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世界一キライな男が夫であるという悲劇

作者: ささあきら
掲載日:2022/01/19

嫁、ついに呪術に目覚める!

ダンナが嫌いです。



理由を訊かれても、色々ありすぎるし、

他人様の共感が得られる気はしません。


だから話しません。


いつから?


それは、結婚してから割と早い段階で。

趣味も合わないし、マザコンだし、ケチだし、

最悪なのは、ママ(姑)同居ってこと。



なら、何で結婚したかって?



経験したらわかると思うけど、「流れ」ですよ。

何かこう・・・逆らえない流れってあるんですよ。



結婚ってね?乗っちゃうと流されるんです。

足元を掬われて、ああ~っ!て、

首傾げながらもがくうち、気が付いたらね?


「おかえり」


そこは、生涯の宿敵、オカンとゆー鬼が待つ、

鬼の住処…もとい、新居だったっつー。。。



勿論、大恋愛で結婚して、一生ラブラブなご夫婦も

存在するとは思うんですよ?


でも、私はそうじゃない。


気付いた時には遅かりし。

新婚旅行の大荷物を引きずって、

引き攣り笑顔の新妻=私がそこにいました。


鬼殺隊の皆さーん!

ここにリアル鬼、居まーーーす!



それからまあ、何だかんだで

月日は経って今に至るけど、

ダンナが嫌いと言う事実は、揺ぎ無い私の根幹。

だから、私は・・・・・・



『呪術入門・初級編』


その本は、この田舎町の古い図書館の、

誰も行かなそうな暗い一角で、ひっそりと、

でも確かに私を呼んでいました。


いや別に、某大人気アニメの影響とか、

そんなんじゃありませんよ?


でもその本の佇まいってゆーか、

不気味な古さと静けさが、私を吸い寄せた。

そんな感じです。



それから何度も同じ本を借りて、

熟読しました。

そして、密かにハーブを育て、石を拾い、

呪文を覚えて、体力もつける。


ストレスに弱りがちだった私は、

お陰で結構、元気に明るくなりました。


私の放つ呪力に影響され、

苦しむダンナと姑を空想すると、

スカッと気分が晴れますし、

思わず笑みが浮かびます。


「何?お前この頃よく笑ってんな?」


「え?あ、うん。図書館の本が面白くて」


「へー。お前、結婚前から本好きだったよな」


「うん」


「初めてお前の部屋行った時、本多くてビビった」


「そう?」


「あれ、実家に置いてんの?」


「・・・いや」



結婚前、姑に呼び出され、

本は新居に持って来ないでと言われました。


「どうせ結婚したら、家事が忙しくて

本読むヒマなんて、ないんだからね」



後ろ髪引かれる思いで、残してきた愛蔵書たち。

実家のリフォームの際、処分されてしまいました。


どれもこれも、何周読んだかわからないほど

繰り返し読んでいましたから、

シーンもセリフも、皆記憶していますが、

それでも少し、泣きました。



私は、善良な人間ではありません。

良き妻でも、嫁でもありません。

社会の役にも立ってないし、ボランティアもしない。


でも、法に触れる事はしない。

他人を進んで傷つけたりしない。

仕事はちゃんとする。

頼まれたら、出来るだけの協力をする。


まことにつまらない、

ホントに平凡な私という女。


でも、それも終わりよ!



失った蔵書への愛を力に変換する。

積もり積もったダンナへの恨みと、

姑への怒りを心の中で燃やす。


育てたローズマリーの青い花を、

車道で轢かれ、欠けた小石に降りかける。


暗記した呪文を声に出さず呟き、

河原で錆びた銅貨を掌で包んだ。



「天の涙よ、地の嘆きよ」



私だって、泣きたい事たくさんあるのよ!



「風の叫びよ、木々の怨讐よ」



大好きだった黒松の大木、

無残に切り倒されて、野ざらしになってたよ。



「火の精霊よ、この声届かば、我に宿りたまえ!」



こんなの、バカげてると思うよ。

でも、どこかにぶつけたいだけなの。


悪意の無い悪。行き場のない憤怒。



怨気掌(おんきしょう)緑青炎(ろくしょうえん)!!」



握りしめた手を開くと、錆びて青緑に変色した銅貨が

緑の炎を上げて燃えあがりました。


不思議と熱くはない。

ただその光から目が離せなくなりました。


ボッ! 


低い音と共に、炎は消え、

銅貨も姿を消してしまいました。


掌には、薄赤い円の染みが残り、

そこからほのかに香る、ローズマリーの香り。



机の小石は、欠けた部分から裂けて

音も無く砕け散っていました。



「・・・やった」



妙な高揚感に、私はへたり込みました。

そして、天井を見上げて笑いました。


呪いは放たれた。


あとは私の力の強さ次第。




「たらいまー」


その夜、ダンナはいつもの時間に、

何事もなくヘラヘラ帰宅しました。


私の呪詛は、効かなかったのです。

また今夜も、酒に酔って八つ当たりされ、

精神的にいたぶられるのかと、ガッカリしました。


「いやー、今日は俺、ツイてなくてさー」


いつもはサッサと、風呂に入って

脱いだ服をちらかすのに、何となくショボつく夫。


「いつもの道は工事中で、迂回したら信号はことごとく赤でよ」


え?


「いつものウドン屋が急に閉店するってゆーし、

最後に一杯食ったら、クチの中ヤケドして痛ぇの!」


痛そうに顔をしかめるダンナに、胸が高鳴ります。


「ちょっと!それ本当?」


けたたましく登場した姑も、同じようにしかめ面。


「アタシも友達とコーヒー飲んでてさ!

何かこう、フワフワの泡が乗ってるヤツ!

そしたら泡の下、やたら熱くて上顎ヤケドよ!」


こ、こ、これは・・・?



「今夜は俺、染みるから酒もメシもいらね。

ヨーグルトと飲むゼリー買ってきたから、それ飲んで寝る」


わー。楽チン。


「アタシも夕飯要らない。観たいテレビあるから」


あら、お義母さんも?



二人が去ったダイニングで、

私は一人、初めての自由な孤独を楽しみました。



残ったおかずにラップを掛けたら、

冷蔵庫に片して夕飯終了。


「ふう~」


そっと掌を開いてみます。


赤い輪っかは薄くなり、消えかけていました。



「私の呪術、まだまだ甘いな~」



手を握ると、クスっと笑えます。


つまらない、ささやかな抵抗。

でも、一矢報いた感はありました。


偶然かも知れません。

でも、確かに何か超自然のパワーが

そこに介在したと信じたい。



「見てろよ、アンタら!」



精一杯、悪い笑みを浮かべてみた私。



「これから私をナメてると、

こんなモンじゃぁ済まないからね!」



*** おわり ***

結婚って甘くもないし、ゴールでもない。

でもずっと続いて行く。

変えるのは自分。


そんなお話でした。(笑)

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