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2話:勇者は仲間を追放することにした


「次の四天王は、わたし1人で戦わせて欲しい」


 リナが目を覚ましてから2日後。

 怪我の治療も終わり、リハビリを少ししてから、勇者一行は次の四天王の拠点へと向かう、その道すがら。

 リナの発した言葉に、ロレッタとシルヴィアはすぐに反発した。


「なんで!? だめだよ!!」

「……頭打って、どうかしてしまいましたか?」


 すっとんきょうな声を上げて否定するロレッタ。リナの頭の状態を心配するシルヴィア。

 そんな2人を見て、リナはなお話を続ける。


「多分、今の状態なら1人でやれると思う……」

「だからなんで!? 四天王相手に3人かがりで戦って死にかけたばっかじゃん!!」

「もうちょっと休ませる必要がありそうですね、いったんここで休憩にしましょう」


 そう言って、勇者一行は道端で休憩を取る事になった。


(やっぱりダメか……)


 リナの無茶な申し出に、2人は明確に拒否反応を示した。

 3人がかりでも四天王が1人、獣王ガムルに勇者が深手を負ったのだ。

 次の四天王に勇者1人で挑むだなんてのは、自殺行為にしか見えないだろう。


 しかしそれを通したい理由が、リナにはあった。


(2人を、どうにか旅から引き離さないと……)


 理由。それは、ロレッタとシルヴィアの2人が魔王との戦いで命を落としてしまうから。

 もしかしたら今度は魔王との戦いで死なないかもしれないが、念には念を入れたいと考えていた。


 今のリナには、魔王を討伐した時の記憶と経験が残っている。

 四天王の特徴も、魔王の強さも、記憶に残っている。

 激しい戦いで培った経験もなんとか残されていると、先日までのリハビリで感じ取っていた。


「今なら、1人でやれると思う」

「絶対3人でやった方がいいでしょ!?」


 リナの主張に、もっともな反論を返すロレッタ。

 やはり明確な理由なしに2人を引き剥がすのは難しそうだった。


「何か考えがあるんですか?」

「えっと……」


 リナの言い分に、シルヴィアは静かにそう尋ねてきた。

 一瞬、悩む。

 処刑前の記憶を、2人と共有すべきか?

 荒唐無稽な話だが、2人なら信じてくれるかもしれない。魔王との戦いも、危なげなく勝利できるかも。


 しかしそれではダメなのだ。


「なんとなく……」

「それじゃあ納得しませんよ」

「そうだそうだ!」


 ため息をついてそう言うシルヴィアと、それに同調するロレッタ。


 理由については、リナは口をつぐんだ。

 この戦い、勇者と魔王は相打ちでなければならない。

 ゆえに彼女らに事情を打ち明けるわけにはいかない。

 ロレッタもシルヴィアも、とても優しい。

 魔王と相打ちになろうなどと知られたら、全力で止めにくるだろう。

 だから黙っている事にしたし、2人を引き剥がせるようになんとか説得したいのだ。


「どうしてもだめ……?」

「そんな顔してもだめ!」

「あのですね、理由もなく勇者を1人で向かわせて死にでもしたら、私たちも責められるんですよ?」


 2人はまたも否定した。

 シルヴィアに関しては、最もな意見である。


「わかった、みんなで行こう」


 リナは仕方なく、折れる事にした。



   ◆◆◆ ◆◆◆



 2人目の四天王、妖術師ボロンバは、荒地の砦の中に滞在している。

 砦の外にも魔物は居たが、難なく撃破し、中に入ることができた。

 問題は、その砦の中にある。


「もーー!! 罠だらけじゃん!! やになっちゃう!!」


 砦の内部に入った勇者一行のうち、魔法使いのロレッタがそう叫んだ。


 ボロンバの守護する砦の中は、とにかく罠、罠、罠。そこらじゅうに罠が敷き詰められ、飛行する魔物が一行を翻弄する。


「マナを探知して、それで魔法式の罠は見れるから。あと通路の端にはほとんど罠がないから、端を歩いて」


 リナが淡々とそんな指示を出す。

 マナ、魔法の源となる力。魔法使いであるロレッタには、それを見分けることができた。

 かく言うリナも、昔ロレッタから学び、マナを感じ取り、今や魔法の罠は簡単に見破れるようになっていた。


「なんだか……手慣れてますね、罠が全部見えてるんですか?」

「……別に、全部見えているわけじゃ、ない」


 シルヴィアの質問に、リナは素っ気なくそう答えた。

 砦には、マナを使用する魔法式の罠と、魔法を使っていない物理的な罠の2種類がある。

 リナはそれらの罠を見破り、飛来する魔物を撃ち落とし、すいすいと砦の中を先導していた。

 まるで、罠が見えているかのように。


(初めて来た時は、苦戦したな……)


 実際全ての罠を見破ったり記憶しているわけではない。

 ただ、罠は通路の中央に集中しており、分断や足止めに特化され、空を飛ぶ魔物がトドメを刺しにくる。

 そんなボロンバの砦の構造に、一度苦しめられたリナにとっては、二度目の攻略は容易い事だった。


 罠はマナを探知して、端を歩けばほぼ回避できる。

 魔物は罠さえなければ弱い部類だ。

 容易く罠の通路を突破していくリナに、最初は不思議がっていたロレッタとシルヴィアだったが、今は大人しくリナの跡をついて歩いている。


「また敵っ!」

「ん」


 飛び出してきた魔物に、ロレッタたちが身構える前に、リナが剣を振るう。

 数メートル離れた敵さえも、リナが剣を振るうと斬撃が飛び、相手を真っ二つに両断した。


「またリナが倒しちゃった! あたしにも戦わせてよ〜!」

「この方が、はやい」

「…………」


 リナは、徹底して自分だけで戦っていた。

 罠に注意を払いつつ、出てきた敵を一瞬で葬りさる。

 魔物の出る位置は、決まって罠の密集地帯。

 それさえ理解していれば、出てきた敵を一瞬で撃破するのも容易い。

 2回目の攻略だからこそ、できる内容であった。

 仲間2人は、出るまでもなく、ただただ先導するリナについて行くだけしかできない。


「まるで一回来た事があるみたいな動きですね」


 シルヴィアが、どこか疑うかのようにそう言った。

 大当たりだ。

 まさに一度来たことがあるからの立ち回り。

 それでもリナは、淡々と告げる。


「冗談でしょ。……もう着くよ」


 そう言って通路の角を曲がった先、大きな扉が見えた。

 あの奥に、次の四天王がいる。


「も、もう着いちゃった」

「流石に準備しますよ。支援魔法を掛けるので止まって……ちょっと!」


 一度立ち止まろうとするロレッタとシルヴィアだが、リナは1人、扉を押し開けた。


 扉の先には、予想通り、四天王の1人が待ち構えていた。


 人間の老人に似た見た目だが、青白い肌に、頭に生えたツノ。豪勢な意匠のローブを身に纏った、醜い容姿の魔物の魔術師。

 魔王の直属の配下である四天王の1人、妖術師ボロンバである。


「もう来おったか……何という速さじゃ……」


 しわがれた声でそう呟くボロンバ。

 しかしすぐに気を取り直したかのように、勇者一行に問いかける。


「一体なぜ、儂の仕掛けた罠の数々を、こうも器用に掻い潜ったのだ?」

「それは」


 ボロンバの質問には、ロレッタとシルヴィアもリナの方を向いた。

 実際彼女たちにも、その理由はわからなかったからだ。


「答える必要はない」


 しかしリナは、そう言って剣を抜いた。

 ボロンバはため息をついて杖を構える。


「こうなっては仕方がない。小娘ども、魔王軍四天王が1人、妖術師ボロンバが、正々堂々迎え撃ってやろうぞ!」


 大声で開戦の合図を告げるボロンバ。

 それに対して、素早く杖を構えるロレッタとシルヴィア。


 しかしリナは、全く別の動きを見せた。


 素早く左手側、シルヴィアの方に向き直り。


「えっ」


 剣を、一閃。

 ビッ、と鋭い音が鳴り、シルヴィアの頭の僅か上を薙ぎ払うように、斜めに斬りつけた。

 一見すると、何もないように見える空間。

 しかしそこには、確かに何かが存在していた。


「グオオオ!!」

「え!?」

「なっ……!」

「なんじゃと!?」


 何もなかったはずの空間から、大柄な魔物が突然姿を現し、そのまま断末魔の悲鳴をあげて倒れ伏した。

 突然の状況に、ロレッタが、シルヴィアが、そしてボロンバさえも驚きの声を上げていた。


 これは、ボロンバの仕掛けていた罠であった。

 姿隠しの魔法で透明になった魔物が、扉の裏側で隠れて待機していたのだ。

 ボロンバの「正々堂々迎え撃つ」という言葉を合図に、回復役であるシルヴィアに奇襲を仕掛ける手筈であった。


 しかし、その戦術はリナがすでに経験していた。

 道中の罠も含めて、ボロンバの策略は全て把握している。

 この部屋の中の仕掛けも、リナは全て見抜いていた。


「目眩しは、わたしには無意味」

「くそっ! 全員でかかれぇ!!」


 ボロンバのその声を合図に、部屋の中に隠れていた魔物が一斉に姿を現し、戦闘体制に入った。

 透明化して待機していた大型の魔物が、最初に倒されたものも含めると、計8匹。

 ボロンバだけしか見えていなかったはずの部屋が、一転、魔物だらけの部屋になった。


「なっ! 何が正々堂々ですか!」

「そ、そーだそーだ! ひきょうだぞー!」


 1対3のように見えていた盤面が、いきなり9対3の戦場に変わった。

 シルヴィアが怒りの声を発し、ロレッタもそれに賛同する。


「はんっ! この程度で卑怯などとは片腹痛いわ! 我が魔術の恐ろしさはこんなものでは……」


 それをボロンバが鼻で笑う最中にも。

 リナはすでに、行動に移っていた。


「グガアアアア!!」

「グオオオ!!」

「2、3……」


 姿を現した直後にすでに剣は振るわれ、魔物がさらに2体、断末魔の悲鳴をあげて倒れ伏す。

 勇者はさらに前進し、剣を振るった。


「グアアア!!」

「ギャギャアア!!」

「4、5……」


 動き出しの僅かな隙に割って入るように、さらに2体の魔物が葬られる。

 あっという間に、5体もの魔物が倒されてしまった。


「そ、そいつを足止めしろ! 死んでも前に出すな!」


 ボロンバが残りの3体の魔物に指示を出し、魔法の呪文を唱え始めた。

 一斉に踊りかかる魔物たちは、少し距離があり、バラバラな位置にいたのもあって、まとめて倒すのは難しい。

 それでも、リナを苦戦させるほどの相手はいなかった。


(最初はあんなに苦戦したのにな)


 そんな物思いに耽ることができるぐらいには、リナに余裕はあった。


 ボロンバと1回目に戦ったときは、まんまと奇襲を受け、シルヴィアが真っ先に大怪我をした。

 その後隠れていた魔物たちをリナが必死に足止めし、ロレッタが魔法で応戦していた。

 その策略には本当に苦戦させられたと、リナの記憶にしっかりと残っている。


 しかし今のリナは、魔王も倒した後の、2度目の挑戦。

 奇襲も伏兵も全て分かっており、強敵でもない魔物の群をたたき伏せるのは、わけもない事であった。


「6……7……8……」


 瞬く間に8体の魔物が葬られた。

 しかし同時に、ボロンバも魔法の呪文詠唱を完了させていた。

 リナとボロンバとの距離は空いており、今から駆けつけて切り伏せるには、間に合わない。


「リナ!」

「危ない!」


 ロレッタもシルヴィアも、戦闘態勢は整えていたが、目まぐるしく敵を倒していくリナと、まったく連携できないでいた。

 ボロンバの魔法に、咄嗟に援護ができなかった。

 魔法が、完成する。


「食らえい! 『爆裂火球エクスプロシブ・ファイアボール』!!」


 巨大な火の玉が、ボロンバの杖から放たれた。

 当たれば大爆発をする、必殺の魔法。食らえば勇者リナとてただでは済まないだろう。

 しかしリナは、飛んできたその魔法に対して、勢いよく剣を振るった。


 ドオオオオン!!


 大爆発が起きた。

 しかしそれは、リナの方ではない。

 ボロンバに火球が直撃し、爆発、ボロンバは一瞬にして火だるまになった。


「ぐあああああ!!」


(剣で魔法を……打ち返した!?)


 リナが行ったのは、剣を勢いよく火球に叩きつけただけ。

 彼女の持つ特別な剣、聖剣であれば、魔法を切り払ったりすることも可能だ。

 しかし高速で飛来する火球を打ち返し、さらに術者に跳ね返すなどというのは、もはや人間離れした技量である。

 リナは、そんな曲芸を、難なくやってみせたのだ。


 ボロンバの見せた大きな隙を見逃さず、リナは一瞬で距離を詰めた。

 そして剣を一閃。


「ガハッ……」

「9」


 首に剣を突き刺して、トドメを刺した。

 瞬く間に、ボロンバと魔物の群れを倒してしまった。

 四天王が1人ボロンバは、哀れにも、勇者一行に傷一つすら与えられずにその生涯を終えたのであった。


「ひ、1人で倒しちゃった……」

「すごいよリナ!」


 あっけに取られるシルヴィアに、大手を挙げて褒め称えるロレッタ。

 リナは剣を納め、そんな2人の元へ戻ると、淡々と呟いた。


「これなら、大丈夫そう」

「ん?」


 リナの言葉に、首を傾げる2人。


 そんな2人に、リナはこう切り出した。

 なるべく冷淡に。

 表情を崩さないように。


「ここから先は、わたし1人で十分」


 一歩前に出て、リナは2人に言った。


「2人は国に帰って。足手まといになるから」


 そう、リナは。

 ここで2人の仲間を、追い払うことにした。


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