Incredible strength of the cat
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他愛もない話をしながら、エリカとユリィは夜の森を進む。
そんな中で起きたのは、突然の奇襲。
二人は同時に気付き、右手と左手に飛び退ける。
バァァン!!と背後から叩かれた巨大な金槌によって、二人の立っていた中央の地面が大きく抉られた。
「——アレ?バレちゃっタ?」
仕掛けてきたのは子供の悪魔、『嫉妬のエンヴィー』だった。
彼女達に悟られぬように近付いたのだが、気付かれてしまった事にエンヴィーは少しだけ驚きを見せる。
「お姉さん達スゴいネー!ボク気配を消すのが得意なんだよ?だからボク達の中では一番上手いんだけどナー。ざーんねン!」
あどけない声で発せられた少年の言葉にエリカが反応を見せる。
「随分と可愛い悪魔ね。虐めがいのありそうなこと」
「ダメだよーエリカさん。いちいち痛めつけてたら朝になっちゃうからね?」
そんなエリカを宥めるユリィ。
けれど緩やかな声色とは裏腹に、目付きは鋭く冷たいものだった。
「実はねー。ボク達、そろそろお姉さん達を殺さなきゃならないんダー!あ、でも上からの指示だから、ボクの本意じゃないよ?」
幼い笑顔を向ける少年の悪魔。
すると見る見る内に、その表情は変わっていく。
「だーって、ボクなら絶対——殺さないように殺すもんネェ……?」
その歪んだ顔は狩りを好む狂暴な獣のようだった。
「ねぇユリィ。あの表情、何処かで見たような気がするわ。心当たりはない?」
「さあ?私には分かんないけど、エリカさんが見たならそんな人もいるんじゃないかな?」
しれっとした態度のユリィだが、その表情は歪なものに変わっていく。
「まあでも、肩慣らしには丁度いいかな。それに聞き分けない子供には……躾……しなきゃだもんねぇ……?」
ユリィは鞘から剣を抜き出し、それを上下に振る。
剣だった筈のそれが、振り降ろした頃には銃に変化していた。
弾が六発、回転式のリロードで放つ、リボルバー型のマグナムだ。
「それじゃ手始めに、風穴あけちゃおっかぁ!」
それをエンヴィーに向け、引き金を引く。
ダァン!ダァンッ!と立て続けに大きな銃声が鳴り響く中で、六発の弾丸は全て悪魔に命中した。
けれど驚くことに、この悪魔は全ての弾丸を片手で掴み取っていた。
「アハハ!何コレ、おもちゃ?ざんねんだねー、ボクには効かないよー!」
そう言ったエンヴィーは掴んだ弾を撒き捨て、手にしていた巨大な金槌を二人目掛けて大きく振り回す。
それを余裕を持って二人は避けるも余りの重量からか、そこから軽い旋風が巻き起こった。
「……っ!?凄っ!」
ユリィも思わず声を漏らす。
軽く飛ばされてしまった二人は、背筋が凍るような感覚を覚えていた。
余程の重さがなければ、ここまでの風圧は生じない。
だとしたら直撃すれば木っ端微塵だ。
「エヘー、スゴいでしょー?ボクの能力はね、力自慢になれる能力なんダー!このハンマー、300キロくらいあるんだよ?」
さらっと能力を明かした悪魔が、更なる手の内を明かす。
「でね?ボク達には特別な“悪魔の力”があるんだけど。お姉さん達には特別に教えてあげるネ!ボクの力はねー、——ネコさんみたいになれるのダ!」
敵の両目が緋色に染まる。
それは悪魔の覚醒を意味し、次の瞬間エンヴィーは姿を消していた。
「……え?消えた?」
「違うわ!何処かに潜んでるのよ!」
猫の性質として、エンヴィーの力は狩りに特化した能力を備えている。
俊敏さと、一瞬の隙を狙う瞬発的な動きだ。
そして何よりも厄介なのは、身体の柔軟性。
人間では真似できない程しなやかに跳んだり躱したりと、特に障害物の多い森での適応力は随一を誇っていた。
そして木々の間から物凄い勢いで飛び出して来た。
その標的はユリィだ。
「バイバーイ!」
巨大な金槌が縦に大きく振られる。
しかしそれはユリィの目前でガキィィン!!と鳴らした音と共に、大きな剣によって打ち払われた。
「——遅くなりました、ユリィ様」
「っ、ダレ?手が痺れちゃったじゃン!」
文句を言いながら後退る敵を警戒しながら、リーナは何とか間に合ったと安堵のため息を内心で漏らした。
「ありがとう、リーナ!助かったよ!」
ユリィが感謝の言葉を述べる中で、リーナの背後からは何者かが猛スピードで駆け寄って来ていた。
「いえ、それは此方のセリフです。私だけでアレと対峙するには、時間が掛かりそうでしたので。ご助力を」
追い付いて来たのは、先ほど出会したグリードだった。
「テんメー!!偉っそうなこと言っといて逃げてんじゃね——……ギャハハ!!何だよッ!?律儀に案内してくれてたのか!!」
この近辺にいた者達が粗方揃い、ここからは三対二のチームバトルとなる。
勝敗の行方は果たして。
そしてその結果を、密かに対立している二人の男は。
各々の確信を既に持っているのであった——。




