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第18話 犯人消失

 僕とスージーは手を繋いだままカウンターテーブルから抜け出す。


 倒れていない左側の本棚の陰や閲覧席の下を見たが、隠れている人間はいなかった。開かずの書庫の周りには隠れるものがないし、事務所や研究用の個室は施錠されていて入室不可能となっている。


「一階で探していないところは他にある?」

「いいえ。これで全部です」

「わかった。じゃあ上へ行こうか」


 二階へと続く階段を前にして気を引き締める。

 木製の階段の一段目をじっと見れば木目までしっかり判別できる。心の中で大丈夫と自分に言い聞かせて足を上げる。


「【夜明けの4番】」


 お願いする前にスージーが呪文を唱えて足元を明るく照らしてくれた。


「ありがとう」


 一段目に右足を載せてすぐに離す。

 なにも起こらない。体重をかけてみても同じだった。


「来ていいよ」

「はい」 


 罠を仕掛けるとしたら中段から最後の辺りだろう。高いところの階段に亀裂を入れておけば一階まで真っ逆さまに落ちていく。最後の階段を登り切って安心したところに本棚が倒れてくるということも考えられる。

 罠がないのを確認してから二段目三段目とゆっくり着実に上がっていく。


「一階はどう?」

「人の気配はありません」


 僕が上を向いて階段を見極めながら登り、スージーには後ろに犯人がいないことを確認してもらっている。手間と時間がかかって申し訳ないけれど、魔導書相手には慎重すぎるくらいがちょうどいいと思っている。


 戸籍が盗まれているからスージーの本名はすでに知られている。もし犯人が魔導書を持っているなら今すぐにでも封じ込めることができるだろう。


 それなのに【封印の魔法】を使わないのはなぜか。


 きっと正体不明の僕を警戒しているからだ。

 不思議な格好をしてナナツナと呼ばれる人間は魔導書にとって最も恐れる存在だろう。だからこそ本棚に罠を仕掛けて排除しようとしてきたに違いない。


 未知なものに恐怖するのは人間だけではないらしい。あるいは、頭がいいと慎重になって無理に攻めてこないのだろうか。しかし今回は魔導書の知能の高さがあだになった。


 これはチャンスだ。

 僕が魔法を使えないことを知られる前に見つけてやる。


「もう少しだよ。がんばろう」

「ええ。がんばりましょう」


 互いに声をかけ合いながらようやく二階へたどり着いた。普通なら一分もかからないのに、倍以上の時間をかけて登ったせいか、じんわりと額に汗をかいている。


 それでも僕らは、手を繋いだまま集中力を切らさずに周りを見回す。幸い本棚が倒れてくることも床が抜けるような罠もなかったので少しホッとする。


 これまで階段を照らしてくれていた橙色の球体が二階全体を照らしてくれるようになった。一階同様に左右に一つずつ本棚が奥まで続き、研究用の個室や閲覧席もいくつかある。

 この中のどこかに犯人は隠れているに違いない。


 大きく息を吐き出す。隣からも小さな息遣いが聞こえてくる。


「行ける?」

「はい。問題ありません」


 息を合わせて足を一歩前に出そうとする寸前で止まる。


「【六角6番】」


 スージーが呪文を唱えて六角形の盾を出した。柔らかな素材ながら耐久性に優れた逸品だ。


「ナナツナ様を傷つけるようなことは、もう絶対にしません」


 フードの奥からか細い声が聞こえてくる。

 盾を宙に浮かせたまま先に進ませながら僕とスージーも後を付いていく。見える範囲で背表紙も確認するが、文字の入っていないものはなさそうだ。一つ目の棚を通り過ぎてから二つ目三つ目と足音をたてないように静かに進んで行く。


 とうとう最後の棚の前にやってきた。

 途中で閲覧席の下や研究用の個室も確認したけど、人が隠れていることはなかった。窓にはしっかり鍵がかかっていたし、外に出られる戸もない。もし隠れているとしたらここしかないだろう。


「おい」


 背後から声をかけられて僕はすぐに振り向いた。

 だがそこには誰もいない。


「【括りの9番】!」


 すぐさまスージーは呪文を唱えて紐を出す。


「やめてくれ! 俺だよ俺!」


 改めて声のした方に視線を向けると、黒い毛玉が床に転がっていた。


「毛玉じゃねぇぞ! 妖精だ!」


 こちらの考えを見透かしたかのようなツッコミを入れながら顔の高さまで飛び上がる。


「ポチさん!」

 スージーが明るい声をあげるとすぐに紐は消えてなくなった。


「ナナツナのにいちゃん。スージーのねえちゃん。無事だったか?」

「僕たちは大丈夫。ポチはどうしたの? 他のみんなは?」

「あっちは仲間に任せてきた。どうしても気になってこっちへ来たんだ。ダメだったか?」

「ダメじゃないよ。でも、よくここがわかったね」

「二人の匂いをたどってきたんだよ」


 そうだ。妖精は犬と同じくらい鼻が利くんだった。


「それより下はどうしたんだよ。ゴミやほこりだらけで匂いが全然わからなかったぞ」

「ああ、魔導書に襲われ……」


 すぐに最後の本棚の陰を見るが、そこに人の姿はなかった。


 他に隠れる場所はどこにもない。

 気づかれないうちにどこかへ移動することも不可能だ。


 僕らは通路をふさぐように進んでいたし、妖精の目は動くものに対して敏感に反応するから見逃すはずがない。


 なぜ……。


 どうして……。


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