回避する。

そのまま迎撃体制を取るも、敵の剣の追撃は速かった。

「ダメ。ダメなのよ、避けるのは。ちゃんと切り刻まれないと」

「……ちっ」

ブレイクダンスの様な動きでレオは軽やかにそれらをかわすも、中々反撃する余裕を与えてはくれない。

だが同時に隙を伺いながら“喉元”に力を蓄えてもいた。

「……今や。すぅーっ……。——ハアーーーッ!!」

「っ、悪い子……ねえっ……」

ズドン!ズドン!とあちこちで破裂音が響く。

それはレオの口から発せられた、超ボリュームの声音からなる連鎖反応によるものだった。


『声音』(ボイス)。

つまりレオの能力とは、音波振動による衝撃を起こす力であった。

オーケストラ演奏の何百倍も大きな音を放ち、周囲の物や人体にも多大なダメージを負わす事が出来るのだ。

ただし、味方も巻き込みます。


「あーっ!!うるっせー!!」

如何せんキレ気味なシン。

端から見てもそれは仕方のない事だろう。

鼓膜が破れないだけ良しとする、とまで割り切れというのも酷な話だ。

「お前なー!やる時は合図か何かしろって言ってんだろ!さっきから本当ギリギリなんだよ耳塞ぐの!殺す気かっ!!」

「あー、ほんなら良かったんちゃうか?間におうとるやん」

本来なら耳を塞いだところで意味はない。

だが今のレオは力を落としている為、良くも悪くも敵味方双方への決定打には至らないのだ。

精々怯ませる程度だろう。

「……上等だよお前……——くっ!」

瞬間、感じ取ったのは見えない何か。

それはプライドの従える見えない怪物であった。

「不愉快な茶番ですね。付き合わされる身にもなってください」

シンの前にプライドが立ちはだかる。

毅然とした彼女はその右手を真っ直ぐに伸ばし、自身の能力である“クマのぬいぐるみ”に攻撃の指示を飛ばした。


『傀儡』。

それは自立行動を可能とした大きなぬいぐるみを造形し従える力だ。

更に造り出したぬいぐるみには稀に能力が備わる。

現在従えているのは成功例の、透明化する力を保有した大きなクマだった。

故にこの力は、能力を以て能力を生み出すという、それこそ突拍子もない程の代物である。

だがその代わり使い勝手も難しく、破壊されると暫くは造り出せなくなり能力が途絶えることになってしまう。

なので如何に壊されないかが重要な、使用者の使役方法が問われる能力なのだ。


「ではいい加減、死んでもらいま——」

「レオ!まだ死に損なってないか!?」

突然プライドの言動を遮ったシンが、レオへと呼び掛ける。

「あほー。おまえの気づかいなんか必要ないわ」

レオの気だるげな返事に、シンはニヤッと何かを企むような表情を浮かべた。

「こんだけ憎まれ口きけりゃ問題ないな。振り絞れよ!反撃するぞ!」

「ほんま人使い荒いなー」

これまでのいがみ合いは、反発し合い、罵り合い、その上で互いの譲らぬ意思を認め合う為の、パフォーマンスだったのだろう。

彼らなりの叱咤激励とも言える。

何よりもう二度と、こんなくだらない言い合いすら出来なくなるのだと。

少なくとも、シンはそう思っていた。

「いくぞ!!」

「おー。……すぅーーっ……ハアーーーッ!!」

レオの爆音に合わせて、シンが飛び出す。

勢いづかせ、シンはプライドへと一直線に向かって行く。

「ちっ。相変わらず五月蝿いですね!」

頭に響く音を何とか振り払い、プライドは迎撃態勢をとる。

彼女は冷静にシンの動きを見定めて、ぬいぐるみでのカウンター攻撃を狙っていた。

が、シンはその透明のぬいぐるみがあたかも見えているかのように回避し、プライドへと迫っていった。

「もう見え見えなんだよ!」

「なっ!そんな筈は——っ」

そしてシンは二振りの短剣をプライドへと振り下ろす。

既に避けきれなくなった彼女は弱々しく身構えるも、それは届かなかった。

「——フフ。悪戯はダメよ?」

ガキィン!と、ラストの剣がシンの剣を弾く。

そのまま体勢の整っていないシンへと、今度は左の剣が横薙ぎに振られる。

だがラストの斬撃がシンに届く手前で。

その振るわれた剣をレオが蹴り飛ばし、左手の剣はラストの手元から遠ざかった。

「——何や、力ないなー」

「……お行儀が悪いわね、スロウス」

ラストが手元に残った右手の剣を、レオへと振り下ろす。

空かさずそれをシンが短剣で受け止め、手の空いたレオは彼女へと拳を振るう。

正面から顔面にクリティカルヒットした、かのように見えたのだが、彼女の前面にはいつの間にか薄い氷の壁が貼られていた。

「惜しかったわね。——プライド」

彼女に呼ばれ立て直したプライドがぬいぐるみを操り、シン達へとパンチを繰り出させた。

それを各々が回避し、二人はそのまま距離を取って再び攻撃体制に入る。

「レオ、アレ見せてやれよ!」

「めっちゃ疲れるんやけど……やったるか」

走りながら話す二人は、各々ポジション取りに移る。

シンは『流れ』を見出だす為に、ラストへと剣術戦を挑みに。

レオは自身の力である『反鏡』を生かす為に、でかぶつを操るプライドへと駆け出した。


複数箇所に鏡を出現させて音を反響させる力、それがレオの覚醒である。

幾つかの設置地点へと声を飛ばし、ビリヤードのよう幾重にも跳ね返させながら音を増幅していくという仕組みだ。

なので音波振動の威力は、当然の如く跳ね上がる。


「お前達の非道もここまでだ!引導を渡してやるよ!」

シンが敵の動きを完全に捉え、視界に移るすべてのものがスローとなる。

「観念しーや高慢。おまえなんかに負けてやるほど、オレも腐っとらんで」

レオもまた鏡を展開させ、ぬいぐるみを含めたプライドの周囲を塞ぎ込んだ。

そして同時に、止めの全力を放つ。

「はあぁぁぁ!!」

「すぅーーっ……ハアーーーッ!!」

ズドォォン!!とレオの声音が大きな爆発音を誘発し、辺りは土埃一色に染まった。

互いに全力全開の一撃を放ったのだから、これで決着が着いただろう。

けれどそれは二人の思っていた決着とは違った。

「——フフ。何かなさったのかしら?」

「——やはり虫ケラの悪足掻きでしたね。とんだ茶番劇に付き合わされました」

何故こうなったのか。

シンもレオも全ての力を出し切った。

だが無情なことに、シンの二振りの短剣は粉々に砕け。

そして。

「……レオ……?」

振り返ると横たわるのは、血塗れの親友の姿だった。

「……おい……レオ、……レオーーッ!!」

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