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LOST HEAVEN  作者: 宵空希
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SEEKER's

大戦が起きた数日後──。

断崖絶壁から見渡せば、何処までも広がる海。

空は澄み渡り、水平線はずっと遠くに見える。

そんな絶景に目を向けていながらも、空っぽになったシンの心には何も入って来なかった。

「──シン、飯できとるで。はよー食べや」

「……。」

この数日間シンは何も口にせず、茫然自失となったまま横たわっていた。

今居るのはレオと名乗った少年の住処としている孤島であり、難を逃れる事ができたシンはこの地でどうにか生き延びるも、今正に餓死寸前の状態であった。

あの日、シンは全てを失った。

住んでいた場所も、守ろうとしていた人々も何もかも。

大きな穴がぽっかりと胸に空き、それはどうしたって埋まってはくれずに時間だけが過ぎていった。

「シン。いい加減なんか食わんと、ほんまに死んでまうで。そんなんでこれからおまえはどーするつもりや?なんもでけへんで?」

「……。」

まったく返事をする素振りもないシン。

空腹を感じる余裕もなく、最早喋る事や身動きを取る事すら億劫だ。

そんな腑抜けきったシンに強い目線を向け、レオはとうとう我慢の限界に達する。

「……おい、シン。歯ぁ食いしばれ」

横たわるシンの胸ぐらを掴むとそのまま、ガンッ!!と大きな音を立てて、レオは顔面に強烈な頭突きをかました。

「ぐっ……!?」

鼻から血を流して仰け反ったシンに追い打ちを掛けるようにして、馬乗りになり素手で何度も顔面を殴り続けた。

ガンッ!!バキッ!!ガンッ!!と痛々しい音が鳴り止まない。

「ぐっ……!がはっ……!ぐあっ……!!」

シンの顔は血塗れで腫れ上がり、もう原型を留めていなかった。

それでもレオは手を止めないまま、今度は声を荒げながら殴り続ける。

「何も食わんでっ!死ぬんやったらっ!オレに殺られよーとっ!同じ事やろっ!」

「……。」

恐らくもうシンの意識は遠退き聞こえてはいないのだろう。

それでも真っ向からぶつかるのは、レオがシンに自分を重ねているからだ。

やがて振るっていた拳が止まり、波の音だけが木霊する中でレオは静かに語り掛ける。

「……おまえは、無力や。それはおまえの心が弱いからなんや。立つ事を諦めたもんは死ぬしかない。……そんな世界やろ、ここは」

何処か遠くを見ているかのように、レオは朧気な視線を漂わせる。

頭の中で鮮明に残っている記憶がそうさせるのだ。

そんなレオへと辛うじて意識を留めていたシンは、心の内にある想いを口にする。

「はぁっ、はぁっ……。俺は強く、成りたいっ……。もう守れ、ないのはっ……イヤだっ!!」

息を切らしながら必死に声を発し、腫れてまともに開かない眼からは血と共に涙が溢れ出ていた。


辛かった。

崩れていく自国を目の当たりにして、沢山の人々がそれに呑まれていって。

計り知れない数の民衆が死に絶えてゆく様を、ただ眺める事しか出来なかった自分が許せなくなって。

何より崩れてしまったのは、そんな生き残った者達の精神だった。

元々は戦時中でありシンは自ら軍へと志願したのだ。

当然、自分の身に何かあってもそれなりの覚悟はしていた。

だがこれは余りにも酷い結末である。

誰一人守る事すら出来なかったのだから。

そして成す術がなかったとは言え、自分だけが逃げ出してしまった。

それは単に死よりもずっと辛いであろう罪の意識であり心の痛み。

それを抱えて生きるには、まだ16歳のシンには重過ぎたのだ。

けれどレオの言った通り、シンだって本当は分かっていた。

自分がここで朽ち果てたところで何にもならないと。

どんなに辛くても、前に進む以外に選択肢はないのだと。


「……ほんなら、つよーなればええ。答えは出とるんやないか」

「……うっ……くそっ……くそぉっ!!」

目も当てられない程ボロボロの顔で泣きながら悔しがるシンの姿に、レオは本当の意味で同情していた。

レオもまた悪魔の一角でありながら、“大切な人を守れなかった過去がある”からだ。

「まずは手当てしたるからウチに入りー。痛いやろけど、ちゃんと飯も食うんやで」

シンの腕を自分の肩にまわして担ぎ、二人はフラフラとした足取りでポツンと建つ古びれた家へと向かう。

「……わかった。それと──」

「何や?」

心も身体もズタボロのシン。

けれどその顔には照れた様な笑みを滲ませており、改まってレオに言う。

「……ありがとな」

「……えーから、はよー行くで」

そうして二人はこの孤島で生活を始め、レオに習いシンは力を身に付けていく。

ずっと持て余していたシンの能力は開花し、今は亡き老齢の剣士アラゴン・グレイに教わった剣術にも独自で磨きを掛けていった。

その後。

シン達は“とある男”に連れられて、別の経路で脱出していた者達と邂逅を果たす。

運命の悪戯なのか、定められた必然なのか。

ここで結成されたのが過去の縁を飛び越えた、新たな希望となるチーム。

それがSEEKER's。

彼らは探し求めているのだ。

悪魔達によって奪われてしまったモノを。

それ以前に争いのなくなった、平和な時代を──。

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