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LOST HEAVEN  作者: 宵空希
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Yellow flower completely bloom

じりっ、じりっと。

自らの武器である大剣を構えながら、リーナは慎重に間合いを詰めて行く。

そこへエリカが声を掛ける。

「二人とも。わたくしが補助するから、存分に叩きのめしてあげなさい」

「それは望む所ですね。ではユリィ様。私が斬り込みますので、牽制を頼みます」

「オッケー。じゃあこっちも、全力で行くよ!」

そう言って三者とも両目に金色を宿し、加えて各々の武器にも金色の加護を纏わせる。

「準備できたー?待ちくたびれちゃったよー。それじゃあちょっと遊ぼっかナー。それなりに相手、努めてよ?」

エンヴィーがそう言ったと同時に、再び姿を消した。

そしてグリードも動き出す。

「オイオイお前ら、こっちまで丸聞こえだゼ?逆に動きづれぇじゃねーかよ。……なーんてなァ!!」

最初からエリカ以外は眼中にないグリードが、彼女目掛けて猛スピードで飛び出す。

けれど、ダァン!とユリィの放った弾丸がヒットし、グリードの注意が一瞬削がれた。

「チィッ!邪魔が多いなコラ——」

「はぁっ!!」

空かさず死角から現れたリーナが大剣を振るい、グリードの右腕を両断した。

「グアアッ!!……テんメェェッ!!」

右腕から大量に出血する中、更なる追い撃ちをユリィが仕掛ける。

「あはは!泣き叫んじゃいなよ!」

歓喜と言わんばかりの笑みを浮かべて駆け出し、ユリィは銃から大きな槍へと武器を変えグリードを穿つ。

しかし突然飛び出してきたエンヴィーの金槌でそれを大きく弾かれ、槍が手元から飛ばされてしまう。

「待ってたヨー!ガラ空きだネ!」

エンヴィーはそのまま勢いよく回転し、横殴りにユリィへと金槌を振り回した。

そこへ今度はエリカが命令を下す。

「『跳ねなさい』」

脳へ信号を送られたエンヴィーはその場で強制的にジャンプさせられ、ユリィの頭上で大きく空振りした。

「えー!?何コレ!?」

初めての感覚に驚きを隠せないエンヴィーに、ユリィからバトンを繋ぐようにしてリーナが大きく跳躍し斬りかかる。

「終わりだっ!!」

だがリーナの大剣が振り下ろされる一瞬の刹那。

宙に浮いていたエンヴィーは自身の金槌から手を離すとそれを土台にして蹴り、そのまま飛び退いたのだ。

さながら曲芸のような滑らかな動きが、正に猫の体の柔らかさを体現していた。

そこで一度区切りを付け、全員が警戒体制のまま距離を取る。

「おいコラ!もっと早く出て来いよ!腕が飛んじまったじゃねーか!」

「えー?イイじゃん、どうせまた生えるんだからサー」

さらっと流されたグリードはエンヴィーを睨み付ける。

だが右腕の落とされた部分からは、四つの腕が気味の悪い音を立てながら生え始めた。

「……気持ち悪いわね」

エリカは下手物を見たような顔で、堪らず心境を漏らした。

「……ですがアレは厄介でした。奴の能力も合わさり、あの掌もすべて触れた物を破壊してしまいます」

先にやり合い把握していたリーナが、四つ腕の特性を忠告した。

そして今度はエンヴィーが先程感じた疑問をリーナに問うて来る。

「ねェ新入りのお姉さん。さっきボクのハンマー弾き返したよネ?どんな腕力してるのかナー?もしかして、ボクと似たような能力だったりする?」

「なぜ私が敵に手の内を見せねばならんのだ?精々必死に考えろ」

リーナは冷たく切り捨てるように言い放った。

それに対して、気分を害したエンヴィーは雰囲気を変える。

「……ボクね、舐められるのが嫌いなんダー。でもそんな活きのイイお姉さんは特別に、ボクのコレクションに入れてアゲる。頭だけ集めてるから、身体はさっさと粉々にしちゃおーネ!」

再び戦闘体勢に入ったエンヴィーが、リーナ目掛けて飛び込んで来た。

それに対してリーナは大剣を構えるも、迫って来る直前でエンヴィーの姿を見失った。

するといつの間にかエンヴィーはリーナの背後へと回り込んでおり、既に金槌を振りかぶっていた。

瞳の力によってリーナ達三人はスピードが増加されているのだが、先程まで捉えられていた筈の動きがこの瞬間だけはリーナにも全く見えなかったのだ。

だがこれがエンヴィーの本気のスピードである。

「っ、リーナ!!」

最初に気付いたユリィが思わず叫ぶ。

敵の動きに誰もついて行けず、金槌がもう振り下ろされる瀬戸際であった。

しかしリーナにとって速さなど関係ないのだ。

タイミングさえ合えば、それで十分。

「ウわっ!!何……!?」

急に間合いから遠ざけられるようにして、後方へと弾き返されたエンヴィーは困惑した表情を浮かべる。

リーナの能力である、瞬間的なものによって。

「すみません、ユリィ様。お陰で命拾いしました」

それを見ていたユリィとエリカも胸を撫で下ろした。

「貴女の能力が“それ”で助かったわ。でも油断は命取りのようね。ユリィが叫ばなかったら今頃、悲惨な絵面になっていたでしょうから」


限られた範囲内の空間に、強力な磁場を作り出す。

それがリーナの能力、『磁力』である。

超重量級の巨大な金槌を弾き返せたのは金属への反発を促した為であり、なので金属性の物質であれば引き付けたり突き放したりと対処するにあたっては無敵となるのだ。

但し、継続して発動することは出来ない。

効果は一瞬であり、更には空間の一点のみとなる為効果範囲は限定される。

なので最初の邂逅では、大剣で力任せに弾いた様に見せ掛けた。

この能力に気付かれると、効果範囲外を狙われる可能性も否定できないからだ。

けれど超越により、その制限は和らぐ。


「……ふーん。でもお姉さんの能力が、力の類いじゃないってことは分かったよ。何かを操作してるんだネ?まー、だいたい想像ついたからいーや。——グリード」

「あァ?」

「オマエはこの二人をヤレ。厄介な金髪はボクが仕止めル。……ワかっタナ?」

エンヴィーの口調が突然、刺々しいものになった。

それはスイッチを入れる為の合図だ。

「……チッ。しょーがねぇ、そいつはテメーに譲ってやる」

グリードはこの状態のエンヴィーに逆らえない。

序列が一つ低いというのもあるが、それだけではない。

何よりも畏れているのは、この悪魔のやり口だ。

「アハハ!オマエらの立場をちゃんと教えてアゲるよ!まずは、そこのオバサンからダ!」

またしても姿を消したエンヴィーに対し、エリカは至って冷静な状態のまま剣を構える。

「オバサン呼ばわりとはね。これだから子供は嫌いなのよ」

エリカの能力は、対象を視界に収めないと発動しない。

なのでここでは剣の能力である引力を発動する。

するとドガァン!!と金槌だけが地面に落ちてきた。

実の所この力は、不完全な能力保持者から得た力なのだ。

リーナの磁力とでは性能が全く劣ってしまう程、効力が低い。

特に対象が重ければ重い程、力は薄くなる。

故にエンヴィーがその気になれば、平常通り金槌は使えるままだったのだが。

『もういらないヨ、そんなモン。オマエの身体はひとつひとつ、素手で丁寧に剥ぎ取ってヤるからネ!』

何処からともなくエンヴィーの声が響き渡る。

木々の多いこの場所で尚且つこの暗がりでは、もはや高速移動を繰り返すエンヴィーを視認することは不可能に近かった。

一瞬の静寂の後。

エンヴィーが急激なスピードで、エリカの背後から飛び出してきた。

「くっ……!!」

「アハ!ザマァみろ!!」

エリカの右腕の皮が大きくむしりとられ、血が滴っていた。

「っ、エリカさんっ!!」

それを目撃したユリィが叫ぶ。

けれど本人にもリーナにも余裕はない。

「オラァ!どこ見てんだテメーは!!」

怒鳴り付けるグリードが、一本の腕をユリィへと伸ばした。

それを間一髪で避けるも、その後も立て続けにそれらが追尾してくる。

「……ほんっとに、厄介だなぁ!!」

救援に迎えない葛藤、苛立ち。

そんな集中力を欠いてきたユリィへと、エリカが諭すように言う。

「ユリィ!よく聞きなさい!……シーラならこんな時、貴女に何て言うかしらね?」

自分の憧れていた上官だったなら。

それはとても強く、何よりも響く言葉だった。

「『焦るな』、だね。ごめんエリカさん!私だって、エリカさんを信じてるから!」

この土壇場であえてシーラを引き合いにしたのは、妹のリーナに対しての言葉でもあったからだ。

こちらにはまだ余裕があると、二人にそう伝えたかったのだ。

そして落ち着きを取り戻したユリィを一瞥して、エリカもまたエンヴィーへと意識を戻す。

『ナニ?舐めてんの?それともこれから死ぬ自分にカッコつけたかったの?アハハ!だっさいネェ!』

またしても姿を消しており、何処からか声を発していたエンヴィー。

それにエリカは大きくため息を吐いた。

「はぁ……、わたくしだってそう思うわよ。カッコつけるなんて実際、恥ずかしくて堪らないわ。……でもね、可愛い後輩達が期待をしてくれている。性に合わないけど、応えるしかないじゃない?」

そして今度はエリカが姿を消した。

脳信号を自らに送り、超越に加えて身体機能のリミッターまでも外したのだ。

そのスピードは、敵の姿を捕捉する程。

「追いついたわよ。それじゃあ、かくれんぼも終わりね」

「ついて来れたからって調子に乗るなヨ!?オマエはボクに引き千切られて終わりなんだヨ!!」

そう言ってエンヴィーがそのまま真っ向からエリカに急接近する。

しかし幾分か間に合わなかった。

「悪い子にはお仕置きよ」

「っがッ!……何をしタッ!?」


エリカの能力の超越。

それは一瞬で数多の命令を脳に送る、『過剰信号』だ。

複数の行動指令が同時に送られることによって、脳内で幾つもの矛盾が生じ対処しきれなくなり。

結果、この悪魔のようになる。


「ふふっ、説明はもう無理よ。その前に貴方の脳がもたないわ。では、ごきげんよう」

「ア″ア″ァ″ァ″ァ″ア″ーー!!」

ブシュッ!ブシュッ!と、エンヴィーの頭部数箇所から血が吹き出した。

幾つもの指示を強要された脳内では処理がしきれなくなり、結果、脳の神経が血管を強く圧迫して破裂させてしまうのだ。

故に敵を視界に収めた時点でエリカの能力は発動条件を満たし、勝利は確定していた。

「安心なさい?これはね、直ぐには死なないのよ。イカれた脳に苛まれながら、ゆっくりと息を引き取るの。だからそれまでは精々、——頑張りなさいね?」

黄色のイメージカラー。

その心理的効果として、一つは『愉快』が入ると言われている。

ざわめく木々の間から、いつの間にか朧掛かっていた月が覗く中。

まるで真っ紅に咲いた華が『黄色』であると言わんばかりに。

艶やかな笑みを浮かべながら、彼女は優雅に悪魔を見下ろすのであった——。

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