Clutches of vice
◆
村に現れたグラトニーは、餌を前に興奮状態でいた。
「ご馳走~!!いっぱァ~い!!」
「キャーー!!」
パニック状態になる人達を庇うようにして、ライル達が敵へと構える。
「手出しはさせん!!」
ライルが自身の能力である空気の弾丸を敵へと撃ち続ける。
しかしいくら当たっても、敵はびくともしない。
「いただきまァす!!」
「うわーーっ!!」
そうこうしている内にメンバーの一人が下半身を残し、一口で上半分を食べられた。
ぐちゃっ、ぐちゃっ、と吐き気を催す音をグラトニーが響かせる。
それを皮切りに複数人の犠牲者が出てしまった。
「き、貴様ーー!!」
仲間を殺された怒りでライルは冷静さを見失い、闇雲に攻撃を繰り返す。
しかしいくら当たろうとも、敵は掠り傷一つ負わない。
「あはァ~!次~!」
そしてグラトニーは標的にライルを選び、素早く近付く。
そして大きく口を開いた。
「——おりゃー!」
そこへ、ドンっ!とクレハが体当たりをするも、敵の重量のせいでびくともしなかった。
そしてそのままライルへ、バクンッ!とかぶりつく。
モグモグと咀嚼するグラトニー。
だがすぐに異変に気付く。
「んん~、美味し……くない?」
「ほーら、やっぱ美味くないんじゃん。それ、さっきから食べてた葉っぱだからね」
紅葉が大量に舞い上がる。
クレハの能力でライルの姿を撹乱し、彼の背丈分までの紅葉を寄せ集めて身代りにしたのだ。
例えるなら、忍者の使う忍術である。
「すまない、助かった!」
「どういたしまして。……でも、間に合わなかった。ゴメン」
幾つかの死体を目視したクレハは、悔しそうな顔を隠せないでいた。
「いや、俺が不甲斐ないせいだ。君に責任はない」
そう言ったライルもまた、同じような顔で歯をくいしばっていた。
「とりあえず、コイツをここから遠ざける!手伝って!」
「無論、そのつもりだ!」
クレハは紅葉を舞わせて、敵の視界を撹乱させる。
その間にライルが仲間達へと避難誘導を指示した。
「もう効かないってェ!ボク、匂いで分かっちゃうからァ!」
またしても巨体が速度を上げて、避難中の人々へと向かう。
「させんっ!!」
ライルが遮るようにして空気の弾丸を放つも、やはり効き目がない。
しかし先ほどと違うのはこの場にクレハがおり、そして彼女の瞳が金色に染まっているということだ。
「キミはそのまま撃ち続けてて!私はそれを利用させて貰うから!」
「ああ!好きなだけ使ってくれ!」
グラトニーがこちらを見向きもせずに走る中で、クレハの紅葉が黄金色に染まる。
それらがライルの空気の弾丸に乗って勢いよく飛ばされ、グラトニーの身体を貫いていった。
『黄金紅葉』。
これは金色の瞳の力で得られる、武器へと付与する光の加護の応用である。
本来なら金色の聖なる光によって、全ての能力を受け付けなくする防御に長けた力だ。
これをクレハは逆に攻撃へと利用する為の、敵を貫く刃として扱う。
つまりあらゆる物の力を受け付けなくする事によって、敵の防御力すら無視して貫通させるのだ。
だが舞わせるだけでは届く前に敵に吸い込まれてしまい、力の及ぶ範囲外となる。
そこで急遽ライルの能力を利用し、高速の射出に乗せた。
速度は圧倒的に増し、とうとうこの悪魔に攻撃を届かせた瞬間であった。
「……ググ……痛いなァーー!!」
形相を変えたグラトニーがこちらへと引き付けられた。
二人はそのまま村から距離を空け、郊外へと誘き寄せる。
「グフッ……グフフッ……。……怒ったから、食べちゃおーー!!」
巨大な口を開き、勢いよく迫り来るグラトニー。
それに対してライルは全ての力を振り絞り、強く強く空気を圧縮していく。
その空気の塊はとても大きな尖った円柱状へと形を変え、対象へと向けられる。
ただひたすら敵を穿つことだけを考えた結果が、この土壇場で形として現れた。
そしてそこにクレハの紅葉が大量に纏わりつく。
さながらそれは、黄金色のミサイルであった。
「それじゃヨロシク!」
「了解した!……はあーーっ!!」
即席のコンビネーション技。
発射されたそれが敵へと着弾し、グラトニーの腹部に突き刺さった。
そのままドカァァン!!と炸裂し、それと同時に貼り付けていた黄金色の紅葉が敵の内側から飛散する。
「あれェ??——」
そう一言だけ呟いたグラトニーは、一瞬で散り散りとなり消滅した——。
◆
「っはあ~!いやー、苦戦したなー!」
腰が砕けたかのように、クレハがその場で座り込む。
それに習ってライルもまた腰を下ろした。
「くっ!……力を使い過ぎたか、身体が上手く動かせんな」
そしてライルは悔しさを堪えきれずに吐き出す。
「……彼らを救えなかったのは、俺の責任だ。ここには彼らの家族もいる。……どんなに謝罪しても許されん」
「……でもま、確かに犠牲も出たけど、何とか脅威は排除した。あの人達には申し訳ないけどね。けどせめてもの罪滅ぼしなら、今度はその家族を守ることじゃない?」
「……ああ、そうだな」
そう言いながらクレハ自身もまた高を括っていたからこのような結果になったのかもしれないと、後悔の念に駆られていた。
だがこれが自身にとって最後となる戦闘だろう。
なので反省はあまり意味を成さないと彼女は思い、割り切ることにする。
そんな事を考えていた折、彼女達の目の前から一人の男が急ぎ足で近付いて来た。
「——無事だったか!ったく、姿が見えないから、やられたのかと思ったぞ!心配させやがって!」
その男はロディーだ。
彼はリーナに真相を伝えた後、ここロレイヌ国へと向かっていた。
ずっと酔っ払って寝ていたのが嘘であったかのように、それはもう忙しなく。
まるで頃合いを見計らっていたかのように——。




