Vendetta
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ヨハンは重症を負ったユリィを見て言う。
「……君の事は、よくシーラから聞かされていたよ。とても有望な部下だとね」
「ユリィに何の用?」
意識の薄れたユリィに代わって、怪訝そうな顔でエリカが返す。
「君を救ってあげよう。その致命傷を、僕なら治せる」
そう言ったヨハンは悠々とした様で、ユリィの元まで歩み寄りその場で屈む。
すると左目に刻まれた十字模様、即ち『聖痕』が強い輝きを放った。
「っ!ユリィ様に手出しはさせ——っ!?」
リーナが割り入ろうとした手前で、ユリィの脇腹の傷口がみるみる内に塞がっていくのが見えた。
「なっ!?貴様は、何を……!?」
驚愕の表情を浮かべるリーナに、ヨハンが警告らしき事を口にする。
「これで彼女の命は繋ぎ止められた。でもこれが僕の最後の力だ。だからもう他の人間は救えない」
「……いったいお前は、何の話を——」
「それじゃ、僕は行くよ。この先で『彼』が待っているからね」
そう言うとヨハンはスッと立ち上がり、歩き出した。
ほどなくしてヨハンは姿を消し、施しを受けたユリィがゆっくりと上体を起こす。
「……すっご、治ってる」
「ユリィ様!大丈夫なのですか!?」
そんな彼女の姿に、この場にいた全員が信じられないような視線を送る。
「……まったく、むちゃくちゃね」
エリカが小さく声に出すと、終始威嚇されていたグリードが我に返った。
「……チィッ、これで全部パーじゃねーか!」
せっかくの算段を台無しにされたグリードは苛立ち始める。
ここに来てあんな人間の出現などグリードは考えもしていなかった。
死神が二人いた、などとは。
「……だったらテメーらも、道連れだァァ!!」
自暴自棄になったグリードが、八つの腕を地面に叩きつけた。
「ギャハハ!!纏めて滅びろォォ!!」
すべての掌から、グリードの能力である分子配列の撹乱が地表へと伝わっていく。
「リーナっ!」
「はいっ!」
「やってやんよォ!!テメェらァァ!!」
すかさずユリィが武器を作成し、リーナがそれを敵の腕へ飛ばす。
八つの腕はすべて断ち切られるも、グリードはそれを分かっていたかのように腕をすぐさま再生させる。
そしてリーナが、後ろにいたエリカへと声を荒げて言う。
「エリカ様!奴を追ってください!」
「え?いや、でも——」
「超越の反動はいずれ戻ります!ここで奴を逃したら、“本当の真実”を見失うことになるかもしれません!」
切迫した声のリーナに何かを感じ取ったのか、ユリィがそれに加わる。
「エリカさん!行った方がいいよ!じゃないと後でグチグチ言われちゃうよ!」
「その様な言い方はしませんっ!」
そうこうしながらも二人に背中を押されたエリカは意を決し、ヨハンの向かった方向へと駆け出した。
「いいこと!?二人とも、わたくしをこき使うからには、後でキッチリ対価を頂くわよ!」
そう言葉を残してエリカは去っていった。
「後で、ね。……それじゃリーナ!仕方ないから“アレ”、やっちゃおっか!」
「了解しました!」
ユリィが周囲の武器を全て銃へと変える。
それをリーナが磁力の微調整によって宙へと浮かせ、全銃口をグリードへと向けた。
「……ヘッ。なら盛大に、盛り上げてやんよォォ!!」
腕を飛ばしながら、自らも飛び込んで来るグリード。
「今です!!」
「オッケー!!」
銃撃隊を統べる軍隊のように、リーナが敵へと照準を合わせて号令をかけた。
それを合図にユリィが全弾を放つ。
ずらっと並ぶのは、マグナムよりも口径の広いライフルだ。
それらはユリィ独自の作成により、イメージ一つで連射が可能となっていた。
威力も弾数も桁違いである。
「……チッ、あっけねーな——」
事は一瞬であった。
ドドドドッ!!と幾百もの弾丸を浴びたグリードは蜂の巣となっていく。
やがて残骸の破片一つも残さず消えていき。
事実上、強欲のグリードは亡き者となった——。
作戦目的を達成した二人は、多少の安堵感を催す。
「……はぁ、はぁ。これはやっぱ、かなり持ってかれるね……」
息を切らしながらユリィはフラフラと腰を下ろす。
今使用した銃撃の連射は、二人の連携で最も力を必要とする技であった。
使用後の反動を考えた時に、絶対に倒せると判断しない限り使えない代物なのだ。
「……そうですね。ですが、早くエリカ様を追わなくてはなりません。……まあでも、あの調子なら心配いりませんね」
「あはは!リーナも言うようになったね!敵と味方じゃあんなに口調が変わるのにねー?」
ケラケラと笑うユリィに対し、少しムッとなった顔でリーナは返す。
「……悪魔に情けは無用です。それに……人を敬う事の大切さを、姉様が教えてくれましたので……」
「……そっか」
ヘナヘナと地べたに座り込んでいるユリィとリーナ。
二人は復讐を果たせたと同時に、復讐の無意味さを知った。
けれど因果な事に、そんな復讐心が繋げてくれた接点も確かにあったのだと。
亡き彼女へ、感謝の一報をするのであった——。




