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5話:勇者は四天王と再戦することにした

 それから数日後。

 準備の整ったリナたち一行は、再び四天王アロガナの砦にやってきた。


「ここが四天王最後の砦かあ」

「魔物が沢山いますね」


 アロガナの砦は、魔物が沢山常駐しており。勇者一行が近づくと、戦闘体制に入った。

 どうやら今回は、道を譲ってくれないらしい。


「ちょうどいい、久々に連携を確認、しよ」

「うん!」

「わかりました」


 砦に近づくと、無数の魔物が襲いかかってくる。

 勇者一行は、戦闘に入った。


「『爆炎(ボムファイア)』!」


 ロレッタが魔法を唱えると、前方に、炎を伴った大爆発が起きた。

 向かってきた魔物の半数が魔法の直撃を受け、致命傷を受ける。


「『聖なる祝福(ホーリーブレッシング)』」


 シルヴィアが神の加護をリナに掛ける。

 リナの身体が一瞬淡い輝きに包まれ、身体能力が向上した。


「行ってくる」


 そう言って、リナは前に出た。

 残った魔物たちを、難なく切り伏せ、無傷で倒していく。

 あっという間に、向かってくる魔物たちは全滅させられてしまった。


「ロレッタ、砦の門を壊せる?」

「まーかせて!!」


 リナの問いかけに、ロレッタは自信満々に答えた。

 間近に迫った門に向けて、ロレッタは魔法を唱えた。


「『爆裂火球エクスプロシブファイアボール』!!」


 ロレッタの魔法が発動し、炎の塊が砦の門にぶちあたった。


 ドゴオオオオン!!


 と、凄まじい音を立てて、火球はとんでもない大爆発を起こした。

 しばらく煙が立ちこめていたが、それが晴れると、木っ端微塵になった砦の門が見えた。

 門どころか、建物自体もかなり壊れている。とんでもない威力の魔法であった。


「相変わらずすごいですね」

「えへん!」


 爆風で乱れた髪を直しながら、シルヴィアが半ば呆れたような口調で言う。

 ロレッタは自慢げに胸を張っていた。


「とりあえず、門は開いた。中に入ろう」

「うん!」

「はい」


 リナの言葉に、頷く2人。

 一行は砦の中に入っていく。


 砦の中からは、また無数の魔物が出てきた。

 リナたちは再び臨戦体制に入ろうとした。

 だが。


「グオオオオオン!!!!」


 突如、地響きのような叫び声が聞こえてきた。

 音で天井からパラパラと、小さな瓦礫が落ちてきたほどだ。

 その叫び声を聞いた魔物たちは立ち止まり、慌てて砦の中に引っ込んでいった。


「な、なになに?」

「敵が逃げていきますね……」

「……たぶん、ボスがわたしたちと戦いたがってるみたい」


 困惑するロレッタとシルヴィアに、リナがそう言った。

 ここの四天王の性格を考えての事だ。


「手筈通りに、慎重に行こう」

「うん、わかった!」

「了解です」


 3人は、砦の奥へと進んでいった。


 砦の最奥には変わらず、四天王である竜人アロガナが待ち受けていた。

 ただし、傍には食器を運ぶワゴンがあり、高価そうな酒と、それを飲むためのゴブレットが置かれていた。

 どうやら、昼間から酒を飲んでいたらしい。


「ひっさびさに大声あげちまったぜ」


 竜人アロガナは、喉を気にしながら、追加の酒をあおる。


「……で、仲間連れてきたってことは、今度こそやる気なんだよな?」

「出直してきた方がいい?」

「抜かせ」


 リナの返事に、アロガナは獰猛に笑った。


「オマエこそ今日は調子が悪かったとか言わせねえぞ」


 立ち上がって、曲刀を抜く。いつでも戦える様子だ。

 リナも、剣を構えた。


「大丈夫、これ以上ないくらいに、好調」

「ならいい。今日は楽しめそうだな」


 その言葉とともに、戦いが始まった。


「『短時間強化(ブースト)』」

「『敏捷強化(クイックネス)』!」

「『聖なる鎧(ホーリーアーマー)』!」


 無数の補助魔法がかかると共に、リナは剣を構えて、突撃した。


 補助魔法の力はかなりのもので、リナは一瞬で相手に肉薄し、剣を振るった。


「おっと」


 2撃、3撃と、剣を叩き込むが、アロガナは器用に曲刀でそれを弾く。


「『鋭さ強化(シャープネス)』!」

「『聖なる武器(ホーリーウェポン)』!」


「いいね!」


 ロレッタとシルヴィアの補助魔法が重ねられていくたびに、リナの動きは鋭さを増し、段々と目で追えなくなっていく。

 少しずつ、アロガナの傷が増えていく。

 それでも、アロガナは楽しそうに笑った。


「こっちからもいかせてもらうぜ!」


 アロガナが剣を振り上げる。

 それに対し、シルヴィアが魔法を唱えた。


「『防護(プロテクション)』!」


 リナを守るように、六角形の防御バリアが張られる。大抵の攻撃は弾いてしまう、シルヴィアの強力な補助魔法だ。

 しかしアロガナは、より一層力を込めて振り上げる。


「ハアッ!」


 凄まじい力で振り下ろされた曲刀が、防護のバリアを粉砕しながら振り下ろされた。

 アロガナの本気の一撃は、シルヴィアの防護をも貫通するのだ。


「んっ?」


 しかし振り下ろしの直前、リナは大きく後ろに飛んでいた。

 曲刀の振り下ろされた先には、リナはいない。


「『氷爆発(フロストノヴァ)』!」

「やっべ」


 一度戦ったことがあるゆえに、リナはアロガナの動きのクセをよく知っていた。

 アロガナは、防護の魔法を見ると、それを粉砕するために全力で曲刀を振り下ろす傾向があった。

 ゆえに防護の魔法を合図に、リナは距離を取り、ロレッタが大魔法を打ち込んだ。


 凄まじい冷気が爆発して、扇状に前方を凍り付かせる。

 大ぶりな一撃で大きな隙を見せてしまったアロガナは、それを完全には避けきれない。


「ぐおお!」


 身体が半分以上氷漬けになり、アロガナはその場に縫い付けられてしまった。

 すかさず、リナが接近して斬りかかる。


「ぬがああぁ!!」


 斬りかかるリナに対し、氷漬けになったアロガナは無理やり身体を捻って、曲刀を振り回した。

 リナは冷静に距離を取り、アロガナの乱暴な攻撃を避ける。

 氷漬けになった状態で無理やり暴れた事で皮膚が剥がれ、かなり出血していた。


「やるねぇ! オレにここまで手傷を負わせる奴は、そうはいねえぜ!」


 不利になっても、楽しげにアロガナはそう叫ぶ。動きは大して鈍っていない。

 リナは何も言わず、アロガナと対峙した。

 それから再び、2人は切り結んだ。


 実力は、完全に互角。

 強化魔法を幾重にも掛けられたリナと、手負のアロガナ。

 リナは多少強引にでも攻め込んでいく。


「『治癒(ヒール)』!」


 リナが負った小さい傷は、シルヴィアが癒しの奇跡で治してくれる。

 後はもう、時間との勝負だ。


「ロレッタ、強化を切らさないでくださいね」

「う、うん!」


 互角と言っても、リナに掛かっている強化魔法の効果が切れてしまうと、不利になるのは明らかだった。


 そろそろ強化魔法の効果が切れそうな頃、ロレッタとシルヴィアは魔法の準備を始めた。

 いよいよ魔法の効果が切れる寸前、シルヴィアが先に魔法を唱える。


「『防護(プロテクション)』!」


 リナの前に、再び六角形のバリアが張られる。

 同時に補助魔法の制限時間が切れた。

 リナもまた、自身に強化魔法を掛けようと立ち止まった。


「『短時間強(ブース)』……」

「それは」


 アロガナは、再び曲刀を大振りに構えた。


「させねぇぜ!!」


 再度、アロガナの強烈な縦切りがバリアを真っ二つに砕く。

 リナはそれを読んでいたのか、魔法を中断し、身体を捻って攻撃を回避した。


「『敏捷強化(クイックネス)』!」


 すかさずロレッタから補助魔法が飛ぶ。

 しかしまだまだ、アロガナと互角に打ち合うための補助魔法は足りていない。


(ここだな)


 手負のアロガナは、ここが勝負の分かれ目だと勘付いていた。

 強化魔法を何重にも掛けられたリナには、いずれ押し切られるだろうと。

 狙うなら、強化魔法の切れ目である今しかない。


「おらおらぁ!!」


 乱暴な、しかし確実にリナを狙って、曲刀が振り下ろされる。

 一撃でも当たれば、致命傷になりかねない、重い攻撃。それが何度もリナ目掛けて襲いかかった。


「『聖なる鎧(ホーリーアーマー)』!」

「『鋭さ強化(シャープネス)』!」


 再び、リナに強化魔法が重ねられていく。

 それでもアロガナの連続攻撃は止まらない。

 リナが自己強化魔法を使う暇を与えない。


「『防護(プロテクション)』!」


 痺れを切らしたシルヴィアが、再び防護の魔法を使った。

 同時に、リナが背後に飛んで距離を取る。


「させねえよ」


 アロガナは、六角形のバリアを無視し、横に回って通り抜けた。

 そのまま、距離の空いたリナに再び距離を詰める。


「おらぁ!」


 強引に、リナに斬りかかる。

 しかし、その攻撃は、少し強引すぎた。

 リナは魔法を使わず、逆にアロガナに接近して、懐に潜り込んだ。


「魔法剣、風」

「しまっ……」


 使うのは、攻撃のための魔法剣。

 剣に風の力を纏わせ、一瞬にしてその剣を切り上げた。


 風の力によって尋常ではないぐらい鋭くなった刃先が、鎧の隙間を縫うように、アロガナの身体を裂いた。


「ガハッ……」


 流石のアロガナも、深手を負い、膝をついた。

 リナはまた少し距離を取って、油断なく剣を構える。


「流石にもう立てねえよ、マジでつええな、オマエら」


 まだ身構えているリナたち一行に、アロガナは笑って答えた。

 勝負あり、のようだ。


 リナは剣を持ったまま、アロガナに近づいた。


「……一度見逃してくれた貴方を、今度は殺さなきゃいけない……ごめん」

「バカ言うんじゃねえ、オレに取っちゃ、命懸けの勝負こそが、何よりの楽しみなんだよ。良かったぜ、オマエらとの死闘」

「そう……」


 リナは惜しむように目を閉じ、それから無言で、アロガナの首を刎ねた。

 これで間違いなく、最後の四天王である竜人アロガナは倒された。


「勝った……」

「やったぁ!」


 シルヴィアとロレッタが、それぞれ勝利に喜ぶ。

 リナは少し寂しげに、アロガナの遺体を見つめた後、仲間の元に駆け寄った。


「2人とも、ありがとう」

「うん、リナもお疲れ様! すごかったよ!」

「よく勝てましたね……よい動きでした」

「2度目だからね……」


 褒め称える2人に、リナは困ったような笑みを浮かべて言った。


「これで、あとは魔王だけ……」

「うん! この調子で、ドンドン行こう!」

「いやまずは街に戻りましょう。ちゃんと準備したいですし、報告もしないと」


 一行は一度街に戻り、身体を休めることに決めた。



 街に戻ると、最後の四天王を倒したという報告に、市民は大いに湧いた。

 勇者一行は大歓迎され、再び豪華な高級宿に案内される。

 おかげで、十分に身体を休め、疲れを取ることができた。


(いよいよだ)


 深夜、勇者リナはベッドの中で静かに思考を巡らせた。


 そう、いよいよ残されたのは、魔王との戦いのみである。

 仲間2人が亡くなり、残された勇者1人が原因で、争いが起きることになった。

 全てのきっかけとなる、魔王との戦い。


(2人は、死なさない)


 そのためにできることは、全てするつもりだ。

 懸念は1つ。


(わたし、本当に生き残っても大丈夫かな……)


 ロレッタやシルヴィアに聞けば、当たり前でしょと返ってくるだろう。

 心配なのは、2人がいてなお、世界が平和にならず、争いが起きてしまうこと。

 自分の存在が、邪魔になってしまうかもしれないということ。


(でも……)


 それでも。

 2人の想いに報いたい。

 2人を、大切にしたい。

 だからこそ。


(勝って、生き残ろう……)


 リナは、そう決意を固めた。



   ◆◆◆ ◆◆◆



 魔王城。

 勇者一行がたどり着いたその場所は、静まり返っていた。


「門が開いてる……」

「ほんとだ、吹き飛ばさずに済んだね!」


 魔王城の門は開き、魔物の気配はまるでない。

 入ってこいと言わんばかりの状況だった。


 本来、一度目に攻略した時には、無数の強力な魔物が襲いかかってきていた。

 今何もいないということは、今回は予定外の策を講じているということだ。

 それでも、リナはぶれない。


「作戦は、昨日説明した通りに」

「うん!」

「はい」


 リナの短い言葉と共に、仲間2人がそう呼応する。


「魔王はフェアな戦いが好みで、本来なら1対3で戦っていたけども」


 城に入りながら、リナが小声でそう補足する。


「今回は相当警戒してると思う……。伏兵がいてもおかしくない、気をつけて」

「了解です」


 恐らくだが、アロガナと同じく、勇者リナが四天王2人を圧倒していたことに、相当な警戒心を持って、準備しているだろうと。

 そう覚悟を持って、リナたちは城に入った。


「……何もいない……ですかね?」

「……魔物は、奥に固めて配置しているのかも」


 道中は、何も出てこなかった。

 魔王の待ち受ける、部屋の前まで。


「正々堂々と戦うつもりなのかな?」

「まだ、油断はしないでね」


 そう言いながら、リナは魔王の待つ部屋の扉を開いた。


 中は、リナは一度見たことのある部屋だった。

 王国の謁見室のような作りの広大な部屋。

 無数の扉が横側に並び、奥には豪華な椅子が設置されている。

 そこには。


「あ」


 一度見たことのある、姿。

 リナは凍りついた。


 椅子に座っていたのは。


「あいつが魔王?」

「なんか、角がないですね、人間みたい」


 その姿を、リナはよく覚えていた。


 2メートルを超える長躯。黒いコートに、傍に置かれた大きな斧。

 刈り上げた黒髪に、精悍な顔立ち。


「なん、で……」


 その男は、椅子を立ち上がった。


「なんで?」


 斧を取り、数歩前に出る。


「それは、お前が一番よく分かってるんじゃないか?」


 かつて、5年後のリナの首を切り落とした。

 あの時の処刑人の男は、そう言った。


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