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LOST HEAVEN  作者: 宵空希
36/47

Book of Eden

波音が響く。

膝をつき、ゆっくりと祈りを捧げるのはまだ年端もいかない少女。

見た目はあどけなさを残し、けれどその仕草や物腰からは大人顔負けの威厳が風格として表れていた。

「──姉様。私はもう、貴女に守られていた私ではありません」

クリム共和国の海岸沿いにある小さな墓石。

その前で亡き姉に語り掛けるのは、ショートカットの青に後髪を結んだ少女。

リーナ・トリニティーと言う名の、シーラの妹であった。

「どうか見ていてください。憎き悪魔を全て駆逐し、そして此処に新たな国を建てます。貴女の描いていた未来図は、必ずや私が叶えて見せましょう」

そう決意表明をしたリーナはすっと立ち上がり踵を返す。

向かうのは悪魔の巣窟と成り果てたルベール帝国。

彼女はクリム国を経由して進む、SEEKER's最後のメンバーであり奇襲要員だ。

「──待っていろ、悪魔共」

憎悪を浮かべる瞳は皮肉にも、美しい金色の輝きを放つのであった──。




「……貴様、何をしている」

クリム国で早速リーナは何者かに出会した。

その姿を見るなり、何故か悪魔に対する以上の苛立ちを感じた。

「ぐあぁ~、ぐあぁ~。……バカ野郎……もう飲めねー……ぐぁぁ~」

寝ている。

そしてこれは、いびきと寝言だ。

冷ややかな目を向けながら、この男を叩き起こす以外リーナには選択肢が浮かばなかった。

「おい、起きろ!馬鹿をやるのも大概にしろ!」

「……ん、んんー……?何だ、お前か。もう少し寝かせろ、今いいとこなんだ……ぐ~……」

再び寝に入るロディー。

何がいいとこなのか分からない上に、ここは廃墟となった街中の路上だ、眠る場所ではない。

いや、そういう問題でもないのだが。

「……ふっ、いい度胸だ。それが貴様の、遺言だな!!」

「ぐほっ!!」

ガンッ!!と、あばらに蹴りを強打されたロディーが、突然の苦痛に驚きを隠せない。

「っ!?……お、おまっ……何しやがる……」

流石に寝てはいられなくなった酔っ払いのオッサンが、苦し紛れの文句を弱々しく放った。

「貴様こそ、ここで何をしている?予定にない行動のようだが?」

リーナの言う通り、始めからロディーはこの大陸に来る予定ではなかった。

なのにここにいる。

つまり自発的に、勝手に来たという事だ。

仮に誰かの都合で呼ばれたのだとしても、そんな事を素直に聞くたまではない。

「ま、待て……!話を聞け……!」

再度ローキックのモーションに入るリーナを、ロディーは必死になって説得に取りかかる。

「何だ?懺悔ならあの世でしてこい」

すかさず切り捨てるリーナに対して、ロディーはやむを得ず大人のやり口で斬り込んだ。

「い、いいか、これは俺しか知らない『真実』を伝えに来たんだ。まずはそれを話すから、その態勢をやめろ……」

「真実?ならばさっさと話せ。くだらん事だったら次は頭蓋骨だ」

何とか取引に応じてくれたリーナに、ロディーが涙目で話し始める。

「あ……ああ、分かった。──俺は二つ、お前達に隠してた事がある。それはこの世界の創造主と、ヨハンについてだ」

「……。」

険しい表情になるリーナ。

勿論だが彼女もこの大陸の出身であり、将来は姉であるシーラの様な立派な騎士道を歩む筈だった。

だがそれもヨハンの引き起こした大戦によって全てが白紙となり、故にリーナにとってあの男は悪魔の次に憎むべき存在である。

「……話すつもりはなかったんだ。お前達には悪魔の討伐に専念してもらいたかったし、知らないで済むならそれに越した事はない。……だがな、俺の読みが甘かった。アイツ、ヨハンはお前たちSEEKER'sすら手駒に含んでやがったんだ」

座り直しながら、ロディーもまた険しい顔付きで続ける。

「アイツの物事に対しての見方は、幼い頃から並外れていた。今思えば頭が切れ過ぎたんだろうな。ハッキリ言って、ここまでの人間が生まれていたのは神にとっても想定外だった。だから俺はそんなアイツを見込んで託しちまったんだ。『エデンの書』をな……」

「……続けろ」

一旦区切るロディーをリーナが促す。

話す事すら躊躇うような、そんな内容をこれから語るのであろう事が予想された。

「エデンの書とは俺だけが持つ、真実が記載された唯一の書物だ。……つまりだな。最初からアイツは、全てを知った上で行動していたって事になる。俺も初めは単に悪魔を倒す、そういう思考のもとで動くんだと思ってた。……だがそれは間違いだった。アイツはとんでもない発想で真実に食い掛かったんだ。それがアイツの企てた計画。正しく、──『ロストヘブン』だ」

先の大戦の名称。

それは決して良い印象など与えてはくれない。

故にその言葉を聞いた瞬間、リーナの脳裏に嫌な緊張感が走った。

「……順を追ってから話そう。まずはこの世界の創造主、神についてだが──」




空が夕暮れ色に染まり始める中で。

強い西日など気にもせず、ロディーの語った真相を聞き終えたリーナは呆然とする。

いや、もうそれしか出来なかった。

(……姉様。この世界は、最初から狂っていました。悪魔どころか……何もかも)

そんな残酷な真実を聞かされたリーナは、神に祈りたい気持ちで一杯になった──。

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