Very like yourself
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鬱蒼とした夜の森を駆けながら、リーナは単身でルベール国へと向かっていた。
(……あの男は本当に大丈夫だろうか?)
クリム国でリーナはロディーと別れ、作戦の決行へと移った。
そしてロディー自身は他の皆にも真実を伝えると言ってその場を後にしたのだった。
けれどリーナはどこか違和感を感じていた。
何かが引っ掛かる、と。
(おかしな点はまず、あの男の行動そのものだ。なぜ力量のない身でありながら、こうもあちこちを回っていられるのか。いつ悪魔と出会すとも限らない状況下で、だ。……力を隠している?……まさか——)
そんな得たいの知れない感覚を他所に、前方から何者かが近付いてくる気配を感じ取った。
リーナは一度立ち止まり、暗闇の中で目を凝らす。
「——ヘヘッ!テメーもあの女の仲間だなァ!?アイツの居場所を教えろ!じゃねーとテメーからバラバラにしちまうゾォ!?」
「……っ!貴様は……!!」
現れたのは『強欲のグリード』であった。
この悪魔は自身の姉を殺した者だと聞かされている。
ならばリーナにとって、最も怒りの矛先を向けねばならない相手だ。
「……貴様に一つ問おう。これまでに殺してきた人々の記憶が残っているか?」
「アァ!?聞いてんのはコッチだ!あの澄ました金髪の女がどこにいんのか、吐かねーならブッ殺ス!!」
そう言い放ちグリードは猛スピードで突進してきた。
それを冷静に見極め、リーナは回避する。
「では単刀直入に聞こう。半年前のあの大戦の日、貴様が殺した私の姉を覚えているか?」
「……ケケッ、そうか。その口振り、髪の色。あの女とツルんでやがった片割れだな?だったら覚えてんぜ?あれは俺が殺したんじゃねー。勝手に落ちたんだよ、仲間を庇ってなァ。ギャハハ!!バカみてーな最期だったゼェ!?」
その笑う様は品性とは無縁な、野蛮のそれに値する。
そんなグリードを冷やかな目で捉え、リーナは静かに殺意を向ける。
「なるほど。姉様が毛嫌いするタイプだな。その醜悪な面、反吐が出そうだ。……だが、貴様の記憶に姉がいてくれて助かった。私と姉の怒りを永遠に刻んでやろう。死して尚、——悔やみ続けるがいい!」
そうして復讐による戦端の幕が切って落とされる——。
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ユリィとエリカは暗闇に染まった林道を歩いていた。
「クレハさん、大丈夫かな?」
そう呟いたユリィにエリカは淡々と返す。
「大丈夫よ。ああ見えても彼女はやるべき事を疎かになんてしないし、実力だって確かよ。それよりも貴女は自分自身に専念なさい。対峙しても平常心を心掛けること。いいわね?」
「はーい」
ロレイヌ国からルベール国へ向かうのは四人で、現在二人一組に別れて進行していた。
エリカとユリィは正規の森を抜ける道で、シンとレオは別ルートだ。
別ルートとはエリカが国王であった時に作らせた、ルベールの隠しルートである。
一見すると見渡す限りに木々の生い茂る森が広がっているだけなのだが、その中の一点にだけ少し進めば開拓された道になっている場所があるのだ。
そのまま行けば幾つかの町を通り抜けてルベール旧王都に出る、最短ルートだ。
それはさておき、ユリィはエリカの発言から感じ取った率直な意見を述べる。
「エリカさん、何だかんだ言ってクレハさんを信頼してるよね。クレハさんもきっと、エリカさんを信頼してるからフザけてられるんだろうけど」
そんなユリィの正直な感想にエリカはバツが悪くなった顔を見せる。
ここで反抗を示さなければ、自分が笑い者にされるのが目に見えていた。
「……深読みし過ぎよ。わたくしはただ行動と実績を見定めて、その上で総合的な判断をしているだけ。要は使えるのか使えないのかってことよ。残念ながら、彼女は前者だわ」
だがこういう時は何故だか必ずユリィが上を行くのだ。
「ぷっ。エリカさんそれ、信頼できるって遠回しに言ってるだけだよ?自分でそう判断しちゃってるんだよね?」
「……貴女ね」
ニコニコしたユリィをジト目で見るエリカ。
だが信頼に足るという点では、エリカに反論する余地がなかった。
「はぁ……、まったく。貴女の人を食った様な態度には、さすがのわたくしも感服するわ。何せ、不快感すら抱かせてはくれないのだから」
エリカの愚痴なのか褒め言葉なのか、微妙に分かりづらいニュアンスの言葉を聞いたユリィは何を思ったのか。
突然ひざまずき、かしこまるようにして彼女へと言葉を紡ぎ出した。
「お褒めにあずかり光栄です、陛下。ならばご期待に沿えるよう、これからも精進してまいりますゆえ……ぷっ、あははっ!もうダメっ!我慢できないって!」
腹を抱えて大きな笑い声を上げるユリィ。
そんなおふざけをする彼女に対して、エリカはいつものため息を吐かなかった。
「今日は一段と馬鹿にしてくれるじゃない?でも……ふふっ、そうね。——貴女らしくていいんじゃないの?」
エリカもまた笑顔で言葉を返した——。




